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第四十一章 暗い夜―1


目の前は闇だった。


目を開けているのに、暗い。


――まだ、ここにいるんだ…


ユーリの中にいる自分に、ほっとする。



生きてる。

あのまま、殺されたんじゃなかった。


動こうとして、思うようにならない身体に気づく。

手足を、何かで縛られている。



……まあ、そうか。

放置ってわけ、ないよね。



これからどうなるんだろう。

ねえ、ユーリは、どう思う?



ねえ……?




……どうした、の?


どうして、分からない、の?


感じられないの?



ユーリの

この子の感情が、

ない。


そんなはずない。

感情のない人間なんて、あるわけない。

じゃあ、なぜ…



わからない…?



あたしが、かんじとれない、の?

あたしに、わからないだけなの!?



ウソ…


うそ、だ。


わかってたじゃない。

嬉しいのも、悲しいのも、

怒るのも、笑うのも。

今まで、全部、

ぜんぶわかったのに!


どうして――あたしは、まだ、ここにいるのに。



……そういえば。

あたし、なんで、ここにいるの?


寝た……よね?


意識を失った。

そしたら、終了、また今度。

それが、約束だったよね?



え?



なんで……?



もしかして、

あたし、

帰れ――






キイ……

軋んだ音に、顔を上げる。

薄暗がりを背に、人影が立っている。


「……名は?」

「……」

「所属は?」

「……ひっ!」


髪を掴まれ、頭を乱暴に引き上げられる。


「名は?」

「ユ、ユーリ……」

「所属は?」

「う、厩……」

「……何のために、あの建物へ行った?」

「お使い、を…」

「何を、届けた?」

「て、てがみ……」

「中身は?」

「し、りません……」

「誰から?」

「知らない…」

「誰宛だ」

「……知らない」

「言え」

「――知らない!知らない!! 僕は――」


衝撃。

次の瞬間、地面に叩きつけられる。


殴られた、と理解したのは、

全身に痛みが追いついてきてからだった。


「誰の指示だ」

「目的は?」


「知らない……

 名前も知らない騎士様に頼まれただけ…

 ――!」


喉元に、尖ったものが当たる。


「本当に?」

「……知ら、ない……」


涙が、落ちる。


「ぼくは… なにも……」


圧迫が消え、息を吸い込んで激しくむせる。

咳き込む視界の端で、影が増えている。



――会話?


言葉なしで、意思を交わしてる……?



「そのまま、おとなしくしていろ」



木の扉が、低い音を立てて閉まる。



咳が止まらない。

胸が痛い。

押さえたいのに、手が、届かない。


なんで、後ろで縛るのよ……!



痛い。苦しい。


痛い。




どれくらい経ったのか。


ようやく咳が落ち着いて、気づく。


ユーリが、動いている。

這うようにして小屋の隅へ。



――え?



柱の角に、

縛られた手首――たぶん縄の部分を、押し当てて。


ゴリ……


「いっ……」


ゴリ……ゴリ……



ねえ、ユーリ…


なに、してるの…?


……やめて。


やめてよ。


助かった、んじゃ、なかった、の…?


ねえ……。

なにを、しようとしてる、の……



分からない。

感じられない。


この子の心が、あたしに、届かない。



どうして。

なにが、起きてるの。




これは、

この夜の、


序章にすぎなかった。








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