フリーマウンテン3
「さて、ここからフリーマウンテンだよ。」
「案外道が整備されているんだね。」
レイリンが道なりに沿って視線を動かしていくと、ボロボロの看板が目に入った。
「なになに……山賊注意、だって。」
「忠告ありがたいけど、迂回するつもりはないよ。」
ここら一帯は平野の延長のような感じで、周囲に身を潜める場所なども存在しない。よって山賊などもこの場所というよりは、もう少し上の木々が生い茂っている場所にアジトを作る場合が多いようだ。3人はさらに山を登って行った。
「徐々に気を引き締めてね。周りの木々も高くなってきたから。」
フリーマウンテンは上へといけば行くほど木の高さが高くなり、森のような見た目に近づいてくる。しかし不思議なことに道だけは綺麗に整備されていた。
「不自然なほどに綺麗だね。これなら大きな馬車も通ることができるよ。」
「グルンレイドは手を出してないし……王国?」
「でも山賊がいる中でこんなふうに整備できるのかな……。」
クレアとレイリンはそのような会話を繰り広げる。
「あっ……みて。」
前方を見ていたオリビアが指を刺した先には半壊した馬車があった。3人はすぐに地上に降り立ち、その馬車を調べる。
「立派な馬車だね。多分貴族のものだよ。」
馬はどこにも見当たらず、前輪が破壊されドアは何かで叩かれたような後があった。パッとみでは中を見ることはできないが、瓦礫をどかしていくと馬車の中を見ることができるようだった。
「人はいない……ん?」
「どうしたのクレア……っ!」
クレアに続いてオリビアが馬車の中を除いた瞬間に、警戒体制に入る。しかし馬車の中にはいくつかの布と紙が散らばっているだけだった。
「クレア、下がって……バニッシュルーム!」
「きゃっ……こ、こないで!」
オリビアが魔力拡散魔法を唱えると、何もなかったはずの空間から1人の少女が現れた。自身の隠蔽魔法が解かれたことに気づくと、怯えるように後ずさる。
「女の子……私たちと同じくらいの歳かな?」
「や、やめて……助けて……。」
きているものからして平民ではなさそうだとクレアは判断した。貴族か、裕福な商人の娘の可能性が高い。
「何があったの?」
「うっ…っ……。」
怯えて会話になる様子はなかった。クレアはこの少女の様子から、この馬車が襲われたのはそう遠くないと推測する。仮に昨日襲われて食料も水もないこの馬車で過ごしたとすると、これだけ泣き喚くことができないくらい衰弱しているだろう。
「まずはここを離れた方が良さそうだね。オリビアちゃん。」
「了解。大人しくして。」
「いや、やめて!」
オリビアは少女を抱き抱えてここから離れようとしたが、激しく抵抗していてそれどころではないようだ。
「クレア……どうする。」
「この子にはちょっと悪いけど……ごめんね。マインドショック。」
「っ……。」
ガックリと少女はそのばに倒れ込んだ。それをオリビアが回収し、馬車の外へ移動する。
「レイリンちゃん、説明は後。ここから離れるよ。」
「ん、了解。」
馬車の外で見張りをしていたレイリンがそう答えた。オリビアが人を背負っているということに少し驚いたが、クレアの指示に従う。
今の3人の実力では常に観測魔法を展開することは大変なようで、ほんの数メートル程度しか観測することはできない。しかし今回は気を失っている少女の事情を知るための数分間、強力な観測魔法を唱えることにしたようだ。
「半径200メートルには人がいないよ。」
この中で一番観測魔法が得意なのはクレアだが、それでも半径200メートルという距離しか観測することはできなかった。
「了解……で、この子誰?」
オリビアが抱き抱えている少女を見ながら、レイリンはそう尋ねた。
「わからない。でも何があったか話を聞きたいから連れていくことにした。」
「気を失ってるけど……。」
「これはクレアがやった。」
オリビアがちらっとクレアの方を見る。
「ちょ、ちょっとその言い方だと私が危ない人みたいじゃん!」
慌ててクレアが弁解する。その間にオリビアは少女を地面に寝かせていた。
「綺麗な髪。」
「服も高そうだね。」
見た目から3人と同じくらいの年齢ということがわかる。そして手入れが行きとどている髪や豪華な服装が、ただの人ではないということを示していた。
「この子が目を覚ますまで休憩ね。」




