第四十三章 暗い夜―3
ガキン!!
音。
重い鋼がぶつかる音。
目の前、
視界を遮るのは白くけぶる影。
微かな震えは、
打ち付けられた刃を受け止めたから。
「…ぐっ……」
唇から漏れる声は低く、何かを耐えるように。
がっ!!と音を立てて、ユーリを打ち据えるはずの刃が弾き飛ばされる。
そのまま低く、剣を構えユーリの視界を遮る鎧は白銀。
流れ落ちるのは、
この場に不似合いな銀の髪。
「だ…ん・・・ちょ……」
「話すな。…グレル」
「…急所は外れております」
――なんとか、なるかと。
一瞬、零れたのは安堵の息・・・?
「たのむ」
「お任せを」
低い声が縛られたままだった手の縄を切り、
ユーリの体を木の陰へずらす。
「今は、血止めのみ」
耐えろ。
肩から胸へ、強く何かで抑えられる。
「グレルさ…」
「後だ」
一人剣を構えたままの主を背に、低く、彼が構える。
「二人…」
「ふたりか」
「……」
無言のまま、敵の影が円を描くようにアレクたちを囲もうとする。
ユーリのいる木を中心に、大気が強く張りつめていく。
息を殺し、肩を抑えてうずくまったままユーリの視線は動かない。
見えているはずの景色は、痛みに呻くあたしの視界には映らない。
なのに、なぜ、
銀の髪だけが、こんなにも鮮やかなのか。
「…見捨てられなかった」
私を笑うか。
見えないはずの声を拾ったのは、あたしの耳。
「…」
――貴方様ですから
グレルの答えは、声ではなかったはずなのに。
ガキっ!!
キイィィン・・・!
鋼の打ち合う音が森の中に響き渡る。
「ぐぅ…」
「…がっ…!」
ひとり、ふたり・・・
不快な音と、大きなものが倒れる音。
痛みでさえも、人間は慣れるものなのか。
少しずつ少しずつ、状況があたしの中に入ってくる。
――たすかった…?
あたしたちは、助かった…
まだ、危機は続いてる。
けれど、あたしもユーリも生きている。
まだ、生きていられる。
そして――
アレクが、いる。
じわじわと湧きあがる歓喜は、まだはじけない。
アレクは強い。
本当に、強い。
ひと大刀、ひと突きが、確実に敵の戦闘能力を奪っていく。
グレルも、強い。
武器は見えない。
けれど、確実に敵の動きを止めていく。
けれど、多い。
敵の数が多すぎる。
なんで――
アレクがここに。
どうして――
守ってくれた。
嬉しいのに、
嬉しいはずなのに、麻痺してる。
きもちが動かない。
夜が去らない。
ああ…
ああ、ああ、ああ…
かみさま…
このせかいに、かみさまがいるなら、
たすけて…
あたしを、
あたしたちを、
ここにいる、みんなを…
祈るように見上げた空。
ひとすじの光が走って、
轟音。
その音は、全てを包み込んだ。




