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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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王国魔法学校3

「きてしまいましたね。」

「そうですわね。

カルメラさんが窓から去った後、私たちは顔を見合わせてそのようなことを呟いた。さっきまでグルンレイド領にいたというのに、今はもう魔法学校の寮にいる。窓の外に見えるのは、見慣れた森ではなく、夕暮れに染まった学園の校舎だった。いまだに信じられない。


グルンレイド領にいた時にももちろん美しい家具やベッドなどがあったが、この部屋はそれのさらに上をいく。グルンレイド領の来客を招待する部屋のような場所だった。壁紙には金糸の刺繍が入り、天井には小さなシャンデリアが下がっている。窓際にはビロードのカーテンがかけられ、床にはふかふかの絨毯が敷き詰められていた。


「キングサイズのベッド、その周辺にはソファー、テーブルと椅子もありますわ。」

ベッドに手を触れてみると、指先がすっと沈み込む。羽毛の層が幾重にも重なっているようだ。ソファーも同様に上質な布地で覆われていて、座ったら立ち上がれなくなりそうだ。


「こっちはキッチンですね。」

ソフィアさんが奥の方を確認する。調理場と寝室は同じ部屋にあるようだ。簡素ではあるが、調理台と水場、それに食器棚が揃っている。


「こちらはバスルームですのね。」

近くのドアを開けるとかなり広いバスルームが広がっていた。白いタイルが敷き詰められた清潔な空間だ。残念ながらシャワーのみでお風呂はないらしい。バスタブのようなものはあるが、湯を張る設備が整っていない。魔法で温めてバスタブにお湯を張ろうかと悩む。


もしかしたら私の持っているお金でお風呂を増設できるかもしれない。グルンレイド領のメイドは給料というものをもらっている。普通に考えて私のような奴隷に賃金を支払うほうがおかしいのだが、正直下級貴族の稼ぎ分くらいはもらっているはずだ。


あるメイドの——確かハーヴェストさんだったか——


『なぜこれほどの賃金なのですか!』

という問いに対してご主人様は、


『貴様らにはこの程度の端金で十分だろう?』

という回答だったそうだ。端金どころか大金なのだが、金銭面の心配をさせまいというご主人様の心遣いに胸を打たれた。


そしてグルンレイドで生活をする上では食費や宿泊費、そのほかにかかる生活費などは私たちは払う必要がない。ということで、街に出て美味しいお菓子を買うこと以外にはほとんど使いどきがないのだ。何年分もの給料がそのまま手つかずで残っている。


「もうお風呂には入れないんですね……。」

ソフィアさんもそのようなことを呟いていた。バスルームの前で、心底残念そうな顔をしている。あの白い湯気に包まれたグルンレイドのお風呂が恋しい。石鹸の香り、シャンプーの泡、湯船に浸かった瞬間の全身を包み込むような温かさ。あれなしで三年間を過ごすのは——


これは増設確定だ。

そんな感じで部屋巡りをしていると、入り口の扉が叩かれた。


「どうぞ。」

「失礼いたします。」

扉が開かれ、そこには私たちと同じくらいの背格好をした女の子が立っていた。栗色の髪を肩のあたりで切り揃え、質素だが清潔感のある制服を着ている。


「本日より、アスター様のご案内役をさせていただきます、アナと申します。」

「まあ、こちらこそよろしくお願いしますわ。」

確かにこの学校についてのことを全く知らないので、手取り足取り教えてくれる存在はありがたい。しかし、この子は堂々とした口調の割には細部が震えていて、かなり緊張しているようだった。指先がわずかに揺れているし、まばたきの頻度が多い。ただ普通の人には気づかれないくらいに隠す技量はあるようだ。グルンレイドで鍛えた観測眼でなければ、おそらく見抜けなかっただろう。


「早速ですが、こちらでの生活についてご説明させていただきます。」

ということで説明が始まった。私たちが椅子に座ってもアナさんは立ったまま説明をしようとしていたので、座るように促す。


「い、いえ、そんな恐れ多い!」

といっていたが、命令だというとしぶしぶ従ってくれた。椅子の端にちょこんと腰かけ、背筋だけはぴんと伸ばしている。


まずは寮生活について。

寮は男子寮、女子寮、そして貴族寮の三つに分かれている。貴族寮は男女別ではないのかと思ったが、各扉の前には魔法による認証システムが導入されていて簡単に侵入することはできないのだ。グルンレイドのホテルにあったものと似たような仕組みだろう。


また貴族同士のいざこざは領地の問題に発展するため、そのようなことを行う者は少ないようだ。なるほど、貴族同士の均衡がそのまま治安の維持につながっているというわけか。


食事についてだが、基本的に大食堂に行けば好きな時に好きなものが食べられるそうだ。自室で食事をしたい場合はアナさんに言うことで運んできてくれるらしい。グルンレイドの食事と比べてどうかは食べてみないとわからないが、少なくとも食べるものには困らないということだ。


一般寮には門限というものがあるが、貴族寮にはないようだった。ただし夜七時以降の外出は推奨されておらず、それでも外出したい時は護衛を必ずつけろということだった。おそらくこの寮で生活をしている方々は夜に限らず常に護衛がついていることだろう。


次は学園生活についてだ。

入学式は明日、私は一年生として入学することになる。クラスは寮とは違い、貴族とそうでない方とが入り混じっている形となっているようだ。入学した初日には、新入生は魔法力試験を受けることになる。


私はグルンレイドにいた時には魔法力という面では少しみんなよりも劣っていた。魔力密度はマリー・ローズの方々には遠く及ばないし、ローズの方々と比べても見劣りする。私の強みは闘気であって、魔法ではない。とても心配である。


そのあとはカリキュラムに従って授業を受けていくようだった。


以上が大まかな説明のようだ。感想としては、貴族寮で生活をしている方の自由度は他の方々と比べてかなり優遇されているようだった。自由度が圧倒的に高い。


「わかりましたわ。」

「それでは失礼いたします。」

アナさんが立ち上がり、扉の方へ向かおうとする。


「あら、もう帰ってしまいますの?」

学校のことや寮のことは聞くことができた。しかし最も肝心なアナさんについてのことが全く話されていなかったではないか。案内役として付いてくれるのであれば、どのような方なのかを知っておきたい。


「え、えぇ。」

予想外の私の問いに少し戸惑っているようだ。目が泳いでいる。


「アナさんはどちらで生活を送っておりますの?」

「女子寮ですが……。」

魔法学校に通っている学生の他にもアナさんのような付き人として仕事に来ている方もその女子寮で生活を送ることができるようだ。もちろん一人部屋ではなく、共同部屋だが。


「アナさん、こちらで過ごしてみませんこと?」

「えっ……ど、どういうことでしょうか?」

「そのままのことですわ。こちらで私たちと一緒に過ごしませんかということですの。」

別におかしいことは何もないはずである。付き人のことをもっと知りたいと思うのは当然のことのはずだ。ただ規則がそれを許してくれるかどうかだが、先ほどの話を聞くと貴族である私が一言言えば問題ない気がする。


「それはあまりにも申し訳なさすぎます!私のような……。」

「御託は結構ですわ。あなたはどうしてみたいかを聞いていますの。」

「っ……。」

少し強い言い方をしてしまっただろうか。だが別に少し話してみた感じ、悪い子ではなさそうだし、私としてはぜひ一緒に生活を送ってみたい。三人でいた方が賑やかだし、何よりこの広い部屋に二人きりというのは少し寂しい。


「わ、私は……。」

すごく私の目を窺っている。貴族を前に自分の意見を言うということに抵抗があるのだろう。それもそのはずだ。普通は貴族相手に自分の意見を言う機会なんてない。私もかつて仕える側だった頃はそうだった。主人の顔色を伺い、自分の意見を飲み込んだ。


「私は……許されるのなら、アスター様と、一緒に……過ごしてみたいです。」

すごく恐る恐るだが、アナさんは口を開いた。声が震えている。半分が恐怖、半分が興味といったところだろう。その正直さが、私は好きだと思った。


「もちろんですわ。私たちとの生活が合わなかったら、女子寮に戻るといいですわ。」

そういってアナさんの同居が決まった。アナさんの表情がぱっと明るくなる。それを見てソフィアさんも微笑んでいた。


するとふたたび扉が叩かれる。


「どうぞ。」

「失礼いたします。先の件ですが、付き人の同居の許可が降りました。」

私たちをこの部屋まで案内してくれた人がやってきてそういう。


「追加ですわ。こちらの使用人も一緒にこの部屋で過ごすことになりましたわ。」

「かしこまりました。そう伝えておきます。」

今度は上の許可とやらを取りに行く必要はないらしい。一人も二人も変わらないということだろう。


「それでは失礼いたします。」

そういって部屋を出ていった。


「アスター様。」

「アナスタシアでいいですわ。」

「そんな……。」

貴族相手に恐れ多い、という顔をしていたのでもう一度気にする必要はないと伝える。グルンレイドにいると忘れてしまうが、貴族というのは本来このような扱いが普通だ。名前を気軽に呼ばせること自体が、本来ありえないことなのだ。しかし私はグルンレイドで「アナスタシアちゃん」とリアさんに呼ばれることに慣れてしまった。畏まられるよりも、名前で呼んでもらえる方がずっと心地いい。


「ア、アナスタシア様。騎士を見かけておりませんが、明日いらっしゃるということでしょうか。」

「騎士?そんなものいないですわ。」

騎士とは貴族を守る者のことを言うのだが、騎士が必要だということを私は聞いていない。ご主人様からも、カルメラさんからも、そのような話は出なかった。


「貴族の方は騎士は護衛として必ず必要な存在なので……。」

そういう規則です、ということだった。騎士なんていなくてもソフィアさんがいれば問題ないと思うのだが……しかしよく考えてみるとソフィアさんはメイド、メイドは護衛ができるほどの力を持っていないのが普通だった。グルンレイドの常識は、やはり外の世界では非常識なのだ。


「ソフィアさんでいいですわ。」

ソフィアさんの方を向きながら言うと、彼女も小さく頷いて了承してくれた。眼鏡の奥の瞳に、静かな決意が見えた。


「それは危険すぎます!騎士にも護衛能力があるかどうかを調べる試験があるのです。護衛という仕事が主になる分、新入生の試験よりも危ない内容です!」

アナさんが声を大きくして言う。心から心配してくれているようだ。ふむ、騎士にも試験というものがあるらしい。


ソフィアさんはグルンレイドのメイドだが、見習いであり決して強い方ではない。なのであまりにも危険な場合はご主人様に相談して騎士を用意していただく必要があるだろう。しかし、本当に危険かどうかを判断するまではソフィアさんに任せてみることにする。彼女がこの任務に志願してくれたのだ。その覚悟を信じたい。


「危険ということですが、ソフィアさんやっていただけますか?」

「もちろんです!」

即答だった。迷いのない声だ。


「ですから……。」

「問題ありませんわ。心配ならばソフィアさんの実力を見てからにしてくださいまし。」

そういうと、アナさんは心配そうな顔をして口を閉じた。唇をぎゅっと結んでいる。気持ちはわかるが、ソフィアさんの実力を知らないからこそ心配するのだ。見れば——わかる。


「そういえば、明日入学式と同時に試験があるのでしたね。私も明日の試験に備えて色々準備をしておきたいと思いましたの。」

今日は一度も魔法を使っていなかったので、明日のためにも一度は魔法を使用しておきたかった。体に流れる魔力の感覚を確認しておかないと、いざという時に鈍ってしまう。


「訓練場などはありませんの?」

「ございますが……。」

アナさんの声に不安が滲んでいる。


貴族寮の周囲には貴族寮の学生専用の訓練場があった。間には木々が生い茂っていて、寮や付近の道からは訓練場をはっきりと見ることはできないようで、多くの人の目に晒されるということはないようだった。それは好都合だ。


「ソフィアさん、大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません。私が騎士として動くとなると、同じく明日に試験があるらしいのでちょうどいいですね。」

ソフィアさんが腰を上げる。表情は穏やかだが、眼鏡の奥の瞳がわずかに鋭くなった。戦闘に備える時の顔だ。


そう言って訓練場へと向かった。



--



幸い訓練場を使っている人はいないようだった。

夕暮れの光が木々の間から差し込み、訓練場の地面に斑模様を描いている。広さは十分にある。グルンレイドの訓練場に比べれば小さいが、二人で戦うには十分だ。土の地面は適度に踏み固められていて、足場も悪くない。


「ソフィアさん、本当に大丈夫ですか?魔法士に魔法が使えない方が挑むなんて……。」

アナさんがソフィアさんを心配そうに見つめている。


「確かにアナスタシアさん……様は強いですが、私も負けていられませんから。」

ソフィアさんが静かにそう答える。柔らかい口調だが、その中に折れない芯がある。


そのような会話がなされている間に、私は周囲への被害を抑えるために魔法障壁を張る。訓練場を覆うように薄い膜を展開し、衝撃波が外に漏れないようにする。アナさんには別個により分厚い障壁を張る。グルンレイドのメイド同士の戦いは、外の世界の基準からすれば災害に近い。巻き込むわけにはいかない。


さらに明日の試験で一対一などの戦闘があった場合に、自分の手の内を見せてしまうと不利になってしまう可能性があるので、認識阻害の魔法も使用する。外部からこの訓練場を覗いても、何も見えないはずだ。


「それでは始めますわ。」

そういって私は持ってきた剣に手を添える。私は短剣ではなく一般的な大きさの剣を使う。常に携帯するということはできないので、わざわざ寮から持ってきたのだ。柄を握ると、手に馴染んだ重みが伝わってくる。グルンレイドで何千回と振ってきたこの感覚。


「はい。」

ソフィアさんはスカートの中に隠していた短剣を取り出した。グルンレイドのメイドが身につけているガーターベルトは特注のもので、短剣をくくりつけておく部分がある。刃がすらりと夕日を反射して光った。


「華流・速斬。」

ソフィアさんが消える。いや、消えたように見えた。それほどのスピードだった。足元の土が蹴り上げられ、空気がソフィアさんの通った後を追うように渦を巻く。


「華流・剪定!」

観測魔法を用い、ギリギリのところで反応する。ソフィアさんの短剣が私の剣に接触した瞬間、金属同士がぶつかる高い音が訓練場に響いた。が、勢いを殺しきれず私は後ろへと吹き飛ばされてしまう。足が地面を削りながら数メートル後退する。


「えっ!な、なんですか、何が起こったんですか⁉」

アナさんが遠くで叫んでいた。障壁の中で目を丸くしている。まあ無理もないだろう。普通のメイドが音速に近い速度で剣を振るう光景など、見たことがあるはずがない。


「華流・空蝉。」

吹き飛ばした瞬間に、私の背後にソフィアさんは魔力をくっつけていたようだ。それをたどって、吹き飛ばされている速度と同じ速さで私の背後に回る。気配が消え、次の瞬間には背中に殺気が張り付いた。そして短剣が振られる。


「……さすがの闘気ですね。」

が、血は流れない。ソフィアさんの短剣は、私の背中に触れたまま止まっていた。刃が肌に食い込むことなく、弾かれている。


私が唯一誇ることができるもの——それは闘気の保有量だ。闘気というのは一般的に魔法士は使用することはない。闘気の訓練をするくらいなら、魔法の訓練をした方が効率がいいからだ。だからほとんどの魔法士は闘気を知っていても使おうとはしない。


私が最初にマーク様と戦った時に、闘気という存在を真に知った。マーク様はなぜ、音速を超えて私に斬りかかることができたのか。それは闘気という存在のおかげである。全身に纏わせることで肉体の限界を超え、攻撃の瞬間にだけ解放することで一撃の威力を極限まで高める。剛斎様のもとで学んだあの技術が、今の私の礎となっている。


「これだけは誰からも負けるつもりはありませんわ。」

全身に闘気を纏いながらソフィアさんの方を振り返る。体の表面を覆う闘気が、夕日の光を受けてわずかに揺らめいている。生半可な攻撃力では私に傷一つつけることはできない。


「華流・花かんざし!」

ソフィアさんめがけて斬りかかる。剣先に魔力を乗せ、螺旋状のエネルギーを回転させながら突き出す。


「華流・剪定!」

ガギィンという音とともに剣が交差する。花かんざしの尖った魔力はソフィアさんの剪定によって拡散されてしまう。しかし闘気は魔法ではないので拡散されることはない。剣に乗せた闘気がそのままソフィアさんの短剣を押し返す。


「華流・剪定。」

この状態でソフィアさんの魔法を拡散したらどうなるか——その瞬間ソフィアさんが吹き飛ぶ。お互い魔法を使わない単純な力比べでは、闘気を纏っている者に勝つのは難しい。ソフィアさんの体が宙に浮き、地面に一本の線を引きながら滑っていった。


「バルザ流・雨斬り。」

追い討ちをかけるように技を繰り出していく。闘気を込めた連撃が、雨粒のように降り注ぐ。一撃一撃は軽いが、その数と速度で相手を圧倒する。


「華流奥義・——」

ソフィアさんの目が鋭くなる。眼鏡の奥で、穏やかだったはずの瞳が一変した。全身の魔力が剣先に収束していくのが見える。っ、まずい!


「極一刀。」

光速に迫る勢いの斬撃が、私の技ごと空間を切り裂いた。あまりの速度に周囲の空気が振動し、地面が破壊される。土と草が巻き上がり、木々の葉がざわめいた。衝撃波が障壁にぶつかって跳ね返る。


「はぁ、はぁ、危ないですわね。」

息が上がっている。肩から血が流れていた。赤い線が、メイド服——いや、今はドレスだ——の布地を染めていく。闘気と魔法による防御がなかったら肩だけでなく体全体が切断されていただろう。


「……やっぱり斬れませんか。」

ソフィアさんが息を切らしながらそう言う。渾身の奥義が通用しなかった。だが、私に傷をつけたことは事実だ。ソフィアさんの極一刀は、グルンレイドの中でも上位の破壊力を持っている。


「もう一度……。」

「やらせると思いまして?バルザ流・風斬り。」

ソフィアさんの脇腹めがけて剣を振りかざす。闘気を纏った一閃。ソフィアさんが咄嗟に短剣で受け止めるが、闘気の重さに腕が軋むのが見えた。そのまま力任せに吹き飛ばす。


「くっ……。」

ソフィアさんが地面を転がりながらも、すぐに体勢を立て直す。さすがだ。受け身の取り方が完璧で、ダメージを最小限に抑えている。


「やっぱり私はこういう方が性に合っていますわね。」

もちろん魔法を使って戦うことも嫌いではないし、華流を使って舞うように戦うことも嫌いではない。しかしどちらかといえばこのように力に物を言わせる戦い方の方が好きだった。拳に闘気を込めて、正面からぶつかっていく。その点、闘気と私の性格はかなり相性がいい。曲がったことが嫌いで、真っ直ぐにしか進めない私には、小細工よりも正面突破が似合っている。


「華流奥義・轟一線!」

ソフィアさんが全身の魔力を剣に乗せて放つ。青白い光が訓練場を貫くように走ってきた。


「バルザ流奥義・万雷!」

魔力と闘気がぶつかり合う。衝撃波が円形に広がり、地面の土を四方八方に吹き飛ばす。しかしこのような力比べになった場合、ソフィアさんに分があるとは言えない。私は闘気に魔力を加え、徐々に密度を上げていく。押し返す。一センチ、二センチ、そして——吹き飛ばす。


「あぁっ!」

ソフィアさんの体が私の張った魔法障壁に叩きつけられた。鈍い音が響いて、ソフィアさんがゆっくりと地面に崩れ落ちる。


「勝負あり、ですわね。」

私は肩の傷を魔法で直していく。闘気でも回復させることができるが、やはり魔法の方が断然効率がいい。肌の上を魔力が走り、裂けた皮膚が閉じていく。


「やっぱり、強いですね……負けてしまいましたが、いい運動になったと思います。」

ソフィアさんが地面から体を起こしながらそう言う。といっても先ほど受けた傷はこの会話をしている間にほとんど回復しているようだった。メイド服に目立った損傷もない。


「ソフィアさん、あなたヴァイオレット様との訓練の後も、普通に生活できてましたわよね。」

「そんなことありませんよ?結構痛かったです。」

普通は「結構痛い」くらいでは済まない。イリスさんにつきっきりで数時間回復をしてもらってやっと動けるくらいのダメージを負うはずだ。メルテさんだって毎回ぐったりしていた。それを「結構痛かった」で済ませてしまうこの子の防御力と回復力は、やはり規格外だ。


「な、なんなんですか!あなたたちは!」

アナさんの声が障壁の向こうから聞こえる。声が裏返っている。目が点になっているのが、障壁越しでもわかった。確かに普通メイドが魔法を使うというのは珍しいことだ。ましてや訓練場を半壊させるような戦闘をするメイドなど、この世界ではグルンレイドにしか存在しないだろう。


「ソフィアさんは訓練されたメイドですのよ。」

「アナスタシア様、あなたもです!」

私?私は魔法士としてこの学校へ来たのだから、魔法を使うのは当たり前だろう。あ、きっと剣士が使う闘気を使っていたので驚いているということか。確かに魔法士と闘気使いを兼ねる者は珍しい。


「珍しいかもしれませんが、闘気を使う魔法士もいましてよ?」

「……。」

頭がパンクして次に発する言葉がうまく出てこないようだ。口がぱくぱくと動いているが、音にならない。


「とりあえず、帰りましょうか。」

ソフィアさんがそう言いながら短剣をガーターベルトに戻す。何事もなかったかのような顔をしている。さっきまで吹き飛ばされていた人間のする表情ではないが、それがソフィアさんだ。


「そうですわね。」

障壁を解除し、荒れた地面を魔法で修復してから、私はアナさんの腕をとり、足が地面に根を張ったように動かなくなっているアナさんを半ば引きずるようにして、私たちは自室へ戻った。


明日から、この魔法学校での生活が始まる。三年間——長い任務だが、ソフィアさんがいてくれる。そしてどうやらもう一人、面白い子とも知り合えた。


窓の外ではもう日が沈みかけていて、空が紫色に染まっていた。

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