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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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華宴6

華宴も残り一日になってしまった……。グルンレイド領に来てからかれこれ五日くらい経っている。毎日が夢のようだった。


「お前ら、流石に今日は帰るぞ!」

そういってくるのは私たちのパーティのリーダー、侑斗さんだ。年は三十五歳。あっちの世界で三十年、こっちの世界で五年という経歴である。朝からきっちり装備を整えて、帰る気満々の顔をしている。


「……しょうがないなぁ。今日で終わりだって、恵美奈さん。」

モデル並みの体型とフェイスでこちらを見てくるのは春ちゃん。大学生で本当にモデルのアルバイトをしているらしい。私と同じように、あっちの世界で寝ている間こっちの世界へ、こっちの世界で寝ている間あっちの世界へ移動してしまうようだ。


「いやです!私はここに住みます!!」

……こんなセリフを言っておいてなんですが、申し遅れました。七草恵美奈と申します。二十七歳、独身、東京のとある企業で働くごく普通のOLだ。ごく普通ではない点を一つ挙げるなら、寝ると異世界に来てしまうことくらいだろうか。


「恵美奈さん……子どもじゃないんだから……。」

現役大学生に諭されるOLの図が完成してしまった。だって……私の楽園はここなんだもん……。あのお風呂、あの石鹸、あのシャンプー、あの街並み、あの屋台の食べ物、あのメイドさんたちの美しさ。すべてがパーフェクトなのだ。


「そんな顔してもダメだぞ……。」

侑斗さんからもそう言われる。腕を組んで仁王立ちされると、さすがに逆らえない雰囲気がある。


「……わかったわ。」

私も渋々頷くしかないではないか。唇を尖らせながらも、頭の中ではもう諦めがついていた。

グルンレイド領に来たのはこの華宴が初めてだったが、もはや現実世界よりも心地いいとすら感じた。会社で働くと感じる精神的なダメージがこちらの世界には全くないのだ。上司の嫌味も、満員電車の圧力も、意味不明な会議も存在しない。まあ魔物と戦うと肉体的ダメージを負うことはあるのだが……しかしそれはヒールを使えば簡単に治る。昨日の会社で感じた精神的なダメージってヒールじゃ治らないんだよね……。異世界の魔法でもブラック企業のストレスだけは治せないらしい。


「じゃあ恵美奈さん、最終日はどう過ごす?」

「うーん……。」

宿、というかホテルのフロント前で春ちゃんがそう聞いてくる。フロントの大理石のカウンターが朝の光を受けてきらきらと光っている。こんな場所が普通の宿だというのだから、グルンレイドの基準はどうかしている。


侑斗さんは最初の数日で屋台の食べ物を全種類制覇してしまったものの、グルンレイド製の武器や魔法道具などに興味を持ってしまい、今日もそれらを見に行くつもりらしい。かくいう私たちもグルンレイドのメインストリートにあるお店はほとんど行ってしまい、どうしようか悩んでいるところだ。


「あの……。」

私と春ちゃんがうんうん悩んでいるところに、聞き覚えのある声が聞こえた。控えめで、それでいて澄んだ声。


「あ、リアちゃん!」

「お、おはようございます。」

そういって私でも見惚れてしまうような美しい礼をされる。背筋がぴんと伸びて、頭を下げる角度が完璧で、長い髪がさらりと肩から流れ落ちる。私たち異世界人には魔力核がないのでそれを感じることができないが、きっと心地よい魔力が流れていることだろう。


「どうしたの?」

「少し異世界のことについて教えていただきたいなと思いまして……今お時間大丈夫でしょうか?」

「全然大丈夫だよー。むしろ暇だから何しようか考えてたところ!」

「ありがとうございます。」

私ももっとリアちゃんと話してみたいと思っていたのだ。異世界の人と話す機会なんてほとんどないし、単純にリアちゃんと仲良くなりたいし。この五日間で何度か顔を合わせてはいたものの、ゆっくり話す時間がなかったのだ。


「春さんはどうでしょうか……?」

「もちろん私もいい……あれ?ちょっと待って。」

「どうされました?」

「今日って実は舞踏宴の決勝戦だったりする?」

「そうですよ?」

確かに舞踏宴の決勝戦が今日だというのをどこかで見た気がする……あ、あれだ。ホテルの部屋の中に置いてあった『華宴の歩き方』に書いてあったのだ。ちなみにあの冊子、かなりしっかり作り込まれていて、観光情報としてのクオリティが非常に高かった。あっちの世界の観光ガイドブックを作ってる会社は見習ってほしい。


「リアちゃんごめん!私そっち行っていい……?」

「もちろんです。ぜひマリー・ローズの方々の戦いを見てみてください!」

恵美奈さんもごめんね!と言いながらホテルのフロントを出て行ってしまった。春ちゃんの背中が回転ドアの向こうに消えていく。確かに春ちゃんは舞踏宴にとても興味を示していた。目をきらきらさせて「すごい、すごい」と連呼していたものね。確かにかわいいメイドさんがかっこよく戦っている姿はすごいと思うのだが、やっぱり私はおしゃれなお店を見ていた方が楽しい。あとおしゃべりもね。


「エミナさんも無理はしないでくださいね。」

「そんなことないわー、私もリアちゃんと話してみたいと思ってたの。」

「そ、そうですか!」

とても嬉しそうな顔をする。頬がほんのり赤くなって、瞳がきらりと光って、全身から「嬉しい」が溢れ出ている。やっぱりグルンレイドのメイドってかわいいから見てるだけで癒される。にしても異世界の人って顔が整いすぎじゃない?あのモデルである春ちゃんが目立たないほどだ。私もあっちの世界ではちやほやされる程度の容姿だけど、こっちの世界だと普通以下なんだよね……。ちょっと泣きそう。


「これですが、報酬の先払いです。」

リアちゃんがそういって袋を渡してきた。ずしりとした重みが手のひらに伝わる。


「報酬?」

「はい、異世界の情報を提供していただくお礼です。」

「え!別にいいよ!」

「ご主人様のご命令ですので……。」

別に私からしたら情報提供というより、リアちゃんとお話しするって印象なんだけどなー。こんなかわいい子とおしゃべりできるだけで十分すぎるお報酬なのだが。


「も、もちろん私も仕事のためだけにお話ししようと思っているわけではありませんよ!エミナさんとお話ししたいと思っていたのも事実ですし……。」

「ふふっ、わかったわ、これももらった方が良さそうね。」

「す、すみません……。」

少し気まずそうにこちらを見てくる。目が泳いでいて、指先がメイド服の裾をぎゅっと掴んでいる。大丈夫、『リアちゃんは仕事だから私と話すんだ』なんて思ってないから。


「気にしなくていいわよー。」

ということで私はリアちゃんに案内されるままにグルンレイドの屋敷へと向かった。



--



「いつ見ても立派な屋敷よね。」

「そう……ですね。私は長らくここに住んでいますから、これが普通だと感じてしまいますが。」

本当にファンタジー世界の貴族のお屋敷って感じ。門をくぐると整然とした庭が広がっていて、石畳の道が屋敷の正面玄関まで一直線に伸びている。芝生は一ミリの乱れもなく刈り込まれていて、花壇には季節の花が色とりどりに咲いている。流石に二回目だから右手と右足が同時に出ることはなかったが、やはり緊張してしまう。

それとなんだろう、屋敷全体がいい香りで包まれている。石鹸のような、花のような、でもどちらとも違う上品な香り。空気そのものが洗練されている。……美少女ばかりだと香りまで良くなってしまうのかしら?


「ちなみにこの絵はいくらとか聞いちゃってもいい?」

長い廊下を歩いているときにふと見かけた絵を見てそういう。額縁に入った風景画で、どこかの海辺を描いたものらしい。波の一粒一粒まで繊細に描かれていて、思わず足を止めてしまった。


「えっと……私も詳しくはわからないのですが、有名な絵画師アーティファルト様の作品ですので、大金貨八枚程度かと思われます。」

「大金貨……八枚……。」

一瞬意識が飛びかけたが、すぐにもとに戻す。大金貨八枚は約八百万円くらいである。あの、私の年収の二倍……。廊下にかかっている絵一枚で私の二年分の労働が消し飛ぶのだ。


「ははは……すごいわね……。」

乾いた笑いしか出てこない。


「これでもご主人様のコレクションの中では低価格な方ですよ?」

文字通り、私とは住む世界が違うようだ。この屋敷で一番高い絵は一体いくらくらいするのだろうか……。怖いので聞くのはやめることにした。私のメンタルがもたない。


「あ!あまり近づかない方がいいですよ?」

「え?」

思わず絵に顔を近づけていた私を、リアちゃんが慌てて引き止める。


「この方の描いた作品には魔法が込められています。無害なものもありますが、そうでないものもありますので……。」

「へ、へぇー。」

こ、怖い!絵画に魔法って何それ。迂闊に触らないようにしなければ……。あっちの世界の美術館は「触らないでください」だけど、こっちの世界は「触ったら死ぬかもしれません」だ。レベルが違う。


「つきました、こちらです。」

そういって案内されたのは応接室というところで、中に入ってみるとアンティークな机と椅子がきれいに並べられた、とてもおしゃれな空間だった。壁には薄いクリーム色の壁紙が張られていて、窓からは柔らかな光が差し込んでいる。机の上には小さな花瓶に生花が一輪。部屋の大きさ的には六畳くらい、グルンレイドの屋敷の中にある部屋にしては少し小さいなと感じた。でもこれくらいの広さの方が私は好きだ。広すぎると落ち着かないのだ。


「今お茶を淹れますね。」

「ありがとー。」

するとリアちゃんは空間を捻じ曲げて、異空間から魔法障壁で囲まれている水と茶葉を取り出した。私はもう驚かないよ……。最初にこれを見た時は「えっ?何?空間割れた?」と大騒ぎしたものだが、五日も一緒にいると慣れてくるものだ。そして魔法障壁内部の温度を上げ、水を沸騰させていた。


「後はポットとカップ、砂糖にミルク……ですね。」

そういうとまたもや異空間からそれらが出てきた。白磁のティーカップに金の縁取り。これ一つでいくらするんだろう……もう考えるのはやめよう。するとあっという間に私の前に温かい紅茶が置かれた。琥珀色の液体から湯気がゆらりと立ち上がり、上品な香りが鼻をくすぐる。


「いつ見てもすごいね……。」

「ありがとうございます。」

リアちゃんがはにかむように微笑む。私は紅茶について詳しいわけではないけれど、一口含むとどこか落ち着くようなほっとする味だった。渋みが少なくて、ほんのりと甘い香りが口の中に広がる。会社の給湯室で飲むティーバッグの紅茶とは次元が違う。


「極東の茶葉を使用しております。」

「極東……ね。」

十数年前の歴史か世界史の授業でちらっと聞いたことがある単語だった。あの日リアちゃんから船を飛ばされた後、私たちは極東で過ごしたのだがやはり『昔の日本』と酷似していた。


「すごく独特な場所でしたよね。」

「そうね。鎧と刀が、ザ・日本って感じ。」

「鎧……刀……?」

リアちゃんが首をかしげる。教科書で見たような天守閣のある城、そして城下町、武士と呼ばれるような格好をした人も見かけた。時代劇の撮影セットにそのまま迷い込んだような錯覚を覚えたものだ。


「防具のことを鎧、剣のことを刀って極東では言うんだよー。」

「そうなんですか!」

目を輝かせてメモを取り始めるリアちゃん。極東の人の顔もどことなく日本人に似ていた……。私が思うに異世界転生、または転移はこの世界でも昔からよくあることで、江戸時代からこちらの世界に来た人が、独自の文化を作り上げた……のだろう。壮大な歴史ロマンだ。


「それにしてもあの剣技はすごかったですね。」

「確かにね。」

この世界で主に人間がよく使う流派は『バルザ流』。英雄バルザが始祖で主に闘気を使用して攻撃するものだ。侑斗さんは異世界人だが、訓練をして闘気やバルザ流を使えるようになったらしい。本当にすごいと思う。……スキルばかりに頼る異世界人の中ではかなり珍しい部類なのではないだろうか。私はスキル頼みの典型的な異世界人だ。


「何はともあれ、私は本場の温泉に入ることができたのが一番だったなー」

鎧とか刀とか城とか目を奪われるものは多々あったが、やっぱり私も温泉が一番印象に残った。岩に囲まれた天然の温泉で、湯気の向こうに山が見えて、空には星が瞬いていた。


「グルンレイドの屋敷にもお風呂がありますが、それは異世界の知識や極東の温泉をもとに作られているらしいです。」

「それは素晴らしいと思うわ。」

やはりここの領主様は目の付け所が素晴らしい。衣食住、これらが整っているということは住みやすい土地になるということ。ぜひ、今後もそっち方面に力を入れてほしい。グルンレイド信者の私はすぐに買いに行きます。新作の石鹸が出たら一報ください。いや本当に。


「本題に入りますが、ここグルンレイド領で取り入れられるような異世界の文化がありましたら教えていただけませんか?」

異世界の文化……ね。紅茶のカップを両手で包みながら少し考える。私の印象としてはもう十分にその文化を取り入れているように感じるが、さすがグルンレイド。さらなるQOLの向上を目指すということなのだろう。向上心の塊のような領地だ。


「この世界には鏡がない。」

「鏡……というのは?」

私がグルンレイドの宿に泊まった時に、一つだけ不自由に感じたことがある。それは鏡がないということだ。あれだけ完璧な設備を誇るホテルにも、鏡だけはなかった。自分の身だしなみを確認するときは、私が鏡がわりに持っている金属——表面を磨いた銅板だ——を利用するか、春ちゃんに見てもらっている。


「リアちゃんは自分の姿を見たいときにどうやって確認しているの?」

「光魔法と空間魔法を使用しますね。自分の視界内に自分を投影させます。」

……思ったより大変そう。身だしなみの確認のために魔法を二つも使うなんて。だがグルンレイドのメイドにとってはそこまで難しいことではないのかもしれない。呼吸するように魔法を使う人たちだから。


「それはグルンレイドのメイドだからできることでしょ?そこで魔法が使えない人でも自分の姿を確認することができるものを鏡と言います。」

「そうなんですね……。」

リアちゃんが何かを考えているようだ。真剣な表情でカップの中をじっと見つめている。紅茶の水面に自分の顔が映っているのを見て、何か閃いたのかもしれない。


「確かに自身の姿を魔法の使用なしに確認できれば、とても楽ですね。それで、どのような材質から作られるのですか?」

「えっ……それは……。」

鏡の材料って何⁉ あっちの世界では当たり前に使っていたから、その原材料なんて考えもしなかった……。ガラスと……何だっけ。銀?アルミ?理科の授業で習ったような気がするけど全く思い出せない。春ちゃんや侑斗さんならわかるかな?最悪今日あっちの世界に戻ったら、検索する。


「ごめんリアちゃん、わからないわ……。」

「そう、ですか。」

少し残念そうな顔をするリアちゃんに、胸がちくりとする。


「で、でも今日あっちの世界に戻ったらすぐに調べるから!」

「わかりました。明日再度お聞きしますね。」

リアちゃんがにっこりと微笑む。その笑顔を見て、よし絶対に調べるぞと心に誓う。帰ったらすぐにスマホで「鏡 作り方 材料」って検索しよう。


--


「これはリアちゃんを前に言うことではないと思うけど……。」

「なんでしょうか?」

紅茶のおかわりを注いでもらいながら、少し言いづらそうに切り出す。リアちゃんが不思議そうな顔でこちらを見ている。


「お酒って……作れる?」

「お酒、ですか。」

キョトンとした表情はかなりかわいい。小さな口がぽかんと開いて、黒い瞳がまんまるになっている。


「いや、本当にリアちゃんみたいな小さい子に話すような内容じゃないんだけどね?」

「い、いえ、問題ありません。」

リアちゃんが姿勢を正してそう答える。この子は何事にも真面目だ。


大人の私としてはね、やっぱり魔物との戦闘後に一杯やりたいわけなんですよね。汗だくでヘトヘトになった体に、冷えたお酒がしみわたる瞬間。あれがないとやってられない。侑斗さんと度々そのような話になったりする。もちろんアルコール自体はあるのだ、主にワインなのだが。しかしワインはね……ぐびぐび飲むものじゃないでしょ?優雅にグラスを傾けるのもいいけれど、私が求めているのはそういうことじゃない。


異世界にはビールは存在するものだと思っていた。木でできたジョッキにビールを注いで、山賊たちとかが飲んでそうじゃない?ファンタジー物のアニメや漫画では定番の光景だ。しかし私の予想に反して、この世界には存在しなかったのだ。あの金色の液体と白い泡のコンビネーションが恋しくてたまらない。


「ビールを作ってほしいの。」

「ビール……ですか。」

リアちゃんがまたメモを取り始める。「ビ・イ・ル」と一文字ずつ丁寧に書いている姿がいじらしい。


作り方は今日にでもネットで調べて完全に暗記してきます。メモ用紙でもこちらへ持ってくることができたら楽なのだが、あいにくそのような物質の移動はできないようだ。魂だけが移動する仕組みだから、持ち物は何一つ持ち込めない。自分の記憶力だけが頼りなのだ。それとビールを許可なく製造することは犯罪だが、それはあっちの話。こちらにはそのような法律は存在しない。


「わかりました。私はアルコールを飲んだことがないので、よくわかりませんがお酒が飲めるマリー・ローズの方に聞いてみたいと思います。」

「ありがとう!」

待って異世界でビールが飲めるって最高じゃない⁉ 美しい自然を見ながらビールが飲めると考えるだけで楽しみになってくる。グルンレイドの澄んだ空気の中で、冷えたビールを一杯。想像しただけで口の中に唾液が溜まった。


「後はこれくらいかしらね。また思いついたらリアちゃんに伝えるわ。」

「わかりました。ありがとうございました。」

リアちゃんが丁寧にお辞儀をする。メモ帳にはびっしりと書き込みがされていた。鏡とビール。この二つがグルンレイドに導入されたら、私のQOLはさらに爆上がりだ。


「この後暇だったりする?お昼ご飯一緒に食べない?」

「本当ですか!予定はないので、ぜひご一緒に。」

リアちゃんが嬉しそうにぱっと顔を上げる。華宴中のグルンレイドのお店のほとんどが異世界の料理だった。もちろんグルンレイドの特産品を使用したものもなくはなかったのだが、すでに私はそれらを食べ尽くしてしまった。五日間で全制覇したのは侑斗さんだけではないのだ。……私も大概だ。


「何かおすすめの場所ある?異世界の料理以外で。」

「……でしたら、私たちの屋敷の昼食を食べてみますか?」

「いいのかしら?」

「はい、問題ありません。」

それは願ったり叶ったりだ。一体どのような料理をグルンレイドのメイドたちは食べているのだろうか。必ずそのスタイルの良さの秘密が隠されているはずだ。あの完璧なプロポーション、透き通るような肌、艶やかな髪。食事に秘密があるに決まっている。グルンレイド信者としては、その食事のレシピも手に入れたい。


ーー


ーーハルーー


「以上で舞踏宴を終了いたします。」

うぉーという歓声とともに、メイド長が終了の宣言をしていた。その歓声とは裏腹に、私はこの最終日の全ての試合に絶句していた。周囲を見渡してみると、やはり私のように驚きを隠せない人たちがちらほら見かける。


「これがマリー・ローズ……」

私の視界の先で立っている先ほどまで戦っていた二人のマリーローズを見つめる。片方が赤髪、もう片方が白と緑の入り混じった髪だった。その剣が描く軌道の一つ一つが芸術の域を超えていて、唱えられる魔法の全てが完成されている感じがする。やはり何度も思う、私たち異世界人が到達することのできない領域にいると。


「ハルさんではありませんか。」

「どちらで……め、メイド長さん!」

心の底に染み渡ってくるような澄んだ声の方を向くと、そこには超絶美人が立っていた。


「どうでしたか?舞踏宴は」

「素晴らしかったです!」

これは隣国もグルンレイド領に変にちょっかいを出そうとは思わなくなるはずだ。


「あれほどの力を持っているメイドたちが数多くいるグルンレイドを、隣国はどう思っているのでしょうか?」

どうしても気になってしまい、メイド長さんに聞いてしまった。


「周辺貴族各々は膝を折っていますが、国ともなるとプライドが許さないのでしょう、かなり高圧的ですよ。」

王国や共和国、亜人国など様々な国がこの世界には存在するが、そのどれもがグルンレイド辺境伯を認知していると言っていた。私からしたらこれほどの力を持つ存在を認知するのは当たり前だという考えになるが、よく考えれたいち辺境伯の名前が世界に轟いているというのは驚くべきことなのだろう。


「すごいですね……」

スケールの違いに、この言葉しか出てこない。私がいかにあっちの世界で何も考えずに生きてきたかがよくわかる。努力の量というか、向上心というか、そんな感じのものが圧倒的に足りない。


「そうですね、ご主人様は素晴らしいお方です。」

私はグルンレイドのメイドたちも含めてそう言っているのだが……まあ、グルンレイド辺境伯がすごいことには変わりないので何も言わないでおく。


「いつか、あなたたちの世界にも行ってみたいとおっしゃっておりましたよ?」

「私たちの、世界にですか……。」

確かに私たちがこっちに来れているのだがら、あっちに行くことができないと断言することはできない。それを自らの手で成し遂げようとしているのか……。


「私も協力できることがあれば、協力させてください!」

「ありがとうございます。」

そう言って、メイド長さんとの話は終わった。


この一週間で感じたことはたくさんある。あっちの世界でもこっちの世界でも私はもう少し行動を起こさなければいけないようだ。

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