三章:2 脱和
「あまりにも、放置されすぎている」
動画は、アマラの演説シーンから再生された。
流れているライブ配信コメントには『自殺幇助組織』だの『人類の敵』だのと散々に書かれている。
「この真冬に出国をする人が後を絶たないそうだ。
宿もない中、ろくな防寒具も持たずに」
静かなトーンが、逆に聴衆の注意を引く。
そんな話し方。
「なぜか。
正義と道徳を語る者たちが彼等に自殺志願者のレッテルを貼り、
外界行きそのものがタブー視され、正しい手順や方法の議論がされないからだ」
アマラが真っ直ぐに画面を見た。
こいつは、こういうトークはやたら上手い。
立ち振る舞いがサマになるのは、一種のカリスマのなせる業だろう。
「無責任としか言いようがない。
出国を決める人々のために、せめて正当な支援と戦略を共に考えるべき。
このような当たり前の事を、当たり前に言えない方がどうかしているのだ」
討論番組にあるまじき静けさ。
普段は半笑いで冷笑気味に茶々をいれるゲストも、黙って話を聞いている。
「ここで一つエピソードを紹介しよう。
私の友人は脳を侵す病気にかかった。
日に日に判断能力が落ちていき、数年以内に親の顔もわからなくなると言われ、
彼は治療法をもとめて出国を決意した」
アマラはあくまでも冷静に、淡々と語る。
「その時、私は彼の助けになろうとした。少しでも生存率をあげる方法を一緒に考えようとしたのだ。
しかし、検索に出てくるのは外界行きを止めるものか、あってもくだらないまとめサイトの中身のない記事ばかり!」
これは、そう。
ミュウトが行くと言い出したときに興味半分で調べたことがあるが、まともな情報は一つも出てこなかった。
「もし、その友人が準備不足で出発したせいで飢えて死んだ時。自己責任で愚かだったと笑うのが正しいことなのだろうか?
いいや、自分はそうは思わない。
この支援活動は、むしろ当然にやるべき、当たり前の話なのだ!」
熱弁をふるうその姿は、確かに自分の知っているアマラそのものだ。
しかしそれでも、自分の知り合いがネット番組で喋っている光景にはまだ現実感を持てないでいた。
「具体的にどのような支援をされているのでしょうか?」
司会の男が勢いに押されながらも問うと、想定済みと言わんばかりにスラスラと喋り出す。
「まずは役立つ装備や物資の提供だ。
用意できる金額に合わせた装備セットの提供もしている。
勿論、金は取る。持続可能でない取り組みはすぐに破綻するからだ」
説明と同時に、番組のモニターにはずらっと商品のカタログが表示される。
「死に行く人たちから金を巻き上げる非道徳的なサービスだ
そう指摘するやつらもいるが、冷静に考えてみるといい。
火起こし道具、保存食、飲み水確保のための携帯浄水器。
このような基本セットすら持たずに外界へ行く者が何人もいるのだぞ?
それを見て見ぬふりをすることの、一体どこが道徳的なのだ?」
確かに、あの調子だとミュウトもこの半分も用意していないだろうなと思った。
「そして、戦略も提供している」
パネルを出し、カメラに見せる。
出国後の移動イメージ図。
「例えば、我々は大人数のグループでの出国を推奨している。
事前にグループを組み、互いの能力を確認し合う。
特に有用な能力者を用いて守りを固め、助け合いながら生活するのだ。
前世の移動しながら暮らしていた部族を参考に、キャラバンのような形で進んでいく。
少なくとも、無策で出るよりも遥かに生存率は高くなると思わないか?」
声に更に熱が入っていく。
「ほかにも、初日から生活の基盤を作るマニュアルを配布したり、一週間のサバイバル訓練を行ったりもしている。
勿論、要らないなら要らないでいい。けれども、世の中全部自分でできる人間だけではないのだ」
アマラからコメントに目をうつすと、
『こういうサービスはあったほうが良い』といった内容のものがかなり増えてきていた。
「勿論、外界に行った人間のその後を知る術はない。
なので、この取り組みが成功しているかどうかは分からない。
しかし、無策で放り出すよりも、決死の覚悟で和国を出る彼らにせめてもの支援を! この思いが間違っていると言えるのだろうか!」
一段と声を張る。
「外界行きに賛成か反対か。
個人としては賛成派だが、まずそんなことはどうでもいい。
その議論に押し潰される形で、支援を必要としている人々がそれを享受できていない!
国が制度として行けるようにしている以上、その道をしっかり整えるのが筋ではないのか!」
拳を握りしめ、バンと机を叩く。
アマラはすっかり会場の空気を支配していた。
「今日は、どうしてもこの怒りを伝えたかった。
語気を荒げてしまったことは申し訳ないと思っている。
しかし、どうか、どうか真剣に考えて欲しい。
以上だ」
もはや滝のようなライブチャット。
この動画が『何かに火をつけた震源地』であることは疑いようもなかった。




