ロンド1
「よかったね、死ななくて。」
「確かにあんな人間に出会ってこうして息をしているだけでも奇跡のようだが……いやよくない!」
そういって私の隣で騒いでいるのはロンドである。邪神を自分のものにしようとして失敗したやつ。
私とメルテは天界から人間界へ戻れなくなってしまったが、目を覚ましたロンドの案内でなんとかグルンレイド領まで帰ってくることができた。その点に関しては感謝しているが、グルンレイドに攻撃を仕掛けたことは怒っている。
「あんなものが人間であるはずがない!」
ご主人様の魔力を直に感じたのでそのようなことを言う。確かに私も出会ったときはご主人様の魔力を直に観測してしまって吐いてしまったことがあった。
ロンドはグルンレイドの屋敷に連れてこられた後、ご主人様の前ですべてを告白した。グルンレイドを危険に追いやった存在としてその場で処分されてもおかしくなかったが、そのようなことはなかった。
「ここでそういうことを言うと、首が飛ぶよ?」
そうここにはイザベラ様もいるのだ。ご主人様に対する不敬な発言は本当に命にかかわる。そういうとロンドは口を閉じてあたりを見渡す。
「お前は、なぜ私を殺さないように意見をした!」
「別に、気まぐれ。」
本当はにただの気まぐれである。別にご主人様に消されようとも私の心はちっとも痛まないのだが、ロンドの魔法と聖法を両方が使える能力に有用性があるのではないかと考えた。けれどやはりそれをご主人様の前でロンドを庇うように発言したのは、気まぐれでしかない。
「お前のあの発言がなければ、私は死んでいただろう。……ありがとう。」
普段はけんか腰なのに、こうやってしっかりお礼を言うところはかなりいいね。そしてちょっと上目遣いにこちらを見るところもかわいくなくはないと思う。
「それで私はどこに連れていかれるんだ。」
本人は牢屋だと思っていらしいが、グルンレイドの屋敷に牢屋などない。今日から私の部屋で泊まってもらう。
「私の部屋。」
「なっ!なんだと!」
ご主人様に『ロンドの滞在を許す、だが責任は持て』といわれたので、私がロンドの面倒を見ることになったのだ。客人であればいくらでも一人部屋を用意するのだが、ロンドは客人ではない。一人部屋など贅沢すぎる。ということで私の部屋で預かることにした。
「私は男だ!お、お前と一緒の部屋はだめだろ!」
何がダメなのだろうか。別に私の方が圧倒的に力があるから、心配するとしたらロンドの方だろうに。
「ここには女しかいないように見えるが、男はいないのか?」
男部屋があると思っているらしいが、そのような部屋はない。
「ここにいる男性はご主人様と、マーク様だけだよ。マーク様はヴィオラたちと一緒の部屋だからダメだとして……ご主人様と一緒に寝る気?」
「……勘弁してくれ。」
命がいくつあっても足りないというような表情をしている。そうなるとやはり私の部屋で寝るしかない。
「共同のお風呂は入れないから、私の部屋のシャワーを使ってね。」
そうこう話しているうちに私の部屋の前につく。マリー・ローズは基本的に一人部屋である。たまに雷が鳴る夜など、ヴァイオレットがスカーレット様の部屋に枕をもって入っているのを見かけるのだが、それは例外だ。
「これがメイドの部屋かよ……。」
そういってロンドは驚いた表情を見せる。確かに貴族の部屋だといわれてもおかしくないくらいに立派ではある。
「入って。」
私が部屋の中に入ってもロンドは入ろうとしないので、そのようなことを言うとしぶしぶ中に入る。
「思ったより、きれいな部屋だな。」
「どういう意味?」
ロンドをにらみつける。
「い、いや、お前結構大雑把な性格だから……ははは。」
そうして視線を逸らす。確かにロンドと天界から戻ってくるときに何度か野宿をしたのだが、適当すぎると怒られたことは一度や二度ではない。
「ここでは私がルールだからね。私の命令には従うこと。」
「メイドが命令するのかよ……。」
「文句ある?」
「……ない。」
そうしてロンドを黙らせると私は早速私服に着替えるためにメイド服を脱ぐ。自分の部屋では服装は自由でいい。メイド服はかわいいから嫌いではないんだけれど、やはりいろいろな服を着たい。
「お、おい!」
その瞬間ロンドが目を伏せる。
「いい心がけね。もし見たら目を潰すよ。」
「だったら脱ぐな!」
「ん?ここは私の部屋よ?」
まあ野宿をしたときも普通に脱いでたから別にいいかなと。その時も少しでもこちらを見たら目を潰そうかと考えていたが、ロンドがこちらを見た様子を観測することはできなかった。割と真面目である。
「終わった。」
「今度からは脱ぐときはぬぐっていってくれ……。」
「まあ、そうだね。」
そう言って私は頷いた。
ーー
ーーロンドーー
「今日はカブの港に行く。」
アシュリーの部屋で身だしなみを整えているときにそういわれた。アシュリーの朝は早いようで朝の5時30分くらいにはすでに目を覚ましている。私も一応上の立場であるアシュリーよりも寝ているわけにはいかないので、同じくらいに目を覚ます。
「ロンド、返事。」
「はいよ。」
私の気の抜けた返事が不満だったのか、ちらっとこちらを見る。いつもはメイド服を着ているがこの部屋にいるときは、動きやすそうな服を着ていることが多い。人間の服などよくわからないのでこれが普通の服だと思ったが、話を聞くと異世界のデザインを取り入れた服らしい。
「カブの港はしってるの?」
「唯一極東に行くことのできる港だろ?」
極東周辺に関しては私もかなり調べていたのでカブの港くらいは分かる。
「そう、グルンレイド領から山を一つ越えてすぐの港。」
「なんで今日はそこに行くんだ?」
「最近そこに海賊が出るらしくて、それの調査。」
……グルンレイド領でもないのに、なぜその港をここのメイドたちが守るような動きをするのだろうか。
「あっちがグルンレイド領に頭を下げるからだよ。」
心が読まれることにはもう驚かない。ここではどちらかというと精神魔法を防御するほどの魔法障壁や聖法障壁を張ることができない方が悪いらしい。私はアシュリーの精神魔法を完璧に防御することはできないので、ある程度は読まれてしまうのは仕方ないだろう……とあきらめるしかない。
「グルンレイド辺境伯はすべてを破壊しつくすようなやつだと思っていたんだが……」
「別に向こうが降伏してくるなら滅ぼす必要ないじゃん。」
攻撃してきたら攻撃し返すというスタンスのようだ。無条件降伏をしてくる相手にはむしろ優しく対応しているらしい。
「だから周辺の貴族は無条件で降伏するし、王国の民も頭のいいものはグルンレイド領へと移住してきてるよ。多少の選別はあるけど。」
っ……王国の民が一貴族の領地へと移住するなんて聞いたことがない。まあ、それほどまでにここの領主の名が知れ渡っているということだろう。
「だけど王族や王国に根付いている貴族どもは駄目だね。無能しかいない。愚かにも私達グルンレイドに敵対しようとしている。」
「それが普通なんだよなぁ……」
たかが辺境伯に従うような王族など普通はいない。
「ところで出発はいつだ?」
「9時くらいにしよっか。私は掃除や洗濯を済ませてから行くから、ロンドはご飯でも食べてなよ。」
「そうする。」
アシュリーという最強のメイドですら掃除や洗濯といった私からすれば雑務のようなことをする。しかしここのメイドたちはこの仕事を"誇り"ととらえているようで、剣技や魔法が優れていると掃除や洗濯が優れているは同列に扱われるらしい。……人間の考えていることはよくわからん。
そんなことを考えながら私は食堂は向かった。
「おーっほっほっほ!おはよう!」
「げっ……」
「げっ、とは何よ!」
食堂に行ってエミリアから朝ごはんをもらおうと思った矢先、一番絡まれたくないやつに絡まれてしまった。吸血姫・ルナである。
「その後、調子はどう?」
「まあ、殺されることはなかったな。」
「急に謝りに来た時はびっくりしたけど、無事ならよかったわね。」
天界からここへやってきたときグルンレイド辺境伯の許しをもらうことはもちろんのこと、メイドたち一人一人に私は頭を下げに行ったのだ。これもアシュリーの案だが正直やってよかったと思う。大体のメイドの顔が分かったし、何より気持ちが楽になった。唯一懸念点があったとすれば、謝っている途中に殺されるかもしれなかったということくらいか。ここはグルンレイドを自分の命より大切に思っている奴であふれかえっているからな……。
「そばにアシュリーがいたのが幸いだったのかもな。」
「そうですわね。そばにアシュリーさんがいれば、あなたも変なことはできないと思うし。」
「もうするわけないだろ……」
これほどまでに圧倒的な力を見せつけられて、まだ叛逆する意志などもてるはずがない。
「それでは私は忙しいからあなたの相手をする時間はないの。じゃあね!」
……そっちから話しかけてきたんだろう。まああいつに限っては言い返すだけ無駄だ。
「ロンドさん、おはようございます。」
「お、おはよう、ございます……」
毎日グルンレイドのメイドのために料理を作っているエミリアだ。毎日顔を合わせているつもりだが、まだアシュリー以外のメイドと話すのは緊張する。
「今日もアシュリーさんの部屋で食べますか?」
「あ、あぁ」
「たまにはこちらで食べてみては?」
「まだ少し、場違い感がありそうで……」
食堂にはいくつかのテーブルがあり、数名のメイドが食事をしている光景が広がっている。しかし私は緊張というか、居心地がよくなさそうで一度もここで食事をしたことがない。いつもアシュリーの部屋へともっていっている。
「でも一人で食べている人も珍しくありませんよ?ほら、そこに座っているリリィちゃんとか」
リリィ・ローズ。こいつも謝りに行った時以来話してはいないが、すごく腰が低い印象だったと思う。……確かに私は屋敷内を歩いていても聖族だからといって珍しげにじろじろ見られることもない。むしろ興味がないというか『聖族くらい当たり前にいますよ?』といった態度なので浮いているということはないのかもしれないな。
「まあ、今すぐにということでもないので、アシュリーさんと来てからでも遅くないですね。」
「悪い……」
「いえ、問題ありません。はい、今日の朝ごはんです。」
といっていくつかの料理が並べられたお盆が飛んでくる。
「ありがとう。」
それを受け取って、私は部屋へと戻っていった。
ーー
グルンレイド領を出発し、カブの港へ到着したわけだが、私が想像していたよりもにぎわっている港だった。おそらく王国周辺の港の中では最も栄えているのではないだろうか。
「これもグルンレイドのおかげなのか?」
「そうだね。魔物の被害もないし、盗賊や海賊も手を出してこないからね。」
「まあ、今回は海賊が手を出してきたけどな。」
「ほんとに。どれだけ愚かな行為かわかってるのかな。」
私としてはその恐ろしさは十二分に知っているのだが、噂しか耳にしないやつらは『所詮辺境伯だろ?』と判断してしまうのも分からなくはない。
「お待ちしておりました。」
大きな建物の前に立っていた時、アシュリーにそう声がかかった。ここもグルンレイド領の町と同じで隣に翼のある珍しい聖族が立っていようとも、メイドの方に声がかかる。面白いことに地位としては聖族よりメイドの方が高いらしい。
「外でのお話はなんです、こちらへどうぞ。」
ここは……冒険者ギルドのようだ。その受付嬢らしき人間の女が、大きな扉を開ける。私達がその建物に入ったその瞬間、先ほどまでがやがやしていたであろう空間に糸を張り詰めたような静寂が訪れた。
「お、おい……あれが噂の……」
「グルンレイドのメイドか……」
私たちに聞こえないようにしゃべっているつもりだろうが聖族である私は人間よりも数倍聴覚が優れている。もちろん観測魔法を常に発動しているアシュリーには丸聞こえだろう。
「絶世の美女と聞くが……」
「だな、実際に目にすると恐怖の方が勝つような……」
「見ろ、隣は聖族だ。初めて見た……」
「俺はそっちの方が好きだ。」
「確かに美人だ……」
私は男だ……って、うお!な、なんだ、アシュリーが私を殺す勢いでにらんでいる!?ま、まて私は何もしてないぞ!
「ロンド、顔を隠しなさい。それか自分で殴って顔の形を変えて。」
「理不尽だ……」
確かに人間よりも聖族の方が顔が整っているとはいえ、アシュリーだって整っているほうだ。しかしそのような評価になってしまうのはアシュリーから漏れ出る高密度の魔力のせいだろう。抑えているとはいえ、普通の人間にとっては十分すぎるほど濃い。
「この奥へどうぞ。」
受付嬢に案内されたのは多くの人間がいた広い部屋ではなく、その奥にある少し小さめ綺麗な部屋だった。
「グルンレイドのメイド様、ようこそお越しくださいました。」
そして奥から出てきたのはかなりしっかりとした装備に身を固めた男の人間だった。
「カブの港のギルドマスター、ラキウスと申します。」
強さで言えばランクA+くらいだろう。グルンレイドのメイドを日々見ている私からするととても弱いという評価だが、人間にしては強いのかもしれない。
「初めまして。グルンレイドのメイド、アシュリー・マリー・ローズと申します。この土地の担当のフィオナ・ローズの代わりこちらへ伺いました。」
本来であればフィオナがカブの港の管理を任されているようで、海賊の討伐もフィオナが行う予定だったのだと思う。だがフィオナは今別の任務が入っているということだったので、代わりに私たちが来たということだ。
「……。」
「どうされました。」
アシュリーが声をかけると、はっとした様子で再び話始める。初めてグルンレイドのメイドがするお辞儀を見た人は必ず見惚れる。何か私の知らない魔法でも使われているんじゃないか?と思うほどだ。
「そ、そちらの聖族様は……」
アシュリーに目線で合図される。自分で自己紹介を白ということだ。
「私の名はロンド。グルンレイドのメイド、アシュリー・マリー・ローズに仕えているものだ。」
メイドに仕えるってどういう概念なんだ……と思うが仕方ない。そもそもグルンレイドにおいてメイドという立場は領主の次に高い立場なのだ。メイドに仕える存在がいてもおかしくはない。……いや、おかしいな。
「よろしくお願いいたします。」
そういって私に深々と頭を下げる。
「海賊が出ると聞きましたが、具体的に教えて下さい。」
案内されたソファーに座り、私は目の前に出された紅茶と焼き菓子に目を向ける。グルンレイドの食事を知ってしまうと、他のところの食事があまりおいしく感じないんだよな……。
「ここ数日、夜になると港の漁船や市場が襲われるのです。」
「漁船が……?」
「はい、おそらく海賊の目的は新鮮な魚介類でしょう。」
「分かりましたが……魚のために漁船を襲うものでしょうか。」
アシュリーとギルドマスターの話を聞きながら私は焼き菓子を手に取る。少し温かい……焼きたてか。口に入れると思ったよりもおいしくて驚いてしまう。もしかしたらグルンレイドの料理の技術などもこちらへ伝わっているのかもしれない。
「そこなのですが、もう一つ理由があると考えました。それはとある貝の中にまれに入っている”宝石”です。それはとても価値の高いもので、一つで大金貨1枚(100万円程度)ほどになるといわれております。」
「宝石……それなら動機としては納得がいきますね。」
宝石は普通であれば山などでとれるイメージだが、海でとれるものは一体どのようなものなのだろう。ちょっと気になってきた。
「分かりました。調査してみます。」
「ありがとうございます。ここにいる冒険者の方々も海賊の討伐を行っているのですが、毎度返り討ちにあってしまうのです。お気をつけて。」
さっき見た冒険者はざっとランクB程度の実力だった。敵はそれ以上という可能性が高いということか。私は立ち上がり、この部屋を出ようとするが
「ここらへんで一番有名な宿を教えてください。」
アシュリーがそのようなことを聞く。
「マリネ亭が有名でしょう。」
「お、おい、宿泊する必要あるか?」
「イザベラ様は"明日の午後までに帰ってくれば問題ありません"といっていたから大丈夫。」
「そういう問題か……?」
まあ私がアシュリーに逆らえるはずもないし、別にここで宿泊することに反対のわけではない。むしろ人間界の宿泊施設を体験できるという点では私にとってもプラスになると思う。
「分かった、泊まる。」
「ん?あんたも来るの?」
「はぁ!?私は泊めないつもりだったのか!?」
アシュリーは私の問いには答えずに、鼻歌を歌いながらギルドを出ていった。
ーー
「私の分も予約していたのなら早く行ってくれ……」
「ごめんごめん。」
今夜は寝ないか、一度グルンレイド領に飛んで戻ろうかと考えていたところだ。しかし私は今この港で最も高級とされる宿の受付にいる。えっと……私の部屋番号はどこだろう。
「二人部屋ですね、こちらが鍵となります。」
受付の人間がそう言ってアシュリーに鍵を渡す。……二人部屋!?わ、私だけの部屋は……?
「ないよ。」
「なぜだ!」
「この方が安いから。別に自分で出すっていうなら別々の部屋でもいいけど。」
「うっ……」
そう言われてしまうと私は何も言い返せない。なぜなら私は人間界の通貨を持っていないからだ。しかも私はグルンレイド辺境伯に慈悲で殺されずに生かしてもらっている身だ。アシュリーの元で普通の人間以上の生活はできているが、賃金なんてもらえない。
「そういうことなら、まあ、仕方ないな。」
せっかく久しぶりに自分一人でゆっくりと過ごせるかと思ったのだが……仕方ないだろう。それとアシュリーと生活するのにも慣れてしまったから、別にそこまで苦というわけでもない。
「私も別にロンドなら苦じゃないよ。女の子みたいだし。」
「私は男だ!」
こんなふうにすぐに馬鹿にするところは嫌いだ!
「ま、そんなことより早く着替えてご飯食べに行こう。」
「メイド服じゃなくていいのか?」
「歩くたびに注目されるんじゃゆっくり観光もできないからね。」
確かにここでメイドの格好をして歩くだけで、多くの視線に晒され注目を浴びてしまう。ゆっくりすることなんてできないだろう。
「ロンド、ここ。」
話してる間に私たちが宿泊する部屋までたどり着いたようだ。
「ここか……じゃあ入るぞ。」
アシュリーに渡された鍵を使って扉を開ける。
「お、なかなかいい部屋だな。」
「まあ、そうだね。」
アシュリーはあまり驚いている様子はなく、ズンズンと部屋の中へ入っていった。確かにグルンレイドのメイドの部屋に比べるとかなり劣っているが、これも人間界では立派な方ではないのだろうか。
「海はきれいだね。」
大きな窓からはさらに広大な海が一望できた。確かにこれはグルンレイドでは絶対に見ることのできない景色だ。そのほかにも舵や碇といった船に使われている道具がインテリアとして置かれている。
「ベッドは……二つ?や、やった!」
今までずっと床に布団を敷いて寝ていたのだが、これで久しぶりにベッドで寝ることができる。私は真っ先にベッドへと飛び込むと、ボフンという音とともに私の体を布団が包み込んだ。
「ベッドで寝られるとでも?」
「ね、寝られないのか!?」
「ま、寝ていいけど。」
驚かせることを言うなよ……。
「着替えるから。」
そう言われた瞬間私はすぐに海の方を向く。毎度のように言われるため、私は反射的に目を逸らすことができるようになってしまっていた。
「それじゃ、行こうか。」
……相変わらず着替えるのが早い。メイド服だって脱ぐのにかなりの時間がかかると思うのだが、かかった時間は10秒程度だ。早着替えの魔法でも存在するのか?
「聖族って食べられないものある?魚とか。」
「普通に食べられるぞ?むしろ人間より食べられるものが多い。光とか。」
「光も食べられるんだ……。」
食べるって表現は正確ではない気がする……吸収するという感じだ。聖族は極論光だけ浴びていれは死ぬことはない。しかし光だけでは“死ぬことはない“だけであって、活発的な活動、例えば歩くや手を動かすということをする場合は肉や植物などからの栄養が必要不可欠となる。
「まあ、魚が食べられるならいいよ。」
港といえば新鮮な魚介類を使用した料理だろう。天界に海はなく、グルンレイドでも生の魚が出ることはないのでかなり楽しみではある。
—
「いらっしゃい!」
やってきたのは海の近くにある開放的な海鮮丼屋だ。こういう人間の庶民的な店にくるのは初めてだから少し緊張しながら席に座る。
「ここ、クレアのおすすめだって。」
「ふーん。」
クレアというのはグルンレイドの見習いのメイドだ。茶色によった金髪に真っ直ぐな髪が特徴的だった気がする。メイド見習いといえばなんか弱そうな気がするがそんなことはなく、普通に私は勝つことはできない。
「メニューは……」
「あれにする。」
アシュリーがメニューをとっているときに、私は数席隣の人間が食べていた海鮮丼を見ながらそういう。一つの種類の魚の切り身だけでなく、数種類のものがのっていていろいろな味を楽しめそうだ。
「じゃあ私もそれで。」
「いいのか?アシュリーの好きなものを頼めば……」
「いい。」
メニューくらい見てから決めても遅くなかったんじゃないか……?まあ、本人がいいといっているのだから別にいいか。
「ご注文は?」
「あのいろんな種類が入ってるやつが二つ。」
「はいよ。」
今となっては人間界の店で注文することにも慣れてきた。そのほか基本的な雑務は私がやるので、お茶の入れ方や掃除の仕方まで完璧だ。あれ、聖族の威厳は……?だが完璧だといっても、やはりグルンレイドのメイドであるアシュリーには敵わない。
「はいお待ち!」
「はやっ!」
注文してから数10秒だぞ……。まさか魔法士が……?
「そんなわけないじゃん。さ、食べるよ。」
ま、まあ加熱調理などがないからこれほど早く作ることができるのだろう。これがプロの仕事か……。
「いただきます。」
「いただきます。」
私はフォークを使って魚の切り身を口に入れる。う、うまい!なんだ、この口の中に広がる広大な海の味は……。
「ふむ。むふふ。」
アシュリーの顔がにやけ始める。こ、こんな顔もするのか……。今まで見たことのないくらい緩みきった表情をしていた。やはりうまいものを食べると人間も聖族も関係なく幸せになるんだな。




