序章:2 入界
「我々のこれからの旅立ちに乾杯!」
「緑街第二ってグループ作ったから良かったら入って下さ〜い」
「支給品のスマホで作ってもすぐ意味なくなるんじゃないですか?」
「アカウントに保存しとけば、すぐにデータ引っ越せるって教官から聞きました〜」
……すまない、どうやら時を進めすぎたようだ。
説明会の後、入国までは流れ作業のように行われた。
外界行きか和国行きかの列を選び、面談室に通される。
個別面談と言う名の形式的なやり取りをし、説明を受けながら誓約書を一枚とって次の筆記スペースへ。
能力を国家に譲渡する誓約書に同意し、結界のゲートを通過する。
これで晴れて和国の一員って具合だ。
(同意のサインを書いた時点で能力譲渡が成立するらしい)
じゃあここからは自由行動ができるのかって?
行政側の人間の立場になってみるといい。このまま何も持たない人間を世に放り出すかどうか。
残念なことにまだまだ続く。
バス移動の後、転生者用の仮住居が与えられて、そこから何日も教習センターに通うこととなる。
『北区 緑街 第二教習センター』
何とも情緒のない響きだが、ここで異世界の常識や社会、地理について学ぶことになる。
特に面白みもない建物だったが、廊下に貼られている地図に「ドラゴンの里」の文字を見た時なんかは、忘れかけていた異世界への期待感の火が少しだけ大きくなるのを感じたものだった。
で、冒頭の飲み会に戻る。
教習初日の懇親会だ。
説明会で俺に話しかけて来た魔族風の男は、アマラと名乗った。
先程連絡先も交換したが、今は色んな奴に積極的に話しかけてまわっている。
ああいうタイプはどんな場所でも成功するんだろうな、と傍目に見て思う。
立食形式。配給された缶ビールと取り皿を手に、料理を取る列に並ぶ。
そこそこ豪勢だったが、メニューは牛肉とブロッコリーだのオニオンサラダだの。
「せめてグリフォンの肉とかないのかよ……」
思わずそう呟くと、前の女がクスリと笑った。
尖った長い耳に、九つに分かれた尻尾。狐の獣人だろうか。
「一応、この牛の名前は聞いたことないわよ?」
こちらを振り向き、つり目でいたずらっぽくこちらを見てくる。
「牛種による味の違いなんて前世でもどの道分かんないんだよね」
「あら、そしたらグリフォンが出てきても大差ないんじゃない?」
「名前だけでもいいからワクワクしたいというか……
というか、狐の獣人って牛肉食べれるのか?」
「知らないわよ。この姿での初めての食事だもの」
それもそうか。
あまりにも見た目がファンタジーしているので同じ転生者であることをつい忘れてしまう。
「あ、連絡先交換しときましょ。情報は多い方がいいわ」
支給品のスマホはまだ使い慣れないが、連絡先の交換だけはこの時点で少しこなれていた。
こいつこそ、俺が宗教を作るきっかけになる女『ミュウト』だ。
教習センターで年が近いのがこいつとアマラぐらいだったので、その後も細かい情報交換を続けることになる。
なんだかんだ、知り合いのいない地では、同期というのは心強いものだった。
この歓迎会では大した話はしてないのだが、俺が宗教を創立しようと思った動機を語るにはまずこれからの八年間を詳しく知る必要が……
ん?
八年も待てない?
まぁそうだよな、わかるよ。
じゃあこうしよう。
――――それから、八年が経った。




