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極悪辺境伯の華麗なるメイド  作者: かしわしろ
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天界13

ーー メアリー ーー


ミクトラとの戦闘の中、邪神は圧倒的な聖力の技を繰り出した。それはミクトラだけでなく、広範囲へ広がる攻撃だった。


光の槍が上空から降り注いだ。何十本、何百本という光の柱が、神殿の最上階を貫くように降ってくる。一本一本が神兵の全力攻撃を上回る威力。それが同時にこれだけの数。


「ご主人様!」

私はすぐに魔法障壁を展開し、ご主人様とイリスを守った。

黒い魔力の壁が、降り注ぐ光を次々と受け止めていく。衝撃が腕を伝わってくる。一発一発は大したことはないが、数が多い。魔力の消費を最小限に抑えながら、全てを防ぐ。


「メアリー、そのままご主人様を守っていてください。」

「はい。」

イザベラ様はそう私に言うと、ロンドの元へと向かいながら、次々に指示を与える。

その声は落ち着いていた。光の槍の雨が降り注ぐ中でも、メイド長の判断には一切の淀みがない。全体を見渡し、最適な配置を即座に組み上げていく。


「スカーレットはご主人様の守護に加わってください。」

「かしこまりました。」

「マークとヴィオラはコトアルの元へ!カルメラとハーヴェストは私に続いてください。」

「おう!」「はい。」

「「かしこまりました。」」

メイド長は二人のメイドを連れて、邪神とロンドに向かっていく。その背中はいつも通り真っ直ぐで、恐れなど微塵もなかった。

そしてすぐに、スカーレット様のパーティが私の元までやってきた。


「メアリー、邪神の攻撃は防げそうかしら?」

「問題ありません。」

「そう。それならよかったわ。」

だけど気は抜かないようにね、とスカーレット様は付け加えた。確かにあの「神撃」という技は、私の魔法障壁に傷をつけるほどの威力があった。光の槍の雨とは比べ物にならない。あの攻撃が再び飛んでくる可能性がある以上、気をつけなければ。


「ヴァイオレットとアシュリーは周囲の警戒を。メルテは私についてきなさい。」

「は、はい!」

メルテはそう返事をして、スカーレット様の近くへ走っていく。そして残りのマリー・ローズ二人がご主人様の近くへ。


「メアリー様、私は何をすれば……。」

イリスが恐る恐るそう聞いてきた。


「魔法障壁に干渉しないように、聖法障壁を張って。魔法で防げない攻撃は聖法で防げるから。」

「はい!」

イリスの聖法障壁が、私の魔法障壁の内側に展開された。

マリー・ローズが三人もいるのだ。例え邪神が百体現れたとしても、ご主人様に傷がつくことはないだろう。


ーー


ーー コトアル視点 ーー



「マーク様、私……。」

「一旦ここを離れるぞ。ヴィオラに捕まれ。」

マーク様がそう言った。

ここを離れて体勢を立て直す。それが最適な判断だ。私の体は先ほどの戦闘でかなりのダメージを受けている。回復聖法で修復は可能だが、時間が必要だ。


しかし。


「……いえ。」

私は首を横に振った。


「このまま戦わせてください。」

マーク様の目を見てそう言った。

体が震えているのがわかる。恐怖なのか、興奮なのか、自分でもわからない。しかし確かなことがある。この足は、もう後ろには動かない。


「そんな目で見るなよ……。」

マーク様が苦い顔をした。

私の手で、邪神を止めたい。その思いが溢れ出てくる。プログラムからの出力ではない。もっと深いところから湧き上がる、止められない衝動。


「コトアル様、いいですね。そんな感じです。」

ヴィオラ様がそう言った。

確かに意識していなかったが、これは傲慢だ。引くべきところで引かず、自分の意思を通そうとしている。ヴィオラ様が「傲慢くらいがちょうどいい」とアドバイスしてくれたことが、こういう形で発現するとは思わなかった。


「おいヴィオラ!怒られるのは俺なんだぞ!?」

「なら尚更問題ありませんね。私は背中を押しますよ、コトアル様。」

主人に仕えるメイドとしてどうかと思う発言だが、それも信頼関係があるからこそできることなのだろう。マーク様とヴィオラ様の間には、敬語や上下関係だけでは説明できない、もっと深い繋がりがある。


「はぁ、わかった。」

「え……。」

「ほら、なんて顔してんだ。」

「いいの、でしょうか?」

私はてっきり「やっぱりだめだ」と言われると思っていた。


「あぁ、いい。」

そう言って、マーク様は優しく私の背中を押した。

その手のひらからは力強さが感じられた。聖力はもう残っていないはずなのに、その手には勇者の温もりがあった。私を前へと押しやる、確かな力。


「マーク様、すみません。」

「気にすんな。俺も自分の力が失われてなければ、敵に向かって走っていたところだ。」

優しい人だと思った。

勇者の力が宿ったのがマーク様、ではなく、マーク様だから勇者の力が宿ったのかもしれない。人に力を与え、人を前に押し出す。それが勇者の本質なのだとしたら、この人以上に相応しい存在はいない。


その力が、今は私の中にある。

この人のような人間に私はなりたい。そう思った。


ーー イザベラ視点 ーー


「コトアル、どうしてここに!」

私は後ろから現れたコトアルに驚いた。マークには保護するように指示していたはずだ。


「申し訳ありません。イザベラ様、邪神の相手を私にさせてください!」

「……そういうことですか。」

大体の状況は理解した。コトアルの意志でここにいるということであれば、私がそれを止めることはできないだろう。マークもコトアルの意思を尊重して、ここに来ることを許したはずだ。

コトアルの瞳を見る。虹彩の周りで光が動いている。以前と同じ美しい瞳だが、何かが違う。光の動きが、前よりも生き生きとしている。


「かまいません。ですが、必ず勝つと約束してくださいね。」

「かしこまりました。」

グルンレイドのメイドとして、生きて帰ってくること。これさえできるのであれば、私から言うことは何もない。

コトアルは頭を下げ、邪神の元へと飛んでいった。

私はその背中を見送りながら、次の行動に移る。


「二人とも、私たちの相手はあの聖族です。」

カルメラとハーヴェストに向かって、ロンドの方を指す。あの男は邪神の背後に浮かんでいる。聖力的にはイリスの方が強い気がするのだが、邪神を操るようなことをやっているのだ。警戒するに越したことはない。


「邪神よ、こちらへきなさい!」

ロンドは私たちを警戒してか、邪神をこちらへと呼び寄せようとしている。しかし邪神は一向にこちらへ来る気配がない。


「コトアルの相手で手一杯なのでしょうね。」

「馬鹿な!神を足止めできる存在など……。」

マークのアドバイスを聞いて、うまくあの力を「覚醒」できていれば、邪神など相手にならないだろう。勇者の力とはそれほどまでに強大なものだ。聖族の聖法とは異質な、人間だけが生み出せる希望の力。


「いますよ。グルンレイドですもの。」

私は異空間から剣を取り出した。


「二人とも。周囲に衝撃波が伝わらないように、魔法障壁で囲ってください。」

「「かしこまりました。」」

カルメラとハーヴェストの返事が揃う。この二人を連れてきた理由は、一緒に戦ってもらうためではない。私の攻撃によって周囲を破壊してしまうことを防いでもらうためだ。


二人の魔法障壁が、私とロンドを囲むように展開される。


「邪神がそばにいないあなたは、一体どれほどの強さなのでしょうか?」

「くっ……ホーリースピア!」

光の槍が飛んできて、私の額に直撃した。


「まあ、四天王程度の強さ、というところですね。」

「効いてないのか!?」

私の魔法障壁を舐めてもらっては困る。これを破ることができるのは、ご主人様、スカーレット、狂乱状態のヴァイオレットくらいのものだ。四天王程度の攻撃では、傷ひとつつかない。


「華流・。」

私は剣に魔力を流し込む。

グルンレイドの屋敷に攻撃を仕掛け、ご主人様のお気に入りの絵画を落とし、グラスを割り、メイドたちに傷をつけ、領民を脅かした存在。その全ての元凶が、今ここにいる。


「一線。」

聖法障壁を破壊し、肉体を切断した。

そのエネルギーは止まることを知らず、ハーヴェストの魔法障壁に直撃しそれを破壊する。弱まったエネルギーはカルメラの無唱詠唱によってかき消された。

二重の防壁で、ようやく私の一太刀が受け止められるということだ。


肝心のロンドはというと、すでに動ける状態ではなかった。


「お疲れ様です。」

カルメラがそう声をかけてくる。

「軽い運動にもなりませんでしたが。」

私が体を切断した瞬間にカルメラが回復魔法を始めていたので、きれいな状態でロンドは地面に横たわっていた。死ぬほどの衝撃を与えると、少しの間精神と肉体が離れてしまうため、どれだけ肉体を回復させても目を覚ますことはない。

だが念のため、すぐに魔法による枷をつける。


「あっけないですね。」

ハーヴェストがそう言った。


「そうですね……ですが、私はこれで終わるとは思えません。」

私はハーヴェストにそう答えた。邪神を強制的に支配できるような悪辣な存在が、そう簡単に人前に姿を見せるとは思えない。ロンドは表に出てきた駒のひとつに過ぎないのではないか。あるいは、ロンドの背後にさらに別の何かがいるのか。


「それは……。」

「あなたたちは気にする必要はありませんよ。スカーレットが動いていると思いますから。」

そちらはスカーレットに任せる。あの子であれば、私が見落としている要素も含めて、全てを処理してくれるだろう。


まずは、コトアルと戦闘している邪神の行く末を見守る必要がある。

コトアルの魔力反応が、先ほどとは別物のように膨れ上がっていた。マークの力が、完全に覚醒し始めている。


――行けるわね、コトアル。


私は静かに戦況を見守った。

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