魔界12
魔王城に侵入してくる愚か者が、まさか人間とはのう。わしも何度も人間を見ているが、どれも取るに足らない、軟弱な存在だった。
「人間ごときが、最後に言い残すことはないか?」
「特にない。なぜなら最後ではないからな。」
どこまでも減らぬ口よ。
「そうか、ではさらばじゃ。」
そういって魔力密度を上げる。魔法を使わずとも魔力密度を上げてしまえば、人間ごときそこに立っていることすらできない。……はずなのだが。
「どうして倒れないのじゃ!」
「簡単なことだ。まだ魔力密度が薄いのではないか?」
これほどの空間で生きていられるということは、こやつは人間の中でも強い部類に入るだろう。魔界にやってくるような人間には、たまにそのような存在がいるのだ。
「ではこちらから行くとするか。」
「どれ、一発くらいは受けてやろ……!」
「メルトダウン・絶唱」
「あ……」
音が消えた。空間が歪み、すべてを溶かす魔力の流れのみがこちらへ近づいてくるのが見える。
「え、エアヴ……がああっ!!」
熱い、体が溶けていくのを感じる。く、くそっ!回復が間に合わない、瘴気も吸収しなければ!このままでは、本当に、死……!
「ぐ、ぐあぁぁあっ!し、死ぬかと思ったわぁ!」
「ほう、魔神化のエネルギーでかき消したか。」
人間にこの姿を見せるとは思わなかった。が、こうでもしないと確実に死んでいた。なんなのだ、この人間は!……人間なのか?
少しするとわしの後ろから風が吹いているのが感じられた。……風?そう思いながら後ろを振り向くと、信じられない光景が広がっていた。
「え……」
城の壁は丸く破壊され、その奥の山が消え、さらにその奥の雲が消えていた。そしてその魔法が通ったであろう空間は大きくゆがみ、混沌が顔を覗かせている部分もあった。
「おぬしは魔界の脅威となりえるやもしれん。ここで消す!」
結界がやつを包み込み、時間とともに相手の動きを止める。
「獄炎!」
周囲から黒い炎が現れ、人間を包み込んでいく。完全に火に飲まれているが、念のためにもう一撃加える。
「ライトムーン」
魔法によって強化した爪で、音速を超えて相手を切りきざもうとする。が、
ガギィン!
「っ!」
き、切れない。顔にとどく直前で止まる。
「やはりな。」
その声はわしの動きを止めるのに十分だった。体が震え始め、膝から崩れ落ちそうになる。
「く、くるな!」
今までわしは『恐怖』というのもを知らなかった。誰にも屈せず、ただ一人孤高に生きてきた。敗北を知らなかった。
だが、震えてしまう。足がくすんでしまう。……これが、恐怖。
「どうした。少女よ。」
「あ……、」
一歩、もう一歩と黒い炎に包まれた人間が近づいてくる。その瞳はまっすぐこちらを見据えていた。
「あ、あぁぁっ!」
後ずさりしようとする足を必死に抑えて、魔眼を発動させる。これで思い通りに操作できるはず……
「と、思っているのだろう?」
不敵な笑みは、わしの心を折るのには十分だった。
初めて感じる『恐怖』というものに戸惑っていると、急にそばの空間が歪みメイド服を着た人間が出てきた。
「メイド長からの魔法によるメッセージでここへ飛んできたが……これはどういう状況だ?ボス」
その後に続いて3人のメイドが出てくる。こやつやつらもあの恐ろしき人間の仲間なのだろうか。……そのうちの三人は勇者ではないか。
「魔王らしいのだが、私の目が欲しいといってきてな。」
「魔王か何だか知らんが、それは命知らずにもほどがあるぜ……」
男があきれたような表情を見せる。魔神化した魔王を前に、この緊張感のなさ……こいつも普通ではない。
「そうだな。こうしよう。」
わしの作り出した黒い炎はいつの間にか消えていた。
「今からお前は一人の勇者と戦ってもらう。それに勝ったら私はおとなしく帰るとしよう。」
「か、勝手に決めるでない!」
「ほう、ならばこのまま戦いを続けるか?」
魔力密度がどんどん上がっていくのが感じられる。
「ま、待つのじゃ。本当に勇者を倒したらきさまはいなくなるのだな?」
「約束しよう。」
「し、仕方あるまい。その条件をのんでやるのじゃ。」
またしても黒髪のメイドがこちらをにらんでくる。
「生意気な口を……」
「イザベラ。」
「……失礼いたしました。」
そういってメイドが剣をしまい、後ろへと下がっていく。
「アイラ、ディアナ。この戦闘をよく見ていろ。」
三人いる勇者のうち、二人に語り掛ける。
「では、行け!マーク!」
「やっぱ俺ですよねぇぇぇーーー」
魔法によって私の前に一人の男が投げ飛ばされた。




