第四十五章 夜明け前
「――団長…!」
自分の声に驚いて飛び起きた。
息が荒い。
汗が噴き出す。
滴るそれを拭おうと上げた手。その袖口に愕然となる。
慌てて枕もとのスマホでカメラ起動。反転。
そこに映る顔は――あたし。
「もどって、る…」
声が、耳から聞こえる。
「あたし…は…」
有里。
あたしは、神戸、有里、だ。
もどった。
夢から覚めた。
覚めた――?
「肩…」
怪我をしたはずの左肩。
痛くない。
何の違和感もない。
あたしは、
いまのあたしは…
「…あたしだ……」
もどった。
帰ってきた。
戻りたかった、
帰りたかった。なのに、
今、戻るのか――!
「アレク……」
どうなった?
あれから、彼は。
ガイは。
ユーリは…
頭の中が、ぎゅうと推し縮められていくような痛み。
なにもかも放り出して、
あたしだけ、
あたしだけ平穏に戻るのか!?
『YURI!』
有里――
そうだ。
ゆり。
あれは、違う。
あれはユーリの名前じゃない。
あれは、アレクの、声じゃない。
「――!!」
声にならない叫びがあたしの喉から溢れ出た。
あの声を、あの叫びを、
あたしは。
あたしは、確かに知っている。
何も考えられず、部屋を飛び出し、そのままの勢いで玄関を走り出た。
「剛史!」
そうだ。あれは剛史の声。
ちがう?
違わない。
あたしが剛史の声を間違えるはずがない。
でも、
でも、そうなら。
息が上がる。
胸が痛い。
呼吸が苦しい。
でも、足を止められない。
あたしは帰れた。
あたしは、戻ってこれた。
でも、剛史は?
戻れないままだったなら、
彼のなかにいる剛史は――
「…い、や…」
「いや、だ……!」
剛史が、いなくなるなんて。
もう、会えなくなるなんて。
確かめないと。
ちゃんと、確かめないと。
あたしは、
あたしは、
たけしが――
「有里!!」
大声で呼ばれて振り返る。
「ゆり…」
「た…けし……」
薄暗い街灯の下。
同じように息を切らせて、
「たけ…し…」
「ゆ…り……」
ゆっくりと、
急いでしまったら、
お互いが消えてしまうかのようにゆっくりと、
距離が近づいていく。
ゆっくり、ゆっくりと。
震えながら伸ばした手が、お互いに触れそうになった時、
思い切り引っ張られて強く、強く抱きしめられた。
「有里…有里、ゆり……」
「た、けし…」
「無事…か… 無事だな…」
「剛史、こそ…」
「いきてるな…」
「うん…」
「生きてるよな…」
「うん…うん…」
夜明けのまだ薄暗い街角の片隅で。
あたしたちは、抱き合って泣いた。
パジャマ姿のままで。
本日 夜の投稿はありません。明日、いつもの時間に投稿します。




