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極悪辺境伯の華麗なるメイドRe^2  作者: かしわしろ
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見習いメイド1

急に周辺貴族が私に面会をしたいといってきたときは何事かと思ったが、まさか奴隷商を開業したいから一番先に見てほしいということだとはジラルドは思いもしていなかった。なんなら、もしグルンレイドに対しての宣戦布告などだったら戦争もやむなしと思っていたところだ。


ジラルドは金が好きだが、それと同じくらいに“美しい“ものが好きだった。世界中を見て回り気に入った芸術品があれば値段を気にせず買ってしまうほどだ。


グルンレイドの屋敷に到着すると、ジラルドはニヤリと笑みを浮かべる。聖金貨数枚程度でこれほどの“美しいもの“を手に入れることができるとは思っていなかったのだ。


「名前は……アナスタシアだったな。」

「はい。」

ここはグルンレイドの屋敷の一室。貴族を招くような特別な部屋ではないにもかかわらず、絨毯やカーテンにかかっている金額は聖金貨一枚をゆうに超える。


「服を脱げ。」

奴隷にとって主人の言葉は絶対である。奴隷契約書で縛られている以上、命令に逆らった場合には罰がくだる。はるか昔は奴隷の行動を制限するために、金属の鎖などを足首などにつけていたようだが今はそんな非効率的なことはしない。


「……はい、かしこまりました。」

そういうとアナスタシアは服を脱ぎ始める。

「脱ぎました。」

床に服がたたまれて置かれている。こういうところに貴族の片鱗が見えるな、とジラルドは思った。


「アナスタシア、おまえの年を教えろ。」

「十四に、なりますわ。」

震えた声で答える。奴隷になったのは一年前ということだったため『買われる』ということが初めてなのだろう、かなりおびえている様子だ。


「後ろを向け。」

アナスタシアは指示に従い、後ろを向く。目立った傷やあざはなく、あの奴隷商の管理よよさが伺える。ただやはり貴族奴隷だとしても、奴隷としての扱い方に代わりはなく手や足の汚れも目立つし、匂いも多少きつい。


ジラルドはアナスタシアの金髪を触る。肩に少し掛かるくらいで、若干ウェーブがかっている髪はかなりボサボサの状態だ。


「んっ……。」

ビクッ、とアナスタシアの体が跳ねる。アナスタシアの恐怖心などを気にする様子もなく、ジラルドは次にするべきことを考えていた。


「ついてこい。」

次にやることは一つ……体を洗うことである。普段であればこのようなことはすべてメイドに任せるのだが、一番最初は買ったものの確認を兼ねてジラルド本人がやることにしていた。


ジラルドは美しいものを集めるという理由で奴隷を買っているというのもあるが、購入した奴隷をメイドとして教育し、他貴族へ高値売るという理由も存在する。そのため奴隷といえども身だしなみを整えることは高値で売れる第一歩となる。


奴隷商では体を濡れたタオルでふくくらいしか体を清潔にする方法はない。ジラルドはグルンレイドの屋敷内にある温泉、と言われるところに移動する。


そして、あらかじめメイドに沸かさせておいたお湯をアナスタシアにかけていく。もうすぐ春を迎えるがまだ肌寒さは残っていた。


「ヒートボール」

魔法によりお湯を熱空間で包み込む。ヒートボールは本来攻撃魔法の一種である。直径十センチほどの高熱の球体を相手に向けて投げ飛ばす魔法だが、今回は直径一メートルほどまで広げ、温度を適温まで下げて使用していた。魔法とは応用によっていくらでも有効活用できるのだ。


「……すごい。」

小さな声だったが、アナスタシアがそうつぶやいた。普通の人であればこの魔法の凄さなどわからないだろうが、貴族出身はある程度の魔法の知識を教え込まれるためジラルドの魔法の凄さがよくわかるのだろう。

魔法は才能の有無があれど、すべての人が使用することができる。しかしそれには師や先生の存在が不可欠である。それには莫大な金がかかり、裕福な商人や貴族でもない限り魔法に触れることなどないのである。ごくまれに才あるものが一度見ただけで使用出来たりもするが……それは例外と言えるだろう。


「息を止めろ。」

そういうと、温められたお湯がアナスタシアの全身を包み込む。お湯は細かな水流を起こし、アナスタシアの体の隅々まで移動し汚れを落としていく。呼吸ができないからか、それともくすぐったいからかわからないが悶絶した表情を浮かべていた。


髪にはこの青色の液体を、体にはこの透明な液体を加えつつ水流を加速していく。この液体はグルンレイド領内で作らせているもので、肌のケア、髪質のケア、保湿などをおこなえる優れものだ。


ほんの数秒で、アナスタシアの体は汚れひとつない綺麗な状態となった。仕上げに、ヒートボール内で風を生成し、吹きかける。


「ふむ。いい出来だ。」

金髪はさらに明るく、肌のつやも増している気がする。あとは服を決めるだけだが、グルンレイドに招かれた奴隷に限っては、それははすでに決まっているも同然だった。


「そこらへんに服が置いてあるだろう。それを着ろ。」

ジラルドはいつの間にか用意されていたメイド服に目を向ける。


「すぐにメイドが来て、貴様を部屋まで案内するだろう。とりあえず休め。」

そう言って、ジラルドは次の奴隷の元へと移動した。

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