王国魔法学校1
「王国の図書館に行く。」
ご主人様がそう仰った。
私はご主人様の自室で紅茶をお淹れしている最中だった。ティーカップに琥珀色の液体を注ぎながら、その言葉の意味を即座に理解する。
「王国の図書館に行きたい、ですか。」
「うむ。」
グルンレイド領と王国は仲の良い関係というわけではない。正確に言えば、王国がグルンレイド領を警戒しているのだ。ご主人様の力を恐れ、しかし手出しもできず、表面上は穏やかな関係を保っている。よって、グルンレイドの領主が王国へ出向くということは大問題へつながる可能性がある。
「物理的な問題はありません。馬車でも私の魔法でも、王国の図書館へ辿り着くことは容易です。ただ、政治的な要因が問題となるでしょう。」
「ふむ。」
ご主人様は椅子に深く腰掛けたまま、静かに私の話を聞いてくださる。この部屋に満ちているご主人様の魔力は、外のものとは密度が桁違いだ。この空間にいられるのは私だけ。ほかのメイドたちがこの部屋に長くいれば、魔力酔いで倒れてしまうだろう。
「……それに関しては後ほど考えるとして、なぜ急に王国の図書館へ?」
少なくなった紅茶を継ぎ足しながらそう質問する。いつもであれば空間魔法でティーカップなどを用意するのだが、ご主人様の自室ではその魔力密度のあまりの高さから、私ですら空間魔法を使用することが困難になる。そのため部屋に置かれている棚の中から茶葉を取り出し、手作業でお淹れしている。だがそれも悪いことではない。こうしてご主人様のおそばで手を動かしている時間は、私にとってかけがえのないものだ。
「この屋敷の本をある程度読み終えたからだ。」
「それは、素晴らしいことですね。」
素直に驚きの声が出た。ご主人様が本を読んでいる姿は毎日のように見てきた。私がメイドとしてこの屋敷に来て以来、ずっとだ。書斎にいるとき、自室にいるとき、時には庭で日の光を浴びながら——常にご主人様の手には本があった。この屋敷の図書館も決して小さいものではなく、数十年かかっても読み切ることはできないだろうと思っていたのだ。それを全て読み終えたとは。
「知識は力だ。あるに越したことはない。」
ご主人様はそう仰った。その言葉には重みがある。力においてこの世界で並ぶ者がいないご主人様が、それでもなお知識を求め続けている。その姿勢こそが、私がご主人様をお慕いする理由の一つでもある。
「かしこまりました。王国の図書館へ向かいましょう。」
私は基本的にご主人様の望みを否定することはない。たとえ世界の全てを敵に回すような内容であっても、特に悩むことはないだろう。ご主人様が望むのであれば、それが正しい。それが私の全てだ。
「いくつか案があります。一つ目は透明化の魔法で侵入する、二つ目は変化の魔法で見た目を変える、三つ目はそのまま侵入する、です。」
私の考えを説明する。
「一番安全なのは透明化の魔法でしょう。ただ、本を持ち帰るという場合は不自然に思われてしまうかもしれません。本が宙に浮いて移動している光景は、さすがに目立つでしょうから。」
「ふむ、持ち帰るのは良くないな……本を複製することは可能か。」
「はい、"空白の本"を用いれば可能です。しかし現在の所持数は数百程度。一割も複製できないと思われます。」
空白の本とは、その上に複製したい本を置くとその文字がコピーされる魔道具である。ただし、複製されるのは本に書かれている内容のみであり、魔導書のように見ただけで影響を及ぼすような効果までは複製できない。また本が破れていたり、しみになっていたりしてもそれがそのまま複製されるので読むことはできない。便利ではあるが万能ではない道具だ。
「正攻法で借りた方が良さそうだな。一般貴族に変装して本を借りるとしよう。」
「かしこまりました。それでは早速護衛を連れて向かいましょうか。」
「うむ。」
ご主人様は護衛などいらない、と言いかけた気がした。口が僅かに開き、しかしすぐに閉じられる。毎度私が『念には念を入れる必要があります』と申し上げて却下しているので、もう諦めてくださったのだろう。ご主人様の身に何かがあるとは微塵も思っていないが、万が一にも万が一があってはならない。それがメイド長としての私の責務だ。
護衛には誰が適任か。ご主人様の護衛である以上、最高の戦力を連れていく必要がある。王国には騎士団もいれば魔法士団もいる。万に一つも問題が起きた場合、それらを全て排除できるだけの力が求められる。
『ヴァイオレット。』
『はい。』
魔法によるメッセージを飛ばす。その相手は、ヴァイオレット・マリー・ローズ。グルンレイドのメイドにおける最強の剣士だ。私を除けば、護衛としてこれ以上の存在はいない。
『訓練の途中ですか?』
『そう、ですが……。』
少し息が上がっている声が頭の中に響く。剣を振っている最中だったのだろう。
『ご主人様の護衛をお願いしたいので、すぐにご主人様の部屋の前まで来てもらえますか?』
『かしこまりました!……ですが、少々時間をください。』
『なぜ……いや、そうですね。わかりました。十分で大丈夫ですか?
『十分です。それでは。』
メッセージが途切れる。ヴァイオレットが時間を必要とした理由は、おそらく汗をかいた状態でご主人様の前に現れたくないからだろう。あの子はしっかり者に見えて、そういうところが真面目だ。ご主人様への敬意を、小さなところにも表す。
「十分後に出発いたします。」
「ふむ。」
ご主人様はそう仰ると再び椅子に深くもたれかかった。手元の紅茶を一口含み、窓の外を見つめている。その横顔を見るたびに、私の胸は静かに満たされる。
ーー
『扉の前です。』
ヴァイオレットの声が頭に響く。
「ご主人様、用意ができました。」
いつもであれば観測魔法でヴァイオレットの到着を察知できるのだが、この部屋にいるときは観測力も弱まってしまう。さらにグルンレイドのメイドは常に隠蔽魔法を展開しているので、たとえ部屋の外であっても察知することは難しい。
私が扉を開けると、そこには美しい赤髪のメイドが立っていた。きちんとメイド服を整え、髪も結い直している。訓練中だったにもかかわらず、一分の隙もない身なりだ。腰には、普段は使わない聖剣が吊られていた。
「ヴァイオレットか。」
ご主人様の声に、ヴァイオレットの体がぴくりと反応する。
「……は、はい!」
扉が開いた瞬間に、ご主人様の部屋から漏れ出た高密度の魔力に当てられたのだ。一瞬怯んだが、すぐに姿勢を正して返事をした。この密度に触れても立っていられるのは、さすがマリー・ローズと言うべきだろう。ほかのメイドであれば膝をついていてもおかしくない。
「ほう、今日はその聖剣なのだな。」
「はい。訓練の時は聖剣を模したただの剣ですが、本日はご主人様の護衛ですので、完全武装です。」
ヴァイオレットは腰に吊した一メートルほどの聖剣に手を触れた。その名は"聖剣・ラムダ"。龍族に代々受け継がれてきた伝説の剣だ。この剣を装備しているヴァイオレットに勝てるグルンレイドのメイドは、私とスカーレットくらいしかいないだろう。ご主人様の護衛としては十分すぎる戦力だ。
「ではいくぞ。」
「「かしこまりました。」」
部屋から出ると、私は空間魔法を唱えた。ご主人様とヴァイオレットを包み込むように魔法陣を展開し、王国へと空間を繋ぐ。
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「人がいない場所へと飛びました。」
空間転移が完了し、周囲を見渡す。綺麗な石壁に囲まれた空間。窓から差し込む光の角度と、壁の材質から判断して、王国の城内の一角であることがわかった。間取りは全て頭の中に入っている。
「観測された様子もありません。」
私は三人の異常な魔力密度を隠すために、高度な隠蔽魔法を展開していた。王国全土をくまなく観測してみたが、私たちの存在に気づいた者はいないようだ。現在この国にいる全ての存在が、この隠蔽を見破ることはできなかったらしい。
「それでは姿を……。
認識阻害魔法を応用し、周囲から見えるご主人様の姿を一般貴族のものに変えようとしたのだが——
「いや、やはりその必要はない。」
ご主人様に止められてしまう。
「ですが……。」
「この先の図書館に私を知るものなどいない。」
ご主人様の観測魔法の精度と範囲は、私のものを大きく上回っている。この城内にいる全ての人間の顔と魔力を一瞬で把握したのだろう。私が反論できる余地はない。
「かしこまりました。」
頷くほかなかった。王国の城の間取りは私が完璧に把握しているので、人目を避けながら進めば数分もかからない。石造りの廊下を足音も立てずに進んでいく。ヴァイオレットが後方を警戒しながら、私たちの背後を守っていた。
「それでは開けます。」
ヴァイオレットが図書館の重厚な扉を引く。軋む音とともに扉が開かれると、そこには本棚に埋め尽くされた巨大な空間が広がっていた。天井まで届く本棚が何十列も並び、古い紙とインクの匂いが鼻をくすぐった。窓から差し込む光の筋が、浮遊する埃の粒子を照らしている。
「なかなかの量だな。」
ご主人様が呟く。その声にはわずかに嬉しそうな響きがあった。
「そうですね。しかしグルンレイドの屋敷の方が多いかと。」
ご主人様は世界中から本を集めていらっしゃるので、この王国図書館に匹敵するほどの蔵書量になっている。だがここには、グルンレイドにはない本がある。それが重要なのだ。
「あ、あの!ど、どちら様でしょうか!?」
私たちが部屋に入った瞬間、本棚の陰から声が響いた。ガタガタという本が崩れる音とともに、一人の少女が姿を現す。
「司書か。」
「い、いえ、司書見習いです!」
急な訪問者に慌てた様子だったが、すぐに倒れた本を片付けてこちらへと小走りで移動してくる。少し長めのふわふわとした髪に、大きな眼鏡。まだ幼さの残る顔立ちだが、本に埋もれていたところを見ると、かなり読書好きなのだろう。
「メガネですか。」
私は思わず呟いた。メガネはグルンレイド領のみで生産されているもので、王国にも流通はしている。しかし王国の城の中で見かけるとは。我がご主人様の発明品が、こんなところにまで届いている。
「あ、あの!本日の来客の予定はなかったはずですが……。」
ご主人様の着ている上質な服と、私とヴァイオレットのメイド服を見て、貴族だと判断したのだろう。必要以上に丁寧な——しかし怯えた接し方をしていた。
「いくつかの本を定期的に借りることになった。見させてもらう。」
ご主人様はそう告げると、本棚の方へと歩き始めた。
「ま、待ってください!そんな勝手に……。」
止めようとした司書見習いの手がご主人様の方へ伸びる。その瞬間——
ヴァイオレットが動いた。
「きゃっ!」
司書見習いの腕を掴み、ご主人様から遠ざける。ヴァイオレットの反応速度は凄まじい。私が動くよりも先に、もう相手を制していた。
「ご主人様に触れ……。」
そこでヴァイオレットの動きが止まった。腕を掴んだまま、一瞬だけ固まっている。
「どうした。」
私がそう問いかける。
「い、いえ、少し驚いただけです。」
ヴァイオレットはそういうと司書見習いの腕を離す。掴む力が強かったのだろう、司書見習いは腕を押さえながら地面にへたり込んでしまった。目に涙が浮かんでいる。申し訳ないことをしてしまった。
「おい、娘。名前を言え。」
ヴァイオレットが鋭い目つきで座り込んでいる司書見習いにそう告げる。しかしあまりの恐ろしさに、少女は声を出すことすらできないようだった。涙がぽろぽろと頬を伝っていく。
「ヴァイオレット、怖がらせてはいけませんよ。」
私はヴァイオレットをたしなめながら、司書見習いの前に膝をつく。
「……それで、一体どうしたんですか。」
ヴァイオレットに目を向ける。
「す、すみません。この娘の魔力がおかしかったもので……。」
ヴァイオレットは申し訳なさそうにその場から後ずさった。赤い髪が揺れ、その表情にはっきりと困惑と後悔が浮かんでいる。グルンレイドのメイドは、相手に触れたときに自分の魔力を相手の体内に流し込むように訓練されている。それは、相手を自身の魔力で支配することで即座に制圧するためと、相手に制圧されないようにするためである。魔法障壁を展開していなければ一瞬で全身を魔力で満たすことができるのだが——
「ほう……。」
ご主人様がその言葉に興味を示された。本棚の方へ向かいかけていた足を止め、座り込んでいる司書見習いの方へと近づく。そして少しかがむと、小さな頭の上に手を乗せた。
司書見習いの肩がびくりと跳ね上がる。しかしご主人様の手は静かに、まるで品定めをするように少女の頭の上に置かれていた。魔力を通じて、内側を読み取っているのだ。
「ほう。これは面白い。」
「一体どんな……。」
「強靭な魔力核だ。まだ魔法を使ったことはないようだが、その素質は十分にある。」
なるほど。ヴァイオレットが軽く魔力を流しただけでは侵入できないほどの魔力核。それは天性のものだ。もちろんご主人様がもっと出力を上げれば容易に侵入できるのだろうが、そこまでする必要はない。
「軽く魔力を流した程度では侵入できないな。」
「ご主人様の魔力でも侵入できないのですか⁉」
ヴァイオレットが驚きの声を上げる。ご主人様はわざとそうしているだけなのだが、ヴァイオレットの反応はいつも素直だ。
「どうされますか。」
何が起こっているのかわからない司書見習いは、終始キョロキョロと辺りを見渡していた。涙で霞んだ眼鏡の奥から、不安そうな目がこちらを見ている。
ご主人様がどうされるか——私にはもうわかっていた。あの目を見ればわかる。ご主人様が『光る原石』を見つけた時の目だ。
「私の名はジラルド・マークレイブ・フォン・グルンレイドだ。まずはお前の名を教えてもらおう。」
「ぐ、グルンレイド!」
その名を聞いた途端、司書見習いの表情がこわばる。グルンレイドの名は、王国においても広く知られている。恐怖の対象として。しかしそれと同時に、グルンレイドのメイドたちへの憧れも存在する。美しく、圧倒的に強い存在として。
「お前に危害を加えるつもりなどない。素直に言うことを聞いていればな。」
「な、名前はソフィア、です!」
震えながらも答えた。ソフィア。少し長めのふわふわとした髪。真面目そうな顔つき。声は小さいが、芯はありそうだ。
「単刀直入に聞くが、私のもとへ来ないか。」
「ど、どういうことですか?」
ソフィアの目が大きく見開かれる。私は静かにその様子を見守っていた。ご主人様はこの少女にグルンレイドのメイドになれるだけの才能があると判断されたのだ。無理やりに連れて行くことは容易だが、ご主人様は本人の意思をもっとも重要だと考えていらっしゃる。ただし——奴隷に関しては話が別だが。
「そのままの通りだ。メイドとして我が領地へ来る気はないかということだ。」
「そんな、急に……。」
ソフィアは『決められません』と言いかけて、口をつぐんだ。何かを思い出したような——いや、何かを思い切るような表情だった。少女の目が一瞬だけ図書館の奥へと向けられる。そこには崩れかけた本の山と、埃を被った机が見えた。あの環境で働いてきたのだろう。
「私がいなくなった後、騒ぎになったりしませんかね。」
「司書が不機嫌になる程度だろう。」
ご主人様の言葉は冷たく聞こえるかもしれないが、事実だろう。司書見習いは基本的にいくらでも代わりがいる。この少女がなぜこの職を続けていたのかはわからないが——おそらくお金を稼ぐ必要があったのだと思う。読み書きができる者にとっては、数少ない選択肢の一つだったのだろう。
「そう、ですよね。」
ソフィアは一瞬目を閉じた。長いまつ毛が震えている。そして目を開けた時、そこには先ほどまでの怯えはなかった。
「私を連れていってください。」
「ふむ、よかろう。」
グルンレイドのメイドに対する憧れがこの少女にもあったのだろう。圧倒的な強さと美しさ。その一員になれるかもしれないという可能性に、ソフィアは賭けたのだ。
「ですが、私が、私みたいなものがグルンレイドのメイドになれるのでしょうか?」
「なれる。」
なんの疑いもなく、さも当たり前かのように答えるご主人様。その一言の力強さに、ソフィアの目がうるんだ。先ほどとは違う種類の涙が、その目に浮かんでいた。
私もこの言葉の重みを知っている。かつて私も——奴隷だった私も、ご主人様からこのような言葉をいただいたのだ。その記憶が胸の奥でじんわりと温かくなる。
「本を借りるのが目的だというのに、思わぬ収穫があったな。」
ご主人様は満足そうな表情を浮かべられた。周囲の者が見ればかなり怖い顔に映るのかもしれないが、私にはわかる。あれは喜びの表情だ。ご主人様はソフィアが元々座っていた椅子に腰掛ける。
「ソフィア、詳しい話は後で行います。まずはいくつかの本を借りたいのですが……。」
ご主人様の様子を見て、今は本を探すべきだと判断する。
「そうですね、探したい本の特徴など教えていただければ案内できるかもしれません。」
ソフィアが涙を拭きながら立ち上がる。声はまだ少し震えていたが、図書館の中の本のことになると、急にしっかりとした口調になった。この子は本が好きなのだ。それはすぐにわかった。
「我々は部外者だがいいのか?」
少しからかうようにヴァイオレットがそういう。口元がわずかに緩んでいる。この子もこの子で、新しい仲間が増えることが嬉しいのだろう。
「わ、私はすでに司書見習いではありませんので……。」
「そんなに怯えるな!ご主人様が認めたのだ、私も貴様を歓迎する。」
ヴァイオレットの他人を寄せ付けないような高貴な見た目とオーラ、そして初対面で強い力で腕を掴まれたことから、ソフィアはかなり怯えた表情を見せていた。それにヴァイオレットは慌てて弁明する。大きな声を出せば出すほどソフィアが縮こまっていくのに気づかず、さらに声を張り上げるヴァイオレットの姿は、少し微笑ましかった。
こうして目的の本を入手すると、ソフィアを連れてグルンレイド領へと帰還した。
ソフィア曰く、ご主人様が必要とされるような難しい本は、厳重に図書館の奥底で保管されているらしい。王族でなければ開けられないような扉などもあるが、ご主人様にとってはなんの問題もなく——むしろ厳重に保管されているが故に人の目も届かないという点が都合よく作用していた。
今後も定期的にメイドが王国へ赴き、ソフィアの案内で目的の本をお借りすることになるだろう。ソフィアの図書館への知識は、グルンレイドにとって大きな財産となる。
馬車も使わず空間魔法で戻ったため、往復の時間はごくわずかだった。ソフィアは空間転移の感覚に驚いて目を回していたが、ヴァイオレットが慌てて背中を支えている姿が目に入った。先ほどあれだけ怯えさせておいて、今度は心配している。ヴァイオレットは昔からそういう子だ。不器用で、しかし根は優しい。
ご主人様は借りてきた本を早速自室へ持ち帰り、読み始めていらっしゃった。新しいメイドの受け入れ準備は、私が全て行う。ソフィアの部屋の手配、メイド服の準備、訓練の計画——やることは山ほどあるが、それは私にとって嬉しい仕事だ。




