人間界調査1
キサラ
魔界において強さは絶対の指標である。
その基準の一つがナンバリングだ。魔界全体にかかっている特殊な魔法の効果によって、魔族の強さは可視化される。その範囲は1から10。先代魔王がかけた半永久魔法だと聞いているが、詳しい仕組みは私にもわからない。
「ナンバリングって始祖の血を持つ存在は含まれないんだよね?」
魔界ナンバリング第九位、サナがそう言った。一見順位が低いため弱いと思われがちだが、ナンバリングされている時点で魔界の中でも圧倒的な強さを誇っていると断言できる。金色の短い髪を揺らしながら、サナはあたりを物珍しそうに見回している。見た目はどこからどう見ても子どもだが、その拳には魔界の岩盤を粉砕する力が宿っている。
「そうだね。」
「どうやってナンバリングされてるの? 気になるわね。」
第七位、イリーナがそう言った。長い水色の髪が風に揺れている。物腰は柔らかいが、その魔力密度はサナを凌駕する。私たち三人は魔界を移動しながら、さまざまな「人間」についての情報を集めている。魔界において人間とは、魔物に比べて強いとされる種族だ。とはいえ私たちのような魔族と比べれば大した脅威ではないが、一般の魔物たちにとっては恐怖の対象でしかない。
「先代魔王がかけた半永久魔法、のはずだけど詳しくはわからないかな。」
言い忘れたが、私の名前はキサラ。第三位。一見対等な感じで接しているが、根本的な部分では二人は私に従う存在だ。魔界において強さは絶対の指標だからこそ、順位が一つ違うだけでもその実力差は大幅に異なる。
「とうちゃーく!」
ぼうっと魔界を飛んでいたわけだが、サナの声で目的地にたどり着いたのだと気がついた。
「ここが魔界の門……ね。」
ぐるりと周囲を見渡しても、特に変わった場所というわけではない。ただの平野だ。赤黒い大地が地平線まで続いていて、空は濃い紫色をしている。しかしその景色の中に、一つだけ異質なものがあった。黒い石で造られた巨大な門が、何の脈絡もなくそこに立っていた。魔界の風景に溶け込めない異物感がある。
多くの魔物はわざわざ人間界に行くようなことはしない。しかし戦闘を好む魔族は力試しに人間界へ向かうこともあるようだ。今回、私たちは力試しというわけではなく、ただ単純に人間の生態を知るために来た。
「壊れるのかな?」
ガンッ!
そんな音がしたかと思ったら、サナが魔界の門を蹴っていた。
「な、何をしているの!」
イリーナが止めに入ろうとしたが、
「いったーい!!」
サナが足を抱えて転げ回っていた。サナの全力の蹴りでも傷一つつかないほどの強度らしい。一体何でできているんだ、この門は。
「それくらいにして、早く行こう?」
「ええ。」
「はーい。」
まだ足をさすりながら涙目のサナを引き連れて、魔界の門の中に入った。
---
時空が歪んだ気がした。視界が一瞬暗転して、次に目を開けた時には別の場所に立っていた。
「ここは……。」
かなり暗い場所だったので一瞬魔界かと思ったが、そうではないことはすぐにわかった。ここは人間界。その理由は周囲の瘴気が格段に薄くなっているからだ。魔界では空気のように当たり前に存在していた瘴気が、ここではほとんど感じられない。代わりに肌を撫でる風が軽い。呼吸が楽だと感じるのは、瘴気が薄いからだろうか。
「こんな簡単に来ることができるのね……。」
「早く人間見たい!」
早速人間の町を探そうと思ったその時、背後から殺気を感じた。
「誰!」
私が振り返った瞬間、二人が警戒態勢を取る。サナは拳を構え、イリーナは魔力を練り始めている。
「魔族が人間界に何の用でしょうか。」
暗闇の中から現れたのは――メイド服を着た存在だった。半透明の体が、夜の闇の中でうっすらと光っている。足が地面についていない。宙に浮いている。
私の肌がひりつくのを感じた。おそらくだが、強者だ。しかし一つ懸念点があるとすれば……。
「メイド?」
なぜこんな場所にメイド服を着た存在がいるのか。しかもこの魔力。普通のメイドのそれではない。
「私はグルンレイドのメイド、ミクトラ・マリー・ローズ。この門を守護している者です。」
グルンレイド。聞いたことのない名前だが、この存在が守護しているということは、無視して通り過ぎるわけにはいかないだろう。
「私たちが何しようと、あなたには関係ないでしょ?」
そう言い放つ。サナとイリーナも同じことを思っているはずだ。
「いいえ、そうはいきません。私はご主人様からの命令により、人間に害をなす存在を捕らえる必要があります。」
「私たちが、害だって?」
サナが拳を構えてそう言った。声には明確な怒りが滲んでいた。
「かもしれないというだけです。」
「失礼な奴。」
サナが飛び出した。
「待って……」
私の声も届かず、拳がメイドの頭めがけて飛んでいく。しかし、
「えっ?」
メイドの体をすり抜けた。まるでそこに何もなかったかのように、サナの拳は空を切り、勢い余って後ろの岩に激突した。岩は粉々に砕け散る。その威力は決して弱くはない。にもかかわらず、メイドには触れることすらできなかった。半透明の体。物理攻撃が通用しない。魔法を使っているのか、それとも別の能力なのか。
「はぁ、また人間を殺しに来た魔族ね。コトアルがいなくなってからこっちも見ないといけないからほんと大変。」
メイドの周囲に魔力が集まっていく。腰に下げていた剣が宙に浮き始めた。触れていないのに剣が動いている。念動力のようなものだろうか。
「華流・」
危ない。私はサナの前へと駆け出す。
「周断」
「エアヴェール!」
ズン、という重い音とともに空中の剣が止まった。私の空気の壁がかろうじて受け止めている。ものすごい威力だった。腕がしびれる。
「ファイアーアロー!」
イリーナが魔法を放つ。炎の矢がメイドに命中する――が、またもや体を貫通して後ろの岩に当たっただけだった。物理攻撃も魔法攻撃も通じない。一体どうやって戦えというのか。
「華流……」
「す、ストップ!」
私は大声でそう叫んだ。目の前のメイドにも、次の攻撃を仕掛けようとしている二人にも向かって。これ以上戦っても勝ち目がない。いや、勝ち目がないというより、そもそも戦闘をする理由がない。
「あ、あの、人間を襲わないなら通してくれるの?」
「……そうですね。」
「私たちは最初からそのつもり。ただ人間の町を観察しに来たの。」
私がそう言うと、メイドがじっとこちらの目を見てきた。頭の中を覗かれているようで不快だったが、ここで目をそらすわけにはいかない。私はまっすぐに見つめ返した。
「まあ、嘘ではないようですね。あなたは問題ないでしょう。そしてあなたがいればあの長髪の魔族も問題はない。ですが……。」
メイドの視線がサナに向く。
「な、なによ!」
「あのおチビちゃんは危ないですね。」
「お、おチビ……な、なんだとー!」
ガンッ! 飛びかかったサナの頭を、そのメイドは叩きつける。
「うげぇ!」
地面に滑り込んでいくサナ。サナの全力の突進が、いともたやすくあしらわれた。
「私が目を光らせておく。絶対に危害を加えさせないから。」
「分かりました。あなたの実力ならおチビちゃんを止めるには十分でしょう。」
「お、おチビ……。」
サナが地面に突っ伏したまま悔しそうな声を上げているが、メイドは気にする様子もなく話を続けた。
「これは通行証です。もし私と同じような『グルンレイドのメイド』に会ったらこれを見せてください。私の許可が下りたという証明になります。」
「うん、わかった。」
怪しいものだが、おとなしくもらっておくことにした。小さな金属のプレートで、表面にはかすかに魔力の紋様が浮かんでいる。
それを受け取ると、私たちは歩き始めた。サナは帰り際もあのメイドに向かって威嚇していたが、私が注意したら渋々やめた。
人間は弱いと思っていたが、そうではないらしい。まあ、あれを人間と判断するにはまだ情報が足りなすぎるが、あれほどの強者を従えている「グルンレイド」という勢力には注意する必要がありそうだ。正直、敵にするのだけは避けたいと思った。
---
あのメイドと別れた後、私たちは人間界を観察するために上空を飛んでいた。
「あれは何かしら?」
イリーナの声がして、その方向を見る。遠くに、巨大な建物が見えた。
「大きな建物……。」
しかもすごい装飾だった。尖塔がいくつも天を突き、壁面には精密な彫刻が施されている。やはり人間が作るものは繊細で美しい。魔界の建物は力任せに積み上げたような粗野なものが多いが、あれは完全に別物だ。
「人間がいっぱいいる!」
サナが指をさしながらそう言った。確かに多くの人間が歩いているのが上空からでも確認できた。しかし、何かがおかしい。よく観察してみると……ここにいる人間、全員魔法が使える。微弱だが、一人ひとりから魔力の波動を感じる。
「ちょっと見てくる!」
「あ、待ちなさ……。」
イリーナが止めるが、サナはそれを聞かずに地上へと降りていってしまった。あの子はいつもこうだ。好奇心が行動力に直結していて、ブレーキという概念が存在しない。
「……どうする? キサラ。」
「はぁ……認識阻害をかけて私たちも降りよう。」
「わかったわ。」
イリーナが私にも認識阻害の魔法をかけてくれた。周囲の人間には私たちの姿が見えなくなる。そしてゆっくりと地上へと降りていった。
---
アナスタシア
「アナスタシア様。」
ソフィアさんが急に私の名前を呼んだ。その声にはいつもの穏やかさが消えていて、代わりに鋭い警戒の色が滲んでいた。
「わかっていますわ。」
その理由はもちろん私も感じ取っていた。この学園の上空に何かがいる。強大な魔力がこちらへ近づいてくるのが分かる。それも一つではない。複数だ。しかもその密度は、この学園にいるどの教師よりも濃い。
「どうされました?」
アナさんが私たちの表情を見てそう口にした。同室の学友だが、彼女は魔力を感じ取ることができない。心配をかけるわけにはいかない。
「いえ、特に何もありませんわ。……私、ソフィアさんと少しお話があるので先に部屋まで帰っていただけません?」
「は、はい、かしこまりました。」
アナさんが私の部屋へと戻っていく。その背中が見えなくなるのを確認してから、周囲を見渡した。この学園の学生がちらほらと歩いている。巻き込むわけにはいかない。
「人払いの魔法をかけます。」
ソフィアさんが小さく呟いた。その周囲の魔力が学生たちの精神にそっと影響を与える。なんとなく別の場所に行きたくなる、という程度の軽い暗示。私たちの周辺から徐々に人々が離れていく。
「とりあえず訓練場へ行きますわよ。」
「はい。」
広い場所の方が戦闘になった場合に被害を最小限に抑えることができる。学園の校舎を抜けて、裏手にある訓練場へと急いだ。
「一番魔力密度の濃いところに降りたんだけど、あんたらのどっち?」
訓練場に着いた瞬間、声が降ってきた。見上げると、金色の短い髪をした少女が宙に浮かんでいる。
魔族。ハーヴェストさん以外の魔族を久しぶりに見た気がする。相変わらず魔力密度が濃い。小柄な体躯からは想像もつかないほどの魔力が噴き出している。
「この学園に、何か御用でして?」
「私が質問してるんだけど。」
鋭い目がこちらを見据える。値踏みするような、獲物を品定めするような視線だった。
「……礼を欠く相手にはそれ相応の対応をさせていただきますわ。」
最初からそのような態度で接してくるのであれば、丁寧に返す必要はない。今の私はアナスタシア・アスター。貴族の令嬢として振る舞っている以上、あまりへりくだりすぎるのもよくない。
「はぁ、めんどくさいから殴って言うことを聞かせよー。」
消え――。
「かはっ!」
ドン、という鈍い衝撃音が腹部から全身へと駆け抜けた。不意打ちとはいえ、攻撃をくらってしまうとは。魔法障壁を常時展開していたから致命傷にはならなかったが、内臓が揺さぶられるような痛みが胃の奥から込み上げてくる。
「へー、すごいね。結構本気で殴ったはずなんだけど。」
魔族の少女が感心したような声を出した。ソフィアさんがすかさず回復魔法をかけてくれたので、すでに傷は治っている。温かい光が腹部を包み込み、痛みが引いていく。
「申し訳ありません! 私がいながら!」
ソフィアさんが私の前に出ようとする。護衛としてついてきたのに、その役目を果たせなかったことを悔いているのだろう。くせ毛が印象的な彼女の表情には、悔しさと焦りが浮かんでいた。
「問題ありませんわ、ソフィアさん。」
私はソフィアさんが前に出るのを手で制した。この魔族は野放しにできない。ここで私が止めなければ、学園のみんなが危険にさらされてしまう。それと……この魔族の態度が気に入らない。殴れば言うことを聞くと思っているのなら、考えを改めてもらおう。
「次はもっと強く――」
「次はありませんわ。」
闘気を剣に乗せる。極東で学んだ闘気の使い方。体の内側を通し、剣を振る瞬間にだけ解放する。魔法障壁が薄い部分を正確に見極めて、一太刀。
ボトリ。
魔族の右腕が地面に落ちた。
「は?」
魔族は何が起きたかを理解していないようだった。切断面から黒い血が噴き出す前に、私はさらに闘気を練り上げる。
「バルザ流・断頭」
「は、ま、まて、がぁっ……。」
首が地面に転がった。金色の短髪が砂埃にまみれる。胴体がゆっくりと前に倒れ、地面に崩れ落ちた。
「サ、サナ⁉」
その瞬間、何もなかった空間からさらに魔族が飛び出してきた。長い水色の髪が印象的だった。認識阻害の魔法を解いて現れたのだろう。その目には怒りと悲しみが渦巻いていた。
「よ、よくもサナを!」
こちらへ凄まじい勢いで突っ込んでくる。魔力が拳に凝縮されていくのが見えた。
「ソフィアさん。」
「はい、かしこまりました。」
ここはソフィアさんに任せよう。私は闘気を維持しつつ、周囲に他の魔族がいないか警戒を続ける。
「はぁぁぁぁ! バーンナックル!」
「華流・剪定」
魔力のこもった拳が、ソフィアさんの短剣によって受け止められた。剪定は相手の魔力を剣で受けた瞬間に拡散させる技。拳に込められていたエネルギーが霧散し、ただの素手の一撃に変わる。
「くっ、ファイアーアロー!」
「バニッシュルーム。」
「なっ!」
長髪の魔族が放った炎の矢が、ソフィアさんの魔力拡散結界によって消滅した。炎が空気に溶けるように消えていく。
「それではあなたも眠ってくださいね。華流・一刀」
ソフィアさんが短剣を振り下ろす。しかし――
「超硬化!」
ガギィン。
金属と金属がぶつかるような甲高い音が響いた。また新たに魔族が現れた。三人目。認識阻害を解いて姿を見せたその魔族は、先の二人とは雰囲気がまるで違った。褐色の肌に暗めの短い髪。落ち着いた目つきの中に、確かな知性と力が宿っている。おそらく、この魔族が三人の中で最も強い。
「よくもサナを……!」
水色の長髪の魔族がまだ諦めていない。右腕に魔力が集中していくのが見えた。密度が先ほどとは比較にならないほど上がっている。本気だ。
「ブラックナックル!」
「エアヴェール……っ!」
ソフィアさんが空気の壁を展開するが、拳がその壁を突き破ってきた。咄嗟に腕で防御したソフィアさんの頬から一筋の血が流れる。空気の層の上から無理やり貫通してきたのだ。この魔族はかなりの攻撃力を持っている。私がまともにくらっていたら骨が何本か折れていたことだろう。
「え……私の全力が……。」
「バインド。」
「しまっ……。」
私は間髪入れずに魔法を発動した。短髪の魔族の全身を魔力の鎖が縛り上げる。身動きが取れなくなったその隙に、
「華流・一刀」
「あ……。」
ソフィアさんの短剣が長髪の魔族の首から左肩にかけてを切断した。魔法障壁が貼ってあったが、ソフィアさんの攻撃力の方が上だったようだ。水色の長い髪が宙を舞い、体がゆっくりと地面に倒れていく。
---
◇ キサラ視点
化け物。
一言で表すならそうだろう。少なくとも私が知っている人間ではない。
私は今起きている現状を理解しきれないまま、魔法の鎖に縛られて地面に転がされていた。サナとイリーナは倒れている。二人とも完全に呼吸が止まっていた。
「心配は無用ですわ。殺しはしませんので。」
確かに死んではいないが、ここから回復させるなど私はできない。
しかし、私にはもう抵抗する力が残っていなかった。二人の攻撃を見ている間に分かったことがある。あの金髪の少女は魔法ではなく、闘気で戦っている。魔族には扱えない類のエネルギーだ。そしてくせ毛のメイドは魔法と剣術の両方を高いレベルで使いこなしている。どちらも規格外だった。
「最後に、名前だけでも教えてほしい。」
魔族である以上、強い相手には――たとえ仲間を殺されようとも――敬意を示さなければならない。それが魔界の掟だ。
そして、これは自分が死ぬからではない。このメイドたちの最後を私が見届けるから……
「私の名前はアナスタシア・アスター……いえ、グルンレイドのメイド、アナスタシア・ローズですわ。」
グルンレイド?
その名前を聞いた瞬間、全身に電流が走った。「グルンレイドのメイド」。あの門の前で出会った半透明のメイドが所属していた場所。私は反射的に懐から通行証を取り出した。
「それは……ミクトラさんの魔力ですわ⁉」
金髪の少女が驚きの表情を見せた。
「それを早く言ってくださいまし! ソフィアさん!」
「はい!」
すると後ろにいたくせ毛のメイドが何かの魔法を唱え始めた。温かい光が訓練場全体を包み込む。
「ん? どこ? ここ。」
「私は……切られたはず……。」
サナとイリーナが目を覚ました。切断されたはずの首も腕も、跡が残らないほど綺麗につながっていて、二人が体を起こしている。
「……一体、何が。」
これほどの回復魔法を使える存在は異常だ。死者を蘇らせるに等しい回復力。あのくせ毛のメイドは、一体何者なのか。
「申し訳ありませんわ。許可された魔族だとは知らずに反撃をしてしまいまして。」
「い、いや、先に手を出した私たちが悪かったから!」
私はすぐに頭を下げた。これが、魔界の門で出会ったメイドが言っていた「グルンレイドのメイド」か。想像以上に規格外の存在だった。
「二人も謝って。」
立ち上がった二人にもそう言う。
「すみませんでした。」
「ごめんなさい。」
イリーナは素直に謝るだろうと思っていたが、サナも何の反論もせずに頭を下げたことに少し驚いた。しかし、魔族の性質を考えれば納得がいく。全力で戦って、負けたのだ。サナの中ではその事実が揺るぎないものになっている。強い者には従う。それが魔族の本能だった。
「今後、急に人に殴りかからないと約束していただけるだけで結構ですわ。」
「もちろん殴りかからない。この二人がそうしようとしても私が責任を持って止める。」
「あなたがそういうのでしたら、安心ですわね。」
少し戦闘をしただけで、私たちの強さを完全に把握している。あの短い交戦の中で、三人それぞれの実力と性格を見抜いたということだ。この2人ではこのメイドたちに勝てない。
---
アナスタシア
「あの魔族の方達、強かったですね。特にあの短髪の人。」
魔族たちが去った後、ソフィアさんがそう呟いた。腕の傷はすでに自分で回復させているが、あの一撃の衝撃はまだ体に残っているようだった。
「そうですわね。」
短髪の魔族が本気を出していたら、ソフィアさんももっと深刻なダメージを負っていたことだろう。あの「超硬化」という技は、ソフィアさんの一刀を完全に受け止めていた。力だけならソフィアさんを上回っているかもしれない。
「ですが、人間を意図して殲滅するような魔族ではなくてよかったですわ。」
そのような魔族であれば、そもそもミクトラさんが通さないとは思うが。あの通行証を持っているということは、少なくとも魔界の門を正規に通過してきたということだ。
「ですが、何のためにこちらに来たのでしょうか?」
「私にもわかりませんわね。……念のためにアシュリーさんに伝えておいてくださいまし。」
「かしこまりました。」
あの感じからすると人間やグルンレイドに害を与える存在にはならないと思うが、一応報告しておいた方がいいだろう。もしかしたら、あの魔族たちがグルンレイドの利益へとつながるかもしれない。




