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第四十二章 暗い夜―2


ゴリ…

ゴリ…


「ふう…」


大きな息をついて、ユーリが壁にもたれかかる。


縄は、まだ、切れていない。

ただ、少しだけ、緩んだような気がする。


体中が痛い。

無理な姿勢、殴られた跡。

手も、きっと傷だらけだ。



まだ、やるの…?



あたしは、答えのない問いを

どれだけ彼に投げつけただろう。

届かないことが、

伝わらないことが、

こんなにも、もどかしい。



でも、

いつも、そうだった…

感情も、考えも、

いつも一方通行で、

あたしはただの傍観者…


それでも彼の意識は、あたしに流れこんでいたのに。



それすらなくなった今、あたしは…?



あたしって、なに…?



こうして痛みも共有できるのに、

気持ちも考えも繋がらないなんて――





――痛み?


あたし、今、

いたい、よね…?


痛い…

手も、足も、

頭も。

殴られた頬も痛かった。

縄がこすれる、手の皮膚の痛みも来る。



今まで、一緒に痛くなったこと…あった…?



握りしめた手綱で手が擦れたとき。

走って転んで、お尻打った時。


あの時は痛くなかった・・・



え?



あれ?



…今は痛い。


今は、痛いの。


いま、あたしは、痛いの!!




「出るぞ」


――え?


目の前に黒い影。


「移動する。少し落ちてもらう」

「……ぐっ!!」


後頭部に衝撃。


アレク…


あたしの意識は、

彼の名前を呼んで落ちる。










ゆれる


あたまが、ゆれる…


きもちが、わるい… 


ぐらぐらぐら…


あたま、だけじゃない… 

からだぜんぶがゆれて、ゆらされて…



ふっと目があく。

くろい… 

ちがう…くらい。


ちがう。 

これは、くろいふくの、いろ…!



出しかけた声を呑み込んで、

入りかけた力を抜いたのは、誰かの生存本能。



揺れが止まる。


「…どうした?」

「…いや」


一言の否定で、また影たちが移動を再開する。



ユーリの体は大きな影の肩に乗せられて運ばれている。

まだ、周囲は暗く、

漂う草と木の匂いが、ここが深い森の中だと告げる。

悲鳴をこらえきれなかったはずのあたしの声は、

ここにいる誰に聞かれることもなく、

喉の奥にわだかまった恐怖が、あたしを埋め尽くす。


――なんで…?


なんで、覚めないの!?


意識が落ちた。

間違いなくユーリの意識は刈られて落ちた。

あたしと共に。

なのにまだ、

あたしは、この中に、

ユーリの中にいる!


……かえれない

夢が、覚めない。


これは、夢じゃなかった、の…?

この世界は、あたしの夢の世界じゃなかったの!?


誰かが、起こしてくれるのを待つ…?

その気配すらない。


――時間軸が、ズレてる…?


そうだ。

もともと、あちらとこちらの時間は、最初からズレていた。


だったら、


そうなったら、あたしは、


このまま、どこまで、この闇に付き合わないといけない…?




ぐるぐる、

ぐるぐるぐる。


あたしは応えのない問いかけを、自分の中だけで繰り返す。


彼の意識を探る余裕なんてない。


だから呻いて、

少しだけ足を動かしたユーリの行動に、反応できなかった。


「…まて」

「…?」

「足に蔓が」

「…ちっ…」


すっと寄った影の一つが縛られた足に絡んだ蔓を、縄ごと切る。


力なく垂れさがる両足を気にも留めないまま、

影たちの行軍は歩みを続ける。

ザッ…と背の高い草を掻き分けて、いきなり匂いが変わった。


―――水…?


足元の感覚も違うらしく、揺らされる体の動きが不規則になる。


「少し、上へ」


水の音に沿うように移動は続く。


それは、微かに体が、下へ傾いた瞬間だった。


「……!」

「おい!」


ずり落ちるように、体が下へ落ちていく。

スローモーションのような一瞬の後、

あたしたちの体は川の中へ投げ出されていた。


――…ぐっ…!!


衝撃で息が止まる。

けれどユーリはそのまま、

思っていたよりも深い水の中へ、体を丸めて沈んでいく。

速い流れに逆らわず、

図らずも自由になっていた足で彼は体制を整えていく。


「ぷはっ!」


一瞬浮き上がって息を吸って、また沈む。

流れに乗って、

浮いて、沈んで、

どれほど流されたかわからなくなって、



気が付いたら、浅瀬の岩につかまっていた。


息が荒い。

体が冷たい。体中が痛い。


なのに、その体を彼は、引き起こすようにして立ち上がり、歩き出す。


前へ、前へ。

暗く影を落とす森へ。


手は、いつの間にか前で縛られていた。


もう少し、

今は、より安全な暗闇の中へ――



――ドス…!



それは、音というより衝撃だった。


肩――左の肩に、何かが当たった。


衝撃は強く、

ユーリはもんどりを打って、木の幹に叩きつけられる。


「小僧…」


――よくも…



目に入る状況を、あたしは見ない。




――いたい…!!いたい、いたい、いたい!!!



肩が、


かたが、


焼かれたようにいたい。



いたい!


いたい!!


いたい!!!



ああ、あたしのこえは、さけびは、


こんなときにもあたしにしかとどかないのか。




ぬる…と、背中を何かが伝い落ちる。


ああ、

ああ、ああ、あああああああああ………!!!





ここは、


ここは。



あたしが、いていい、ところじゃなかった――






叫び続けるあたしを中に沈めたまま、ユーリがゆっくりと顔を上げる。


その前に、影。

その手には、微かな夜光を受けて光る刃。


振り上げられる剣。


せかいが、めのまえで、とまった。






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