過去編:コトアル1
「は、初めまして。メアリーと申します。」
ぺこりとかわいらしく頭を下げるのは、新たにグルンレイドのメイドに加わったメアリーだ。
「まずはスカーレットの元で基本的な仕事を覚えてください。」
「わかりました。」
スカートの丈が長すぎて、少しでもしゃがんでしまえばすぐに地面に着いてしまいそうである。……子供用のメイド服も用意しなければいけないようだ。
「な、なんだこの可愛い生き物は……」
ヴァイオレットが目を輝かせながらメアリーへにじり寄っていく。
「や、な、なに!?」
サッと身を守るようにして、身をすくませていた。
「怖がらせないの。あとキモい。」
「キモ……あ、アシュリー、貴様!言ってもいいことと悪いことがあるぞ!」
そしていつも通りに睨み合っていた。本当に仲がいい。
「でも確かに可愛らしいわね。」
「で、ですよね!スカーレット様!」
「スカーレット様とヴァイオレットじゃあ全然いい方が違うっての。」
スカーレットも気に入ったようだし、ひとまず顔合わせは成功だ。
「スカーレット、しばらくの間あなたの部屋にメアリーを泊めていただくことはできますか?」
「はい、問題ありません。」
10歳程度の子供に、いきなり新しいところで一人で寝かせるわけにもいかないだろう。しばらくの間はスカーレットとともに過ごしてほしい。
「ず、ずるい……私もスカーレット様と……い、いえ、なんでもありません!」
私が声のする方を見ると、ヴァイオレットが姿勢を正して立っていた。アシュリーはそれを見て笑っている。
「それではスカーレットよろしくお願いします。」
「かしこまりました。」
そう言ってメアリーを連れてこの部屋を出て行った。
「ミクトラには合わせなくていいですか?」
「合わせる必要はありますが、今すぐにでなくてもいいでしょう。」
ミクトラは一通りのグルンレイドのメイドとしての生活を教えてから、本来の仕事である天界の門の守護へと戻ってもらった。私が思った以上に物覚えが良く、すぐに基本的なことはマスターしていた。唯一、時間がかかったのは華流の習得だろうか。今まで魔法しか使用してこなかったということや、霊族であるため剣を手で持つことができないといった問題が多々あったからだ。結局はなんとかなったので、無事に天界の門の守護へと戻っているわけだが。
「そういえば、ご主人様よりアシュリーとヴァイオレットに新たな命令が下されました。」
「……なんでしょうか。」
真剣な表情になりこちらを向く。
「内容は天界の門の調査と似たようなものです。」
「ということはどこか未知の領域へ向かい、調査するということですか。その場所は……」
「魔界の門です。」
驚いているような表情は二人からは見られなかった。確かに天界の門があるということは、魔界の門もあるだろうと予想はできそうなものだ。
「前回は極東の上空というように領域が限定されていましたが。今回はそのようなことはあるのでしょうか。」
「えぇ、あります。ご主人様が文献によって得た知識によると、精霊国の地下深くに存在するようです。」
「精霊国……」
精霊国とはその名の通りに、精霊が住んでいる国です。人間や亜人その他の種族の立ち入りは一切禁止されていて、精霊以外の存在が入国することはできないのだとか。
「精霊について、教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「私も知りたいです。」
アシュリーとヴァイオレットがそういう。確かに精霊に関して詳しく知っているものの方が珍しいだろう。
「精霊とは肉体のない思念体のようなものです。土地や人、ものなどに宿ることがあります。例えば土地に宿ると枯れていた土地が再生したり、汚れていた水が浄化されたりしますね。」
「会話は可能なのでしょうか。」
「可能です。人里へ降りてくるときは肉体を魔法で構成してやってくるようです。」
「強いのでしょうか?」
「基本的には人間がかなわない相手、と言われております。」
ご主人様は精霊にあったことがあるようだが、私は一度もないので強さはよくわからない。
「肉体のない……って、ミクトラみたいですね。」
「そうですね、概念的にはミクトラと似たようなものです。しかしミクトラよりも実体を持っている感じです。ミクトラに聞けばもう少し詳しいことをおしえてくれるでしょう。」
するとアシュリーは嫌そうな表情をする。そういえばミクトラは私やご主人様には素直に従うのだが、彼女たち二人には全く従おうとしなかった。ちなみに最初はスカーレットのいうことも聞かなかったが、力ずくでミクトラをボコボコにしたようで言うことを聞くようになっていた。
「今回は精霊国の力がどれほどかが未知数ですので、あなたたちだけにお願いするわけではありません。」
「と、言いますと?」
「スカーレットも同行させます。」
今度はヴァイオレットの表情が明るくなる。
「天界の門を確認したらすぐにこちらへ帰還してください。」
「かしこまりました。」
後数日後、メアリーがこの屋敷の暮らしになれて一人でも寝られるようになったら調査へ向かってもらうことにしよう。
精霊国は王国や極東方向ではなくその逆、グルンレイドから西に存在する国である。ちなみに北には共和国、南には亜人国がある。
「とりあえず私の魔法で精霊国近くまで移動するから、後はアシュリー、お願いね。」
「かしこまりました。」
そう言って私は頭を下げる。以前よりも観測魔法の精度は訓練によって上がっているはずだ。地下にあるらしいので空中を探すよりも大変だと思うが、頑張ろう。
「基本的には隠密行動でいくわ。」
「はい、ですが精霊に隠蔽魔法は通用するのでしょうか。」
「……わからないけれど、戦闘にならないに越したことはないわ。」
「そうですね。」
もし戦闘になったとしても、スカーレット様がいれば死ぬことはないと思う。勝てないほど相手強くても時空間魔法で逃げて来ればいいし。
「それじゃあ、いくわよ。」
「「はい」」
そうして私たち三人は精霊国近くへと飛ばされた。
—
「……森ね。」
「森、ですね。」
空中へと放り出されたのだが、目下をみると広大な森が広がっていた。グルンレイド領の大森林と比べると、木の種類や魔力密度が違っていたが細かな違いなんて私はわからなかった。
「どう?アシュリー。」
「……この森の中で一部だけ“魔力が観測できない部分“があります。」
精霊は魔力核がなく魔法を使用しないと聞く。もう少し近づいて聖力が観測されたら、精霊国の可能性がとても高くなる。
「そう、じゃあ近づいてみましょう。」
スカーレット様に続いて森の上空を飛んでいく。魔力密度的には危険度B程度の魔物が蔓延っていると予想する。普通の人間ではここで生存することは難しい、というかこの森に侵入しようと考える者もいないだろう。
かなり上空を飛んでいるが、魔物たちに気づかれないようにこの時点から隠蔽魔法を使用することにした。
「スカーレット様、ご覧ください!」
ヴァイオレットが指を刺した方向を見ると……まだ森なんだけど?しかし魔法によって拡大して見てみると、見たこともない建造物が広がっていた。ヴァイオレットに魔力反応はない、ということは龍族は元から目がいいんだね。
「見たこともない建造物……そして聖力……おそらくあそこが精霊国だと思われます。」
「そうね。念のためにもう少し隠蔽魔法を強化しようかしら。」
というとスカーレット様はさらに強い隠蔽魔法を私たちに唱えてくれた。すでに私が展開していた魔法に介入し大幅な強化がされる。私たちはもう驚かないが、これは“常識では考えられないようなすごいこと“なのだ。グルンレイドのメイドでさえも簡単に真似ができるものでもない。
「二人とも気をつけていくわよ。」
「「はい!」」
そう言ってスピードを上げて飛んでいった。
精霊国には城壁などはなく、木や土などで作られた建造物が至る所に立っていた。書物で見たエルフの住処に比べるとかなりこまかなところまで彫刻されていたり、建造物も巨大だった。木や土というと少し汚れているイメージがあるが、この景色をみる限りそんな印象は全く受けない。
「センスがいいわね。」
「そうですね。」
スカーレット様とヴァイオレットも目を奪われていた。整備された道を進んでいくと至る所に聖力を観測した。精霊の姿こそ見えないが確かにそこにいるのだろう。周囲を警戒しながら下に観測魔法の意識を向ける。
「こちらです。」
魔界の門は魔界に繋がっている。ということは魔力密度と瘴気密度が高いところであると予想を立て、私は進んでいく。
「今の所私たちに気づいた存在はいないようです。」
私は聖力に関して、『これくらいの聖力がこれくらいの強さ』という基準がわからないので、これらの精霊たちが脅威となるのかがわからない。私たちを観測できていない時点でそこまでの強さとは思えないけど……油断は禁物だろう。
私たちは大きな建造物の中へ入り、そして地下へと進んで行った。階段のように整備されているわけではなく、どちらかというと木でできた洞窟ようなものだ。真っ暗であるため明かりをつけたいのだが、発見される危険性があるので観測魔法のみで移動していく。
「これは、ダンジョンね。」
「ダンジョンというのは……?」
スカーレット様の呟きにヴァイオレットが訪ねる。
「簡単にいうと、魔物が住む洞窟よ。」
ダンジョンや迷宮とも呼ばれるこのような場所は他にもたくさん存在している。多くの冒険者が探索を行なっているようだ。冒険者がダンジョンに行く理由は魔石とドロップアイテムの入手が目的だ。魔石は魔道具のエネルギー源となるし、アイテムは換金することでお金になる。
しかしここは精霊国。人間の冒険者が探索できるような場所でもない。精霊以外は知らないと言っても過言ではないだろう。
「木から土に変わってきましたね。」
下手に衝撃を与えてしまえば崩れてしまいそうだが、私の想像よりも広い洞窟だったので閉じ込められるという恐怖は少なかった。
それにしても魔物が一切いない。それもそのはずだ。この洞窟の魔力密度は魔力だまりができないくらいに薄いのだ。ただこの洞窟を進んでいくにつれて、確実に魔力密度は上昇している。魔物が出現するもの時間の問題だろう。
予想通りに徐々に洞窟内の魔力密度が上がっていき、弱い魔物が出始めてきた。ゴブリンが数匹現れるが、隠蔽魔法を使っている今、特に戦う必要もないのでそのまま無視して通り過ぎる。
『瘴気も濃くなってきているわ。気を付けて。』
『かしこまりました。』
言葉にしてしまうとせっかく気配を消しているのが無駄になってしまうので、魔法によるメッセージでやり取りをする。
『アシュリー、あとどれくらいかわかるかしら?』
『そうですね。入口からここまでの距離の3倍から4倍先にあると思います。』
『そう、ありがとう。』
平たんではない道を進んでいると平衡感覚が分からなくなってくる。しかし今のところ一本道なので特に迷う要素などないのだが。
『もう少しスピードを上げるわよ。』
スカーレット様がそういうと飛行するスピードが上昇する。そこまで神経質に気を付けているわけではないが、なるべく洞窟内に足跡などの痕跡を残したくないので飛んで進んでいた。
『止まってください。』
ある程度進んだ時、私は少し先に今までよりも強い魔力密度を感じてそう伝えた。
『魔物です。しかし今までと比較してもかなり強い……危険度A程度でしょう。』
私たちにとってはそこまで脅威となるわけではないのだが、この狭い空間で大量の危険度Aの魔物がいたとするとそれは脅威となる。念のためにいったん止まっていただいた。
『数はわかる?』
『一つの大きな魔力の塊が観測されております。その大きさの魔物一匹か、それとも小さな魔物が数十匹まとまっているか……すみません、分かりません。』
『……警戒しながらついてきて。』
ゆっくりと浮遊し、先に進んでいく。そしてその先には……大量のネズミのような魔物たちが見えた。
「っ!」
『しゃべらないで。』
私はあまりのおぞましさに息をのんだヴァイオレットに注意をする。大丈夫、まだばれてない……。しかしそばを通り過ぎようとした瞬間、色の違う一匹が私と目が合った。まずい……。
「キュィィィィ!!!」
そして叫びだす。その声は魔法が付与されているようで私たちの隠蔽魔法が拡散されていく。そして次々に私たちの方に赤色のおぞましい目が向けられる。
「ばれたようね。」
スカーレット様が剣を取り出すのに続いて、私たちも戦闘態勢に入る。この叫び声などが伝わり遠くの魔物をおびき寄せないようにするために、私は周辺に防音魔法を展開する。これで洞窟内に音が響くことはないだろう。
「ヴァイオレットは敵をせん滅、アシュリーはその補佐、私はあの真っ赤なネズミを消してくるわ。」
「はい!」
スカーレット様が消えるように魔物群れに向かっていく。
「スカーレット様の道を、開けろ!華流・一線!」
ヴァイオレットが剣を抜くとたくさんのネズミが斬られ、群れに一本の道ができる。
「キュィ!」
ものすごいスピードでヴァイオレットにネズミがかみつく。
「いっ……たい!」
それを腕力で叩き落とす。ヴァイオレットの魔法障壁も決して弱くなはい。しかし腕からは血を流していた。あの牙は魔法が付与されているようで私たちにダメージを与えうるものだった。
「ヴァイオレット、あまり進みすぎないで。ヒール!」
「わかっている!」
私はヴァイオレットの傷をすぐに回復させ、念のために解毒もしておく。龍族であるヴァイオレットに状態異常は効きにくいのだが、だからといってやらないというわけにはいかない。
「キュキュ!」
「くっ!」
私は何とかネズミたちの攻撃をよけつつ攻撃をしているのだが、一向に数が減る気配がない。
「華流・周断!」
ヴァイオレットの攻撃に数十匹のネズミが切断される。が、その死体を踏み台にして次々にとびかかってくる。
「っ、きりがないな!」
「ファイアーアロー!」
私は炎の槍を飛ばすが、焼けたのは最前列のネズミだけ。その後ろのネズミは焼けた死体を盾にして身を守っていた。
「もう少し強い魔法で……」
私とヴァイオレットが次の攻撃をしようとしたときに、急にネズミたちの攻撃の雨が止んだ。
「ネズミにしては頭がいいわね。」
そういいながら歩いてやってきたのは、赤いネズミの頭を持ったスカーレット様だった。
「群れのボスがやられたという事実を認識しているんだもの。」
さっきまで獰猛だったネズミたちがスカーレット様をみると後退りをし、距離を取ろうとしていた。
「あなたたちもこうなりたくなかったら、私たちに攻撃しないことね。」
そう言ってドサッと持っていたネズミを地面に投げ捨てる。
「か、かっこいい……」
ヴァイオレットはそれを見て目を輝かせていた。
私たちが大人しくなったネズミの群れのそばを通り過ぎると、その先には入り組んだ迷宮が広がっていた。このネズミたちが掘ったのだろうか?
「あちこちに穴があるわね。アシュリー大丈夫かしら?
「任せてください。やってみます。」
私は全力で観測魔法を唱える。微弱な魔力や瘴気を観測しろ……。するとこのダンジョンはとても広大だということがわかった。私が想定していた数十倍広い……。
ん?私はたった一つ違和感のある部分を見つけた。この洞窟にしてはその部分は四角形に近く形が整えられていたし、何より不思議なことにここより瘴気が薄い。というか存在していない?私はそこを目指すように進んでいくことに決める。
『さっきの赤いネズミの危険度はA+というところね。』
『確かに危険度Aでは私たちの隠蔽魔法を見破ることができなと思いますし。』
再び隠蔽魔法を使用していどうしているが、今の所私たちの存在がバレるという事態には陥っていない。やはりあの赤いネズミが特殊だったのだ。今後もそのような存在がいないとも限らないので、いっそう注意して進まなければ。
と言っても注意すれば特に大変なこともないようで、危険度A+の魔物に気づかれてしまったとしてもヴァイオレットが速やかに討伐してくれた。
『もうすぐ目的の場所へ到着します。』
長い洞窟探索の末、なんとか目的の場所まで到着できた。
『天界の門と同じような形の物体を観測しました!』
『よくやったわ。この先の空間ね。』
そう言ってゆっくりと先へと進んでいくと、広い空間にたどり着いた。
『真っ暗だな。光魔法を使用しても大丈夫か?』
『多少危険だけど。ここには生命反応がないから大丈夫だと思う。……どうでしょうかスカーレット様。』
『いいわ。使いなさい。』
そう言われるとヴァイオレットは光魔法を唱える。
『何、ここ……』
『広いわね……』
明かりが周囲を照らすと、そこには天然物とは思えないような光景が広がっていた。
『壁に彫刻?そのほかにも至る所に金属片が散らばっているな。』
私の知っているような金属片ではなく、複雑に加工され小さな部品のような物だった。こんなに小さなものを作るには一体どれほど緻密な魔法制御が必要になるのだろうか……。
『私でもこれほど小さく金属を加工することはできないわね……』
スカーレット様がそう言っていた。ここには私たちの想像を絶するような強者が存在していた……?そして散らばっている金属片の奥、この部屋の中心に巨大な門が立っていた。
『やった!これだな!』
『よかった……見つかった。』
私も魔界の門らしきものを見つけられて一安心だ。私の観測魔法も日々強化されているとはいえ、確実ではないので無駄足になってしまわないかとかなりヒヤヒヤした。
『それじゃあグルンレイド領へ帰り……』
その瞬間
ピ、ピー、ピ
という音が鳴った。
「光エネルギーヲ感知シマシタ……」
人間の声とは思えないような声が聞こえた。
「っ!」
私たちは周辺を見渡すが、ガラクタばかりでよくわからない。
『気をつけて!』
『はい。』
「コードネーム000……起動シマス。」
ガシャンという音とともに近くの瓦礫が崩れ落ちた。その中から……見たこともない存在が現れる。
「何っ!?」
金属のような物質でできた肌、そこをゆっくりと流れる光……私はその生物とは思えないような外見に驚き、声をだしてしまう。
「生体反応ヲ確認。攻撃ヲ開始シマス。」
その瞬間謎の存在が消え……
「かはっ……!」
腹部に激痛が走った。そして私は壁まで吹き飛ばされる。魔力反応は一切ない。さらに魔法障壁を展開しているにもかかわらずかなりのダメージが入ってしまった。
「アシュリー!くっ!」
ヴァイオレットにも攻撃を行うがそれを間一髪のところでかわす。
「ヴァイオレットは敵の注意を引きなさい!アシュリーはその他の敵がいないか索敵して!」
「「かしこまりました。」」
スカーレット様の指示に従い、私は周囲を確認する。しかし他の敵どころか、目の前で動いている謎の存在すら感知できなかった。魔力が全くない!?
「超加速・エレキレールガン」
「華流・剪定っがぁぁぁっ!」
ヴァイオレットは剣で光線を受け止めているが吹き飛ばされる。
「エクストラヒール!」
腕が焼けているヴァイオレットを私はすぐに回復させる。龍族の耐久力であれだったら、私だったら溶けてるかも……。私は攻撃に魔力を使うよりも防御に全力で注ぐことにした。
「エレクトロ……」
「華流・周断」
ガンという音とともに謎の存在は体勢を崩すが、体には傷がついている様子はない。スカーレット様の攻撃でもダメージを与えられない……。
「硬いわね。」
が、スカーレット様は特に気にしてはいないようだった。再び剣を構え直し、魔力を練り上げる。
「エレクトロ・ストライク」
「っ……華流奥義」
スカーレット様……!うまく攻撃をかわしたようだが、頬を掠めてしまったようで血が流れていた。しかしその右手に持っている剣には膨大で緻密な魔力がまとわりついていた。
「轟一線」
ガシャンという音とともに腕で受け止められるが、そのままスカーレット様は剣をひく。その緻密な魔力は何よりも鋭く尖り、切断することに長けた技へと変貌する。
「……一部損傷、修復シマス。」
切断することはできなかったが、腕と思われる部分に傷が入る。
「治るのね。」
金属の一部が融解し傷を塞ぎ、元通りになる。一体この生き物?はなんなのだ……。得体の知れない存在に私とヴァイオレットはどう攻撃していけばいいのか戸惑っていた。
「二人とも、私が合図したら私の方に飛んできなさい。」
「「はい!」」
その意図はわからないが、私たちはスカーレット様の考えに従う。
「華流・花かんざし」
その剣を腕で止められる。スカーレット様の魔力が流れ込んだようだが、相手に変化は全くなかった。
「超加速……」
「フラッシュ」
っ!突然の光に私は周囲が見えなくなってしまう。おそらくヴァイオレットもそうだろう。
「来て!」
しかし私には観測魔法がある。眩い光の中でヴァイオレットの手を掴み浮遊魔法を唱え、スカーレット様の方へ向けて飛ぶ。
「超級第三位魔法・ヨグ・ソトース」
そして私たちは時空の歪みに飲み込まれた。




