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二章:3 創教


「この度はバーチャルストリーマー推進プロジェクトにご応募いただき、ありがとうございました。

 お二人の採用が決定しましたので、プロジェクトの詳細を説明いたします。

 担当する宇波です。どうぞよろしくお願いします」



 ようやく説明会開始らしい。

 心なしか随分待たされた気がする。



「よろしくお願いします!」


「どうも〜」


 僕の挨拶とは対照的に、レンカさんは緩いテンションだ。

 


「朝凪弾さん、霊木レンカさん、っすね?

 改めて説明いたしますと、おふたりには当グループのキャラクター『虚道(うろみち) 歩(あゆむ)』『来越 ミエル(きこえる みえる)』としてネット上で活動をしていただきます」


「わ〜〜〜」


 ドンドンパフパフと乗る勇気は、僕にはなかった。

 ここでもこの軽さを崩さないのは、彼女の強さだと素直に思う。



「まずは、キャラクターについて改めて説明します。

 はい、こちらっす!」



 スクリーンに二人のキャラクターが映し出された。


 爽やかで芯が強そうな男と、元気で慈愛に満ちていそうな女のイラスト。

 変に媚びた感じはないけどちゃんと人気が出そうなキャラデザ。

 そして描き込まれた高いクオリティ。


 衣装は今風のカジュアルな格好で、どんな配信をしても浮かなさそうだ。

 ちゃんと動きもついていて、表情もコロコロとフェイストラッキングに合わせて変わっている。


 この立ち絵が使えることは、プロジェクトに魅力を感じて応募した理由の一つだった。


 

「かわいい〜〜!」


 隣から嬉しそうな声が聞こえてくる。



「これは募集の時に見てもらった立ち絵っすね。

 では設定の方をみていきましょう」


 文字だけのスクリーンに切り替わった。

 ここからは募集の時には聞かされていなかった内容だ。

 どんなキャラクターなのか。声優を目指す以上、ここは聞き逃せない。



「まず、二人とも修道士っす」


 

 ん???

 いや、そんな格好には見えないが。


 隣のレンカさんは、「おー」と素直に感嘆している。


 

「はい、質問ですっ。

 修道士ってことは何かの宗教に入っているんですか?」

 

「いい質問っすね。

 それでは、彼らが所属してる宗教について詳しくみてみましょうか」



 説明役の人がカチカチと次のスライドに切り替えていく。

  



『教えについて(導入編)』

 


 ……導入編?

 ラフな格好に修道士設定もってきた癖にやたら凝っている。

 

 うっすらとした違和感。


 見ていると、スクリーンに文章が映し出された。


 

 

  少女があなたを見ている


  それは幼く純粋な少女である

  少女は実体を持たず、どこにでもいる

  少女はあなたを見ている

  少女はあなたを見て育つ


 

 

「これは『リトル・シスター・イズ・ウォッチング・ユー』という教えっす」


 ポエミーで意味不明な文章を背に、淡々と説明が続けられる。



「小さい子に見られていれば悪いことはしないでおこうと思えるし、人知れず良いことをした時もちょっと胸を張れる気分になる。

 そういう教えっすね」



 謎の女の子のイラストが映し出された。

 うぉっちんぐゆー! とこちらを指さしている。



「この子の存在を信じてみる。

 信じていなかった昨日までより、信じてみる今日の方が。

 きっと楽しく生きられる。

 そういう考え方をこの宗教では大事にしているっす」


 

 ……なんだか怪しい話になってきた。

 少なくともこんな宗教は聞いたことがない。

 

 架空の新しい宗教ということなのだろうが……



「この宗教では、人知を越えた全能なる存在が万の姿をとると信じているっす。

 それは時に少女であり、老人であり、父であり、母であり、恋人であり、友人であり、師であり、猫であり、虫であり、火であり、イワシの頭である。

 全能故にどの姿にもなれて、どのような性格にもなれる」


 着地点が一切見えない話が粛々と進んでいく。



「ただ一点、その存在は常に、我々の幸福を祈ってくださっている。

 少なくとも、そう信じられているっす」


 やたら教義の説明が流暢だ。


 

「これが『万面教』の導入っす。

 ここまでで質問等あるっすか?」


 スライドが切り替わり、宗教説明の『導入編』の文字がグレーアウトする。 

 そして、その下には、ズラーっと宗教説明に関する項目が大量に並んでいた。



 あー、はいはい、






 ……ヤバい。


 これはいわゆるあれだ。“そっち系”の団体だ。

 少なくとも募集元のホームページには、宗教団体だなんて一言も書いていなかったが、もはや確信していた。



「おぉ、作り込まれた設定ですね」


 ……レンカさんは完全に気付いていないようだが。


 

 落ち着け、思考の整理だ。

 リスクリターンの秤に色んな項目を乗せていこう。


 考えるべきは、本当にそっち系の団体だからといってこのチャンスを捨てるべきかってことだ。

 あのクラスの立ち絵を自前で用意するのは、お金がかかる。



 逆に一番のリスクは……

 この人たちが実は凶悪な一面を持っている可能性。

 どのくらいそれがありそうかは……未知としておこう。

 自分が宗教を知らなすぎる。



「特になければ次にこの宗教の……」



 『元より最終的に目指すは狭き道、ユニークな体験は武器になる』

 『変な宗教に所属していた過去は、今後の採用で不利になりうる』



 これを秤に乗せた時、デメリット側に秤が少し傾いた。

 であれば、これ以上大人しく聞くのは時間の無駄。

 面倒だ、全部確認してしまった方が得だろう。



「あの、質問いいですか?」


 言葉を遮って手をあげた。


 

「どうぞ、なんでもお聞きください」


 胡散臭い笑顔。

 ここは、言い切ってしまった方がいいだろう。


 

「要するにこれって、この宗教を広めるために僕達を使うってことですよね?」


 単刀直入に、切り出す。



「ここまでの話、大変興味深かったです。

 質問と言いますか、まず確認をさせてください。

 話を聞いていると、教義への力の入れ方からこの思想を広めることを目的としているプロジェクトであるように感じました」


 つい、早口になってしまう。

 ただ、自覚できているだけ、まだ自分を俯瞰して見れているはず。

 息をつき、一気に続けた。


「ただ、宗教への抵抗感をどうにか薄くして伝えようとしているからか、全貌が分かりづらいまま詳細から聞いている感覚になります。

 どういう団体で、どういう意図で活動していて、何で教団員ではなく公募の男女を使って、何でバーチャルストリーマーなのか。それを先に教えてください。

 僕は、一緒に働く方々が何を信仰していても構いません。ただ、僕自身がどの程度関わる必要があるのかが知りたいです」


 ……ちょっと生意気すぎるかもしれないが、逆にどう答えるかで出方を見れる。

 カモだと思われる方がまずい。

 それに、これは一緒に話を聞いているレンカさんへの忠告も兼ねていた。



 説明役の人の、スライドを送る手が止まった。


「……ははは、元気がいいっすね」


 平静を崩さない。腹の内が読めない人だ。

 直後、男がスマホを確認する。


「今、責任者の方から連絡が入りました。

 ちょっとプログラムを変えますのでしばしお待ちを」


 説明が、一時中断された。


 

 沈黙の中、レンカさんの方をちらりと見ると目が合った。

 口パクで何か言っている。

 

 ……『ご め ん ね』?


 ……何を?


 

「率直な疑問に、まずは感謝を述べたい」


 彼女の口元に気を取られていると、突然、机の向こうから声がした。



「万面教の教主、ヒグルマだ。

 君の疑問の全てに回答しよう」

 

 机の向こうの黒い箱から音がする。


 

 やはり、宗教団体。

 予想が当たったことを喜ぶ気持ちは、教主が直々にでてきてしまったという不安ですぐに押し流される。

 教主を謳うその箱は、不思議と畏れ多くみえた。

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