魔界11
魔界には魔王という存在がいる。が、私はそれを見たことは一度もなかった。観光がてら一目見てから帰るとしよう。現在マークたちに魔王城の場所を捜索させているが、運よくこの魔貴族から場所を聞き出すことができた。
魔王城についたら、マークを呼び出すことにするか。
「イザベラ、魔王城に行く。」
「かしこまりました。」
「メアリー、魔王城に勇者どもを呼べ。」
勇者のたまごたちにも実際の魔王を見せることにしよう。その方がいい経験になる。
「かしこまりました。」
「が、その前に、ハーヴェストがそこに倒れている。介抱してやれ。」
「……すぐに!」
メアリーはハーヴェストが遠くで倒れていることに気づくと、すぐにそちらへ向かっていった。
「そこの魔族。」
「は、はい。」
正確には魔貴族だったか。いったいどれほどの強さかと思っていたら、グルンレイドのメイド見習いと同程度ではないか。
「じきに、お前の息子どもは目を覚ます。安静にさせておけ。」
返事をするとすぐにメイドに指示を出し、息子たちを城の中に運ばせていた。
私のメイドであるリアを傷つけたことは、それほど気にしてはいない。治癒魔法で治せばそれまでだからだ。しかし、傷をつけておいて謝らないということが許せなかった。だからこの件はこれでしまいだ。だが、リアに直接謝らせる必要があるな。
「お前の息子に伝えておけ。いつか、リアにも謝りに行くように、とな。」
そうして私は背中を向ける。
「それでは向かいましょうか。」
「うむ。」
先の魔貴族が魔王城の場所を言っていたようだが、私は一度聞いただけでは覚えることができなかった。が、イザベラが覚えているらしいので連れて行ってもらうことにする。
「それでは、ヨグ・ソトース!」
魔王城へ飛んだ。
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ここが魔王城か。私の屋敷よりずいぶんの立派ではないか。湖の先にある、山のふもとまで飛んできたが、そこからでも見えるほど大きな城だった。ここからはせっかくだ、飛行魔法を使用して、周辺の様子を見ながら進んでいくとしよう。
「イザベラ、飛べ」
「かしこまりました。フライ」
見る限り普通の山だが、やはり魔力密度が違う。人間界とは違い、自然に魔物が発生することはないため安全といえる。この魔界には意思持ちの魔物しか存在しない。そんなやつらがこんな森の中に住むとは思えない。
「おい、そこのワイバーン」
魔王城の近づくと、ちょうどワイバーンが通りかかったので、声をかける。魔王への連絡なしに魔王城へ来たため、一度私が来たことを伝える必要があるだろう。
「に、人間!」
「魔王に会いたいのだが、どうすればいい。」
「に、人間を通すわけにはいかない!」
すると話を聞きもせずにこちらに襲い掛かってきた。
「シンクロナイズ」
イザベラが精神支配の魔法を唱える。
「さすがだな。私も情報を引き出す必要があると考えていたのだ。」
「いえ、私がこの魔法を唱えることなど百も承知だったのでしょう。」
そういって頭を下げる。できたメイドだ。
「魔王に会いたい、どうすればいいのだ。」
「私がご案内いたします。こちらです。」
私の質問に素直に答える。うむ、やはり素直が一番だ。
後ろをついていくと魔王上の入り口に降り立った。
「おい、まて。」
さっきとは違うワイバーンに止められる。おそらく門番だろうな。
「そいつは誰だ。」
私たちのほうを見ながらそういう。
「あれ、えっと……。」
ワイバーンが考える。が出てくるはずがない。まだ名を名乗っていないのだからな。
「私はグルンレイドの領主、ジラルド・マーグレイブ・フォン・グルンレイドという。」
「人間か!なぜここにいるかはわからんが、通すわけにはいかん!」
またしても襲い掛かってくる。なぜ話を聞かんのだ。人間がそんなに嫌いか?
「シンクロナイズ、魔王の元まで案内してください。」
「かしこまりました。」
同じようにイザベラの魔法によって精神支配される。場内はこの門番に案内させることにした。
ーー
やはり広いな。中に入ってみてみるとその大きさがよくわかる。王国のように街中にでも城を立てたほうが何かと便利だと思うが……。なぜこのような山奥に建てたのかは気になるところだ。
周囲を見渡すと城内を歩いているメイドをちらほら見かける。そのうちの一人と目が合ってしまう。
ガシャン!!
「に、人間!」
持っていた皿を地面に落としてしまったようだ。もったいない。あれはかなりいい皿だろうに。するとその声を聞いたほかのメイドが気づき、そのフロア一帯の注目を集めてしまう。
……こうなったら直接会ったほうが早いな。
「とらえろ!ファイアーアロー」
「アイスロック!」
「ライトニング!」
一斉に私めがけて魔法が発動される。
「バニッシュルーム」
イザベラによって魔法が拡散される。魔力拡散率、ざっと1000分の1ということろか。さらには魔力密度が低いものはその場に倒れていく。
「ど、どうなっている!」
そのほかの倒れていないものも、力が入らずに膝をついてしまっていた。地上の魔物は魔力拡散が強すぎると存在そのものが消えてしまうが、魔界にいるような意思持ちの魔物は魂があるので存在が消えることはない。
「ヨグ・ソトース」
私この城の中で最も魔力密度が高いところへと移動する。
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「下が騒がしいと思ったら、まさか人間の仕業だったとのう。」
「はじめまして。私はグルンレイドの領主、ジラルド・マーグレイブ・フォン・グルンレイドという。」
城の最上階、そこには十歳程度の幼女が玉座に座っていた。
「かっかっか!私を前にして自己紹介とは、貴様おもしろいの!」
けたけたと笑っている。ふむ。魔王というともっと恐ろしい見た目かと思っていたが、可愛らしいものではないか。
「わしは魔王、トルティーヤ・ブラッド・ビクトリアじゃ。」
真っ黒な目がこちらを凝視している。その光彩の周りには光の粒子が舞っている。魔眼……か。
「さて貴様、魔界の王であるわしに何用じゃ?」
「特に用などない。しいて言えば、魔王とやらの顔を見に来たということだな。」
「かっかっか!面白い、面白いの!貴様!」
面白いことなど何も言っていないのだが、楽しいようでなによりだ。
「では、私はこれで帰るとしよう。」
目的は達成できたのだ、あとはゆっくりとグルンレイド領に戻り、休暇を取るとするか。
「おい、待たんか。」
すると魔王に呼び止められる。
「その理由が何であれ、わが魔王城に無断で侵入し、何もせずに帰られると思っておるのか?」
周囲の魔力密度がさらに濃くなる。瞳の中の光がさらに激しく動き出す。確かにただで見学をするというのも失礼なものだ。……金か?やはり金だな。
「すまない。金を払うべきだな。」
「魔石などいくらでもあるわぁ!」
「では何なのだ。」
「貴様の腕……いや、目をよこすのじゃ。」
「いま……なんと?」
イザベラが口を開く。その瞬間魔力密度が急激に上昇する。
「やめろ。」
「……かしこまりました。」
魔王をにらみながら、イザベラは私の横に戻る。
「な、なんじゃ、そのメイドは!?」
急な魔力密度の上昇に魔王も少し驚いているようだ。イザベラは私のこととなると過剰に反応してしまう癖があるのだ。
「すまない、何でもないのだ。それでだ……もう一度聞こう。いま、何と言った?」
「……聞き取れなかったか?目をよこせといっておるのじゃ。」
聞き間違いではないか。
「それが貴様の答えか?今その言葉を取り消せば、冗談だったと笑って許そう。」
「冗談ではない。」
……そうか。それは残念だ。せっかく穏便にことをすませ、帰ろうと思ったのだが、魔王がその気なら私も対抗しないわけにはいかないではないか。
「安心するがいい。しっかりと手加減をしよう。」
「誰に向かって行っておるのじゃ。」
私の前に出ようとするイザベラを止め、私がさらに前に出る。魔王というのは、いったいどれほどの強さか、試すことにしよう。




