王国魔法学校11
「お茶会をしませんこと?」
私がそう提案したのは、昼食の時間のことだった。最近は食堂でエリザベスさんと顔を合わせることが増えていた。最初はばらばらだったのだが、気がつけば同じテーブルに集まるようになっていたのだ。
「お茶会、ですか。」
エリザベスさんが少し驚いた表情を見せた。金色のロール髪が窓からの光を受けて柔らかく輝いている。
「素敵ですわね。ぜひ参加させてくださいまし。」
少し考えた末に、エリザベスさんは了承した。一ヶ月前の彼女からは想像もできない反応だ。
「ほかにも人を呼びたいと考えていますわ。」
「どなたでしょうか?」
「アメリさん、ミアさんの2人ですわ。」
「平民……まあ、いいでしょう。」
了承。さらに彼女からは想像できないような反応だった。後ろに立っているエリザベスさんの侍女も普通では気づかないくらいだが、驚きで少し目を見開いていた。
「お茶会は、普通貴族同士で行うものだということを承知の上での提案ですの?」
エリザベスさんは確かめるようにそう告げた。
「知っています。でもそれは社会での常識ですわ。ここは学校、それほど社会にとらわれる必要などありませんわ。」
「……その判断ができるのがアナスタシアさんの強さ、ですわね。」
「何か言いました?」
「いいえ、何も言っておりませんわ。」
そういうとエリザベスさんは少し笑みを浮かべた。
ーー
お茶会の場所には少し悩んだ。
貴族院にはアリストクラット専用のサロンがある。調度品も茶器も申し分なく、さらには景色もかなり良くて、お茶会をするには最適な場所だ。だがそこには平民は入ることができない。アメリさんもミアさんも入れないのでは意味がない。
「庭の東側に、誰でも使える休憩所がありますよ。」
アナさんがそう教えてくれた。石造りのテーブルと椅子がいくつか並べてある場所で、周囲は手入れされた生垣に囲まれている。屋根はないが、大きな樫の木が影を落としていて、天気のいい日には心地よい場所だという。
当日、私は少し早めに到着した。ソフィアさんが手際よく準備を進めてくれている。白いクロスをテーブルに敷き、ティーカップを四つ並べ、ポットにお湯を沸かしている。いつものように異空間から茶葉を取り出し、慣れた手つきで紅茶を淹れていく。
「お菓子も持ってまいりました。」
ソフィアさんがそう言って取り出したのは、グルンレイド製のチョコレートだった。小さな四角い塊が紙に包まれていて、開けると濃厚なカカオの香りが広がる。グルンレイドでは日常的に見かけるものだが、ここでは貴重なものだろう。
「これ、みんなに食べてもらいたかったんですの。」
「喜んでいただけると思いますよ。」
ソフィアさんが微笑む。
最初にやってきたのはエリザベスさんだった。後ろにはエリザベスさんの侍女が控えている。紺色のメイド服を着た女性で、落ち着いた佇まいだ。年齢的には私たちと同じくらいだろう。グルンレイドのメイド服に比べると装飾は控えめだが、きちんとした身なりをしている。
「お待たせいたしました。」
エリザベスさんが椅子に座ると、侍女がさっと椅子を引いた。そしてその少し後ろに控える。さらに離れた場所——生垣の外側だろうか——にはエリザベスさんの騎士であるリアムさんの姿も見えた。鎧姿でこちらの様子を見守っている。前回のオーロラさんの件以来、リアムさんは私に対して礼儀正しく接してくれるようになっていた。
次にアメリさんが到着した。いつもの質素な制服姿だが、今日は髪に小さな花飾りをつけている。
「わぁ、素敵な場所ですね。」
樫の木の緑と、テーブルの上に並ぶ白いティーカップ、そして紅茶の湯気。アメリさんがその光景を見て目を細めた。
「アメリさん、髪飾り、素敵ですわ。」
「ありがとうございます。友達に借りたんです。お茶会って聞いて、少しだけおしゃれしたくなって。」
照れたように笑うアメリさんを見て、エリザベスさんが少し驚いた顔をした。平民の女の子の自然な振る舞いを目の当たりにするのは、まだ新鮮なのだろう。
そして最後に——
「す、すみません、遅れました!」
息を切らしてミアさんが駆けてきた。走ってきたのだろう、頬が赤い。
「遅れてなどいませんわ。どうぞ座ってくださいまし。」
「あ、ありがとうございます……。」
ミアさんは椅子に座ったものの、明らかに落ち着かない様子だった。背筋が不自然に伸び、手が膝の上で何度も握り直されている。きょろきょろと周囲を見回し、テーブルの上の高級そうなティーカップや、エリザベスさんの侍女や、遠くに立つ騎士の姿に目を泳がせている。
場違い——ミアさんの全身がそう訴えていた。
「あの……私、こういう場に呼んでいただけるような人間じゃないと思うんですけど……。」
ついに口にした。小さな声だったが、その中には本心が込められていた。
「成績も八十一位ですし、魔法も全然できませんし、貴族でもないですし……なんで私なんかが……。」
「ミアさん。」
私はミアさんの目を見て言った。
「お茶会に成績は関係ありませんわ。」
「で、でも……。」
「私があなたを呼んだのは、あなたと一緒にお茶が飲みたいからですの。それ以上の理由が必要でして?」
ミアさんが口をつぐんだ。目が潤んでいる。
「私だって平民だよ。ここにいるのは貴族だけじゃない。」
「で、でもアメリさんは学年二位で……。」
「成績なんて関係ないって、アナスタシア様が言ったでしょう?」
その言葉を聞いて少しは安心したようだった。
「あの、エリザベス様は……」
「皆が優しい言葉を投げかけるとは思わないことね。私は平民とのお茶会は基本的にいやだわ。」
ミアさんの言葉に、エリザベスさんはつんとした態度で答えた。
「はうっ……」
「ただ……あなたは特別よ。」
エリザベスさんはほほを赤らめ、ミアさんから視線を外した。
「エリザベス様ぁ!」
「鼻水まみれの顔を顔を押し付けないで!汚い!」
私は四人を見回して微笑んだ。アメリさんが温かい目でミアさんを見つめ、エリザベスさんが照れくさそうに目を逸らし、ミアさんが涙を拭きながら笑っている。
「さて、お茶が冷めてしまう前にいただきましょう。」
ソフィアさんが注いでくれた紅茶は、いつもと変わらず美味しかった。
「うわ、おいしい……。」
ミアさんが一口飲んで目を見開く。
「この紅茶、食堂のとは全然違う……。」
「グルンレイド領の茶葉を使用しておりますので。」
ソフィアさんが控えめにそう答える。
「やはりグルンレイドの製品は格が違いますわね。」
エリザベスさんがカップを両手で包み込むように持っている。さすが貴族の令嬢だ、飲み方ひとつにも品格が感じられる。
「それと、こちらをどうぞ。」
私はチョコレートを皿に並べた。四つの小さな四角い塊。濃い茶色の表面がなめらかに光っている。
「チョコレート、というものですの。グルンレイド領の特産品ですわ。」
「チョコレート……聞いたことがない名前ですね。」
アメリさんが興味深そうに一つ手に取る。
「どうぞ、召し上がってくださいまし。」
四人が同時に口に入れた。
一拍の沈黙。
「……おいしい。」
ミアさんが呟いた。
「なんですのこれ……舌の上でとろけていきますわ……。」
エリザベスさんが目を閉じている。
「甘くて、少しだけ苦くて……不思議な味ですね。」
アメリさんが驚いた顔をしている。
「幸せの味ですわね。」
私がそう言うと、三人が同時に頷いた。
そこから話題は尽きなかった。
最初は授業の話だった。エレナ先生の魔法理論の授業が難しいとミアさんが嘆き、エリザベスさんが「今度教えますわ」と言い、ミアさんが泣きそうな顔で「本当ですか」と返す。アメリさんが「私も教えるよ」と言うと、ミアさんは本当に泣いた。
次に好きな魔法の話になった。
「私は風の魔法が好きですわ。目に見えない力で世界を動かしている感じが。」
エリザベスさんがそう言うと、アメリさんが「素敵な感覚ですね」と微笑んだ。
「私は回復魔法が好きです。誰かの痛みを消せるって、すごいことだなって。」
ミアさんがそう言った。成績は低くても、こういうところにミアさんの本質が出ている。
「私は……うーん、まだ見つけられていないかもしれません。」
アメリさんが少し考え込む。学年二位なのに「まだ見つけられていない」とは、奥ゆかしい。
やがて話は将来の夢へと移った。
「私は……正直、卒業した後のことをあまり考えていませんわ。父の言う通りにマーティン家のために動くのだろうと思っていましたから。」
エリザベスさんが少し寂しそうにそう言った。
「でも今は、少し違う未来も見えてきた気がしますの。」
「どんな未来ですか?」
アメリさんが尋ねる。
「まだうまく言えませんけれど……少なくとも、こうしてお茶を飲んでいる時間を大切にしたいと思いますの。」
「私も。」
ミアさんが小さく頷いた。
「私も、です。」
アメリさんが微笑んだ。
三人の視線が私に集まる。
「私も、ですわ。」
この瞬間を——忘れないでいよう。
いつか任務が終わり、この学校を去る日が来る。あるいは、もっと早く——王国とグルンレイドの関係が悪化すれば、私はこの人たちの敵になるかもしれない。その時に——
この時間だけは、嘘ではなかったと胸を張りたい。
「あ、チョコレートもう一つもらっていいですか?」
ミアさんの声で、私は物思いから引き戻された。
「もちろんですわ。ソフィアさん、追加をお願いできます?」
「かしこまりました。」
樫の木の下で、紅茶の湯気が空に溶けていく。四つの笑い声が庭に響いている。エリザベスさんの侍女が後ろで穏やかに微笑み、リアムさんが遠くの木陰で腕を組んで見守っている。
この光景を——もう少しだけ、もう少しだけ長く見ていたかった。
--
お茶会から数日後、魔法学校に一人の来客があった。
「本日は特別講師として、剣聖シャルロッテ様にお越しいただいております。」
エレナ先生の紹介とともに、教室の扉が開いた。入ってきたのは——私と同じくらいの年齢に見える女性だった。だが纏っている空気が全く違う。
金色に近い明るい髪を短く切り揃え、王国騎士団の制服を隙なく着こなしている。背筋はまっすぐに伸び、腰には一振りの剣が吊るされていた。その佇まいは、まるで一本の名剣がそのまま人の形を取ったかのようだ。
剣聖。王国に代々仕える最強の戦士。現在で十四代目。その称号は、王国の全ての騎士の頂点に立つことを意味する。
「初めまして、剣聖のシャルロッテです。本日は剣術の基礎について、お話しさせていただきます。」
凛とした声が教室に響く。透き通っていて、しかし芯がある。一言発するだけで教室の空気が引き締まった。クラスメイトたちが思わず姿勢を正す。
私はシャルロッテさんを観測魔法で調べた。そして——息を呑んだ。
闘気。
この人の体に流れている闘気の量が——私と同等か、あるいは上だった。
魔力密度はそれほど高くない。魔法士としてはおそらく中程度だろう。だが闘気に関しては別格だ。全身に闘気が行き渡っていて、その密度は一切の隙がない。私が闘気を纏った状態と同じ——いや、もしかするとそれ以上かもしれない。常時これだけの闘気を維持しているということは、尋常ではない訓練を積んできたということだ。
「闘気を使える方はいらっしゃいますか?」
シャルロッテさんがそう問いかけた。教室のほとんどの学生は首を横に振る。闘気を使える魔法士は珍しい。魔法と闘気は別の体系であり、両方を修める者はほとんどいない。
私は手を挙げた。
「おや。」
シャルロッテさんの目が私に向いた。鋭い——しかし敵意はない。純粋な関心の目だった。
「アナスタシア・アスターさん。噂は聞いております。」
「恐縮ですわ。」
「入学試験で学年トップの成績を取り、三年生の上位騎士を倒し、さらに闘気も使えると。なかなか興味深いお方ですね。」
教室がざわめく。シャルロッテさんは微笑みを浮かべたが、その笑みの奥に試すような光があった。
「少しお手合わせいただけますか?」
「え。」
教室がさらにざわめく。剣聖が一年生にいきなり手合わせを申し込むなど、聞いたことがない。
「もちろん本気ではありません。闘気を使える方とお会いする機会は少ないので、少しだけ交わらせていただきたく。」
断る理由はなかった。むしろ——この人の実力を知ることは、任務にとっても重要だ。
「かしこまりましたわ。」
--
教室を出て、校庭の訓練場に移動した。クラスメイトたちが周囲に集まり、他のクラスからも人が集まってきている。シャルロッテさんが来ているという噂はすでに学校中に広まっているようだった。
「ソフィアさん、剣を。」
「かしこまりました。」
ソフィアさんが走って寮まで取りに行ってくれる間、私はシャルロッテさんと向き合っていた。
「お待たせする形になって申し訳ありませんわ。」
「いえ、構いません。それまで少しお話しましょう。」
シャルロッテさんが剣の柄に手を置きながらそう言った。
「アスターさんは、何のために強くなりたいと思っていますか?」
唐突な質問だった。だがその目は真剣だった。
「……大切な方をお守りするためですわ。」
嘘ではない。ご主人様をお守りすること、それが私の全てだ。
「素晴らしい理由ですね。」
シャルロッテさんが頷いた。
「私は——この王国を守るために戦っています。王国は正義です。この国の民を守ること、この国の秩序を守ること、それが私の使命です。」
まっすぐな声だった。一点の曇りもない。
「正義のために戦う者は、迷いがありませんわね。」
「迷いがないわけではありません。ただ、迷った時に立ち返る場所があるだけです。」
立ち返る場所——私にとってはそれがグルンレイドであり、ご主人様だ。シャルロッテさんにとっては王国であり、正義という信念だ。
もし——もしいつか、グルンレイドと王国が対立することがあったなら。
この人は迷わず王国のために剣を取るだろう。そして私は、迷わずグルンレイドのために戦うだろう。
「どうかしましたか?」
「いいえ。何でもありませんわ。」
その考えを振り払う。今はまだ、その時ではない。
ソフィアさんが剣を持って戻ってきた。
「お待たせいたしました。」
「ありがとうございます。」
剣を受け取り、構える。柄を握った瞬間に、体中に闘気が巡り始める。
シャルロッテさんも剣を抜いた。刃が陽光を受けて白く輝く。細身の剣だが、その刃に宿っている闘気は分厚い。
「では——参りますわ。」
「お願いします。」
私が踏み込んだ。闘気を足に集中させ、地面を蹴る。
「バルザ流・風斬り!」
闘気を乗せた横一閃がシャルロッテさんに迫る。
「バルザ流・剪風。」
シャルロッテさんの剣が私の攻撃を切り裂いた。切り裂いた——拡散ではなく、闘気そのものを斬って消した。
「っ!」
闘気を斬る。そんなことが可能なのか。
返す刀でシャルロッテさんの反撃が来る。私はとっさに剣で受け止めた。ガギィンと金属音が響き、腕に重い衝撃が走った。押し返される。
「いい闘気ですね。密度も量も申し分ない。」
「お褒めいただきありがとうございますわ。」
体勢を立て直す。もう一度踏み込む。今度は闘気と魔力を複合させて——いや、華流は使えない。グルンレイドだとばれる。バルザ流と闘気だけで戦う。
「バルザ流奥義・天切り!」
頭上からの落とし斬り。全身の闘気を剣先に集中させた渾身の一撃。
シャルロッテさんの目が光った。
「バルザ流奥義——」
同じく奥義で返してくる。剣先に凝縮された闘気が白い光を帯びた。
「星切り。」
二つの奥義がぶつかった。衝撃波が放射状に広がり、周囲の観客が悲鳴を上げる。ソフィアさんが咄嗟に魔法障壁を展開して観客を守っていた。
拮抗した。私の天切りとシャルロッテさんの星切りが、真正面からぶつかり合い、どちらも引かない。剣を通じて伝わってくる闘気の圧が凄まじい。腕が軋む。足が地面にめり込む。
「……見事です。」
シャルロッテさんが呟いた。
「こちらこそ。」
同時に剣を引いた。二人とも息が上がっている。
「ここまでにしましょう。授業の範囲を大きく超えてしまいました。」
シャルロッテさんが苦笑した。周囲を見ると、クラスメイトどころか教師たちまでもが呆然と立ち尽くしていた。訓練場の地面にはひび割れが走り、衝撃波で周囲の木の葉が全て散っている。
「申し訳ありませんわ。少し力を入れすぎてしまいました。」
「いえ、私も同じです。あなたのような方と打ち合えて光栄でした。」
シャルロッテさんが手を差し伸べる。私はその手を取った。握手だ。手の平から伝わる体温は温かく、しかしその手は剣を握り続けてきた者特有の硬さがあった。
「また、お手合わせ願えますか?」
「もちろんですわ。」
シャルロッテさんが微笑んだ。穏やかで、真っ直ぐな笑みだった。
この人は——いい人だ。純粋に、心からそう思った。
だからこそ——もし敵になった時のことを考えると、胸の奥がきりりと痛む。
--
「すごかったね、アナスタシア様!」
放課後、ミアさんが興奮気味に話しかけてきた。
「剣聖と互角だったなんて!」
「互角かどうかはわかりませんわ。シャルロッテさんは本気ではなかったでしょうから。」
「それでもすごいよ!」
ミアさんの目がきらきらと輝いている。
「シャルロッテさん、とても素敵な方でしたわね。」
アメリさんが穏やかにそう言った。
「ええ。真っ直ぐで、強くて、信念を持っている方ですわ。」
「王国の剣聖にふさわしい方だと思います。」
「そうですわね。」
——そう。王国の、剣聖だ。
その夜、私はレポートにシャルロッテさんについての記述を加えた。
『注目すべき人物(追加):シャルロッテ
王国剣聖。十四代目。
推定年齢、私と同程度。
闘気の保有量・密度が極めて高く、私と同等かそれ以上。
闘気を「斬る」という技術を保有。これは既知のバルザ流の技術体系にはない独自技と思われる。
バルザ流奥義を複数修めており、その練度は極めて高い。
魔力密度は中程度だが、闘気に特化した戦闘スタイルは私と近い。
性格は真っ直ぐ、実直。「王国は正義」という強い信念を持つ。
信念に一切の揺らぎが見られないため、対グルンレイド戦においては最も警戒すべき存在となる可能性が高い。
個人的所感として、友人になりたいと思える方だが、将来的に敵対する可能性が最も高い人物でもある。
この矛盾を、私はまだうまく処理できておりません。
——ご主人様、この件についてもご報告いたします。』
ペンを置く。窓の外で月が雲に隠れた。
友達ができるということは、いつか別れが来るかもしれないということだ。それでも——私はこの出会いを後悔していない。
お茶会で笑い合った四人の顔。チョコレートを食べた時のミアさんの表情。エリザベスさんが「エリザベスで結構ですわ」と言った瞬間。アメリさんの花飾り。そして——シャルロッテさんの真っ直ぐな目。
全部、全部、嘘ではない。私がアナスタシア・アスターであっても、グルンレイドのメイドであっても、この気持ちだけは本物だ。
「アナスタシア様、お休みの時間です。」
「はい。おやすみなさい、ソフィアさん。」
「おやすみなさい。」
ランプの灯りが消える。暗闇の中で、私はそっと目を閉じた。
明日もまた——この大切な日々が続きますように。




