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第4話 別れと気づき

「別れた」



 昼休み。


 いつもの旧校舎の屋上で。


 黎は開口一番、そう言った。



「……そっか」



 理由もなんとなく分かっている。


 私はなぜだかホッとしていた。


 ……なんで。

 この前の行動といい、私らしくない。


 黎のことは友達として大事に思っている。

 そう思っているはずなのに。

 黎の言動で心が浮いたり沈んだり。

 自分でも説明がつかない。



「私も、彼氏とかいらないかも」



 黎はお弁当のおかずを摘みながら、小さくこぼす。



「まぁ、いいんじゃない」



 私は適当な返事をしつつ、なぜか浮ついている心を誤魔化すようにパンを一口齧る。


 すると黎がこちらを見る。



「玲」



 ドクっと音がする。


 黎に名前を呼ばれるたびに、心臓が跳ぶ。


 なんで。



「……この前、ありがとね」



 黎は笑顔でそう言うと、少しだけこちらに身体を近づける。



「嬉しかった」



 徐々に近づいてくる。



「……黎、近い」



 気づけば、肩が触れていた。



「……そう?」



 黎はそう言いながら、何も気に留めない顔で私の顔を覗き込む。



「別に良くない?女子同士だし」


「そういう問題じゃない」



 私は黎の肩を押し戻そうとする。

 けれど、黎は少し笑っただけで離れない。



「暑い」


「えー、そう?」



 鼓動が速くなる。



「てかさ」


「なんであの時連れ出してくれたの?」



 黎の言葉に一瞬固まる。


 なんでか。


 購買の前で彼氏の隣を歩く黎を思い出す。


 あの時の表情。


 そんなの、あの顔を見てどうにかしないと、って思ったから。



「……なんか顔が変だったから」


「何それ!ひど!」


 

 黎が声を上げて笑う。


 ひとしきり笑ってから黎がポツリと言った。



「でも、玲らしくなかったよね」



 それは自分でも思ってる。


 どうしてあんな行動に出たのか。

 理由はもうそこまで出ている。


 ……ただ認めたくないだけ。


 私が何も答えられずにいると、またポツリと言葉が吐かれる。



「……玲って、よく見てるよね」



 言い当てられて心臓が跳ねる。



「別に。目に入っただけ」



 咄嗟に誤魔化す言葉が口をつく。



「……誰にでもそうなの?」



 黎が首を傾げて顔を覗き込む。


 ……そんなわけない。



「……知らないよそんなの」



 私が顔を背けてそう言うと、黎は嬉しそうに笑った。



「へぇ〜そっか〜」



 満足そうに引き上げていく。


 私は黎の追及から逃れやっと一息つく。


 その時ちょうど、予鈴がなった。



「やば、教室戻んなきゃ」



 黎は慌てて広げていたお弁当を片付け始めた。


 私はパンのゴミをくしゃりと握ると、先にドアまで向かう。

 ドアを半分開けたところで、黎に声をかける。



「早くしないと、置いてくよ」


「ちょっと待って!」



 黎が慌ててる様子を見て、少しだけ笑みが溢れた。



「……笑った」


「え?」


「玲が笑った!レア!」


「いや別に普通でしょ」



 そう言いつつ、嬉しそうにはしゃぐ黎を見ると、上がった口角はなかなか元に戻らなかった。



⸻



「玲、帰ろ?」



 放課後。


 帰りのHRが終わったあと、黎は真っ直ぐ私のところへきてそう言った。


 いつもなら、昼休みを一緒に過ごした時は、大体別の人と帰るのに。

 なぜか、また私に声をかけてきた。



「……いいけど」



 断る理由は特にない。

 むしろ心は喜んでいる。


 ……顔には決して出さないけど。


 そのまま私と黎は、二人で教室を出た。



⸻



 駅までの帰り道。


 しばらくは、ぽつりぽつりと他愛のない会話が続いた。

 無言が続くこともあるが、黎となら気まずく思わなかった。


 きっと黎もそうなのだろう。


 ふと、沈黙が落ちる。


 しばらくして黎が口を開く。



「……ねぇ、寄り道しない?」



 私は思わず止まりそうになった。


 黎と寄り道なんてしたことがなかった。


 いつもなら駅に着くと、話が途中だったとしても「じゃあまたね」とスパッと切って帰っていく。


 それくらいあっさりしていた。


 なのに。



「……いいけど。どこ行くの?」


「コンビニでなんか買って、その辺の公園で日向ぼっこ」



 黎らしい。


 旧校舎の屋上で休憩をしている時と同じだ。



「……いいよ」



 私がそう言うと、黎は満足げに頷いた。



「よし!新発売のチョコ買う!」


「はいはい……」



 そのまま私は黎に服の袖を引かれて、コンビニに向かった。



⸻



 公園。


 学校から駅までの道から少しそれた所にあった。

 黎と私はベンチに座って各々が買ったものを並べる。



「玲、またメロンパン買ってんじゃん!」


「いいじゃん別に」


「お昼も食べてたじゃん」



 黎は笑いながら自分が買った新作のチョコの袋を開ける。


 一口食べると、さらに顔が綻ぶ。



「うま!」



 私もメロンパンの袋を開けて一口食べようとする。


 そのとき。



「玲も食べる?」


「あぁ、うん」



 迷わず手を差し出したが、黎はそれを無視して、つまんだ一つを私の口に持ってくる。



「はい」



 思わず開けた口にそのまま放り込まれた。



「……おいしい」


「でしょ!」



 黎はそのままどんどん距離を詰めてくる。



「他にも私が好きなグミと、あとこのクッキーも美味しいよ」



 肩がくっつく。

 というか、ほとんど重なってる。



「どれがいい?」



 黎がその距離で私の顔を覗き込む。


 近すぎる。

 どう考えても距離感おかしいでしょ。


 私は速くなる鼓動を沈めようと必死になる。



「あれ」


「なに」


「玲、顔赤いよ」



 顔に出ていた。



「近いから暑いだけ」


「また?別にそこまで熱くないでしょ私」



 そう言ってさらに距離を詰める。


 黎の長い髪が私の肩にかかる。


 近すぎる。


 黎を見ると少し口角が上がっている。

 完全に揶揄っている。



「それに、女子同士なら普通だよ?」



 分かってない。


 そういう問題じゃない。


 揶揄われていることに少し苛立った私は、逆に開き直った。



「あ、そう」



 急に声色を変えた私に黎が少し驚いた顔をする。



「じゃあどこまでなら女子同士でも“普通”なの?」



 今度は逆に私の方から近づく。


 顔を近づける。


 呼吸をしているのがわかる距離。


 黎は一瞬目を見開いた後、すぐに距離を取った。



「近すぎるでしょ!」



 そう言った黎の顔はほんのり赤くなっていた。



「だからそう言ってんじゃん」



 私は思わず口元を緩めながらそう言った。


 ああ。

 もう取り返しがつかないな。


 そう思いながらメロンパンを一口齧った。

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