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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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魔界2

魔界遠征当日になってしまった。

 昨日覚悟を決めたはずだが、怖いものは怖いだろ。ヴィオラをちらっと見るが、澄んだ顔でこちらを見返してくる。そこではしゃいでる子ども二人とともに緊張はゼロ。すごいよお前ら……。


「皆きたようですね。」

 応接室という名の謁見室みたいな場所に集められた。この玉座はどう見てもこの国の王よりも立派なやつだろ。久しぶりにこの部屋に入ったのできょろきょろしていると、ヴィオラに肘でつつかれる。痛った!強い強い、つつくならもっと優しくしろって!


「ほう、マーク、お前が別パーティのリーダーか。これは安心だな。」

 ボスがそういう。


「ははは、そりゃどうも。」

 その笑みからはせいぜい死なないように頑張るがいい、というような感情が強く伝わってくる。


 最近になって分かったことだが、ボスは確かに怖い。しかし合理的な判断ができる人だ。いつでも殺せるというような目つきをしているが、むやみやたらに殺すようなことはしないだろう。

 それよりももっと危険なのは、その隣にいるやつだ。黒髪ショートの髪からのぞかせるその目は、主人に危害があればすぐに殺すという目をしているし、実際すぐ殺す。俺も何度死に目に会ったことか。マジで近寄らんほうがいい。


「それではただいまより、魔界へ出発します。魔法陣の上へ移動してください。」

 危険な奴、もといメイド長がそういう。


 魔界がどこにあるのかというのは、俺も以前から気になっていた。別の世界というわけでもなく、地の果てにあるわけでもない。地面の、はるか下だ。数千キロも掘り続けた先に瘴気結晶の層があり、さらにその下に魔界が広がっているらしい。単純な構造だが、そこまでたどり着く手段がないため、普通の人間には関係のない話だ。


 今回は俺たちグルンレイドだけが知っている方法で移動するようだ。魔法陣の上に乗ると、ボスの周囲に魔法陣が展開された。


「皆さん乗りましたね。それでは移動します。」

「ヨグ・ソトース」

 次の瞬間、空間がぐにゃりと歪んだ。気がつくと、俺たちは別の場所に立っていた。


 へー、空間魔法でこんなにあっさり移動できるとは。距離で言えばグルンレイド領から極東までの十倍は優に超えるはずだが、その感覚が全くない。一瞬だったのか、すごく長い時間が経ったのかよく分からなかったが、気がつくと巨大な門の前にいた。


 目の前にそびえ立つ門からは、ぞわりとした瘴気が漏れ出ていた。

 門の横に、一人のメイドが立っていた。そのメイドの姿は、一目見ただけで普通ではないと分かった。


 肌は人間のそれではない。金属のような物質でできていて、わずかに光を帯びている。その表面をゆっくりと光が流れていた。体型は人間の女性を模したような形で、背丈はヴィオラより頭一つ分低い。

 そして何より目を引いたのは、その瞳だった。一見すると神眼に似ているが違う。虹彩の周りに小さな光が浮かんでいて、それが絶えずゆっくりと動き続けている。感情を読み取ることが難しい、どこか機械的な目だった。生き物なのか、そうでないのか、とっさに判断できなかった。


「資格のないもの、排除する。」

 静かな、しかし有無を言わさない声だった。俺は思わず身構えた。ヴィオラも手を剣にかけている。アイラとディアナも珍しく無言だった。


 しかし、ボスが前に出た瞬間。

「ご主人様!?なぜここに!申し訳ありません!」

 さっきまでの無機質な声はどこへ行ったのか。そのメイドは頭を深く下げた。


「魔界に用ができた。通せ。」

「は、はい!もちろんです!」

 すると大きな門が徐々に開き始めた。それと同時に瘴気があふれ出てくるのを感じた。


「お前にはここに縛っていて悪いと思っている。が、それと同時に感謝しているということを忘れるな。」

「もったいなきお言葉……。時間の概念がない我が種族であるからこそできることです。どうかお気になさらないでください。」

 そのメイドの目をよく見ると、光が動いている。一瞬神眼かと思ったが、違うようだ。……あれはマシニングという種族特有の光彩だ。


「私、マシニングという種族を初めて見ました。……まだ存在していたのですね。」

 ヴィオラがそういう。確かにマシニングという種族がいたということは聞いたことがあるが、いまだに存在するというのはほとんど聞かない。


 なんて考えているとボスがずんずんと魔界に入っていく。それに続いて俺たちも門の中へ入っていく。


「皆様、行ってらっしゃいませ。」

 そう言ってマシニング族のメイドは頭を下げる。それはいつも見ている、美しい礼だった。


ーー


 門を抜けると、瘴気と魔力が入り混じったまがまがしい世界が広がっていた。自身の魔力密度が薄いものはすぐに魔力酔いを起こしてしまうだろう。

 それ以前に瘴気も満ちているので、耐性がないものや防御手段のないものはすぐに倒れてしまうはずだ。俺は勇者の称号の効果により瘴気に対する完全耐性を持っているので問題はないが、なぜか気分はすぐれない。


「ヴィオラ、大丈夫か?」

「ええ、問題ありません。」

 アイラとディアナは俺と同じ勇者の称号を持っているので問題ないとして、このパーティの中で一番心配なのはヴィオラだ。今は問題なさそうな表情をしているが、常に魔法による防御を行っている状態だ。無限に続くわけではない。


「辛かったら、すぐにいえよ。」

「は、はい。」

 いつもは強気のヴィオラだがたまにしおらしくなるのはなんでだ。調子狂うな……。


「マーク、手。」

「わ、私も!」

 新しい場所に来るといつもはしゃぐ二人だが、今回はそうはいかないらしい。ちゃんと怖がっている二人を見るのはかなり新鮮だ。が、それほどここは危険な場所だということを示している。


「ここからは別行動でいいな。危なくなったら呼ぶがいい。」

「お、おい!まってくれ!それホントに言ってるのか!お、おい……。」

 俺の抵抗もむなしく、ボスはどこかへ行ってしまう。マジかよ……。こんな危険な場所に置いてけぼりとはいい趣味してるぜ……。


「あなたの役割はお伝えしたとおりです。連絡役にはヴィオラを使ってください。それではお気をつけて。」

 そういってメイド長たちもボスについていく。はぁ……やるしかないのか。魔界の地図や魔界の通貨などは事前にメイド長から受け取ってある。ボスたちはゆっくりと例の魔貴族のもとへ直進し、俺たちは魔界の街を転々として魔王の城の場所を調査するという予定だ。


「ボスたちは3日くらいかけて魔貴族のところへ行くらしい。それまでに魔王の城の場所を突き止める。」

「かしこまりました。それでは一番近くの町まで転移します。」

 そういってヴィオラは俺の裾をつかんだ。子供たちもヴィオラに触れる。その瞬間俺たちは消えた。


ーー


 ヴィオラの神眼は時空間を支配できる。よってこの程度の距離を瞬間的に飛ばすこともそれほど難しいことではないようだ。魔法とはまた違うので魔力消費はないらしい。


 準備は万端、さっそく調査を始めようかと思ったが何やら視線を感じる。周囲からは魔物に見えるような魔法もかけているし何の問題もないと思うのだが……あぁ、こいつらのメイドの格好か。


「情報収集の前に、着替えたほうがよさそうだな。」

「着替え……ですか。」

 そういえば常にメイドの格好をしているから、普通の服を着ているヴィオラは想像できない。この綺麗な金髪にだったらどんな服を着ても似合う……何を考えているんだ俺は!


「ま、まあ、このままだと目立つしな。」

 魔物の町と聞くと貧民街のような街並みを想像していたが、そんなことはなかった。しっかりとした建造物があり、ウルフやオークなどが商いを行っていた。


「すごいですね。会話をしております。」

 一番驚くべきところはそこだ。俺たちが普段目にしている魔物は言葉をしゃべることもなければ、このようにコミュニティを形成するわけでもない。しかしやはりメイドの格好は目立つようだ、じろじろと見てくるものも多い。メインストリートのようなところを少し歩いていると服屋のような場所があったので、とりあえず入ることにした。


「いらっしゃいませー。」

 獣人の女が声をかけてくる。人間とばれるかひやひやしたが、ばれている様子ではない。おどおどしていると逆に怪しまれるので、あくまで自然に会話を始める。


「遠くから来たもんでな。こんな格好なんだ。適当に服を見繕ってくれ。」

「はい、かしこまりましたー。」

 魔界の通貨は魔石だ。主に魔石が保有している魔力密度が高いほど価値が上がる。それに加え、形や大きさなども価値に影響することがある。メイド長にもらった魔石がどれほど価値があるのかわからないのでかなりビビっている。足りなかったらどうしよう……。


「ではご予算の方を先に。」

「お、おう。」

 まずは手始めに一番小さい魔石を出してみせた。これで変な顔されたら間違えたふりをしよう。


「こ、これは!」

 これを見た獣人の女が手をたたく。すると奥から数人の魔物たちがやってきた。ば、ばれたか?


「これほどまでの魔石は今まで見たことがございません……。メンバー一同誠心誠意見繕いさせていただきます。」

 一斉に頭を下げた。……マジかよ。一番小さい奴だぞ?まあ結果オーライだ。


「う、うむ。」

 そういってとりあえず俺は座ることにした。俺以外の三人はそれぞれの店員に連れられ、店内をめぐっている。

 待っている俺に次々に飲み物やお菓子が出てくる。至れり尽くせりだな……。それとこの飲み物、飲んで大丈夫だろうか。いや飲まないと逆に怪しまれてしまう。ここは行くしかない。綺麗なグラスに注がれた水色の液体を飲んだ。


「おぉ、うまい。」

 程よい甘さと酸味が絶妙だ。なんていう飲み物なのだろう。


「それはよかったです。」

 といいながら扇のようなものであおいでくる。いや、そこまでしなくても大丈夫なんだが……。

 しかし会話すればするほど、見た目は違うが人間のような理性があるように思えてくる。もしかすると魔界にいる魔物と、地上の魔物は何かが違うのかもしれない。


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