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二章:1 創教


 件名:【選考結果のご案内】


 本文:

 バーチャルストリーマー推進プロジェクトにご応募いただき、誠にありがとうございました。

 審査の結果、朝凪様の採用を決定いたしました。

 つきましては……


 


 スマホの採用通知と、目の前の部屋番号を見比べる。

 ここで間違いなさそうだ。


 こじんまりとしたオフィスの貸し会議室。

 入室前に学生服(何を着ていけばいいか分からず、なるべく公的っぽい格好にした)を整える。

 あまり綺麗なところでもなかったが、聞いたこともないインターネット事業なんてそんなものなのかもしれない。

 ちょっと不安になる自分を奮い立たせて中に入った。


 問題ない。貰えるものさえ貰えればいいのだ。


 

「失礼します!」


 部屋の中央に机があって、椅子が四脚。

 机の手前側には、お茶と気持ちばかりのお菓子が二人分用意されている。

 そして、その対面には

 ……ロッカーぐらいのサイズの黒い箱が立っていた。


 なんだあれ。

 

 表面は黒く塗られていて、材質までは分からない。

 説明してくれそうな人もいない。


 どことなく不安になる。

 古びた壁の染みに、傷だらけの机。心なしか埃っぽい空気。

 紙コップに用意されているお茶。

 言ってしまえば「ショボい」感じ。


 キャラクターの声が当てられるなら、それでいいじゃないか。

 そう自分に言い聞かせる。

 

 

 最近の僕の信条は「まずは小さな道を歩む」ことだ。

 みんな、競争率の高い場所をいきなり選んで大成しようとするが、それが許されるのは才能と運がある一握りの天才達。


 凡人はなるべく目立たない道や時には邪道を選び、その道を極めるべき。

 たとえ行き詰まっても小さな充足感は得られるし、

 一つを極めた経験値が次に活きる。

 そして、その道が運よく日の目を浴びた時には先行者利益で走り抜けることができる。


 これが、僕のような凡人が歩むべき道。

 


 声優志望であるなら、まず大規模選考に飛び込むのではなく、ユニークな実績をつけていく。

 この誰も知らなそうなプロジェクトの募集は、そんな僕にとってはちょうどよいものだったのだ。



 バーチャルストリーマー。

 

 動くアバターを用いながらゲーム実況や雑談、企画等のネット配信を行って視聴者を集める人たち。

 この募集にあったキャラクターは、かなりクオリティが高かった。

 個人でこれを用意しようとしたら数十万はかかる。


 何より、「あちらから指定されたキャラクターになりきり、決められた内容や設定を遵守した発言をする」といった募集の条件が、逆に自分にとってはありがたかった。

 近頃は設定を横に置いた実況者スタイルが人気で、こういう路線はやや下火となっている。

 しかし、僕が最終的に目指すのはストリーマーではなく声優だ。好き勝手やるよりもある程度演じる要素はあった方がいい。


 まだ十六歳なので社会は分からないが、声優への道が狭き門なのはわかっている。

 だからこそ、若いうちからこういった経験で差をつけて――――

 


「あっ、どうも~」


 背後で扉がガラガラと開く音がした。

 振り向くと、年上の女性がこちらに手を振っている。


「あれ? 君がもしかしてもう一人の男の方?」

 

「よろしくお願いします! 朝凪と言います!」


 背筋を伸ばして元気にビシッと。

 彼女がどういった人間であれ、こういう場では第一印象が大事。

 

 

 そういえば、募集ページには男女一人ずつのイラストが載っていた。

 この人が女性キャラクターの方なのだろう。


「えっ、てか若っ。君いくつ?」


「十六です」


「わっっっっっか!」



 ……すごいキャピキャピだ。

 人生であまり相手するのを得意としてはいない人種。


 ただ、これからバーチャルストリーマーとして活動するのだ、

 ここで尻込みしてしまうようではこの先やっていけないだろう。


 

「女性役の方ですよね。

 改めて、朝凪(あさなぎ) 弾(だん)です。これからよろしくお願いします!」


「えー、名前カッコイイじゃん。

 ウチはレンカ、よろしくっ」



 手をとって握手してくる。

 距離感が……近いっ。

 

 ……別に不愉快ではないのだが。


 

「もう一人がどんな方か不安だったんですよ。

 話しやすそうな人で安心しました」


「ウチもウチも〜。えっ何世? 転生者じゃないよね?」


 

「四世です。和国生まれ、和国育ちですよ。

 レンカさんは?」


「ウチも四世だよ〜

 えっ、すごい偶然だね、ダンダン」


 早速あだ名呼び。

 少なくとも、うんともすんとも言わない人が同僚になるよりは遥かにいい。

 そんなことを、この時は楽観的に思っていた。




 ※ ※ ※




「元気いいし、若いなぁ」

 

「好都合じゃ。若い方が教えを吸収しやすい」


 

「……今になって、やってることの責任の重さを感じてきたよ」


「カルト宗教の教祖様が何を今更。

 宗教とは、信者の人生に深い影響を与えるものだ。

 精々覚悟することじゃの、『ヒグルマ様』」


 ははっ、違いない。


 あぁ、紹介が遅れた。

 この偉そうな小人の女はCharivariさん。

 シャーリで通ってる。


 まずはこいつとの出会いと、どうなって今に至るかについて話していこうと思う。

 

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