第三十三章 ひといきつきましょう
――うっ… まぶし…
お日様が、思いっきり眩しくて目を細める。
……朝ね、朝よね?
おっはようございま~す!
みなさん、お元気ですか~!!
絶対に音にはならないけれど、気持ちよく叫んでみる。
久しぶりにこちらでの朝日を見てしまいました。
目を見開いた途端に飛び込んでくる日の光。
素晴らしく澄み切った青い空――
なんてすがすがしい。
体の隅々まで、活力がみなぎってくるよう。
おはようございます、皆様。
おはよう、ユーリ。
今日もめでたく夢の中。
こちらでの朝は、本当に久しぶり。
ようやく、あっち――
現実世界での、すったもんだが落ち着きまして。
あたし――こと、神戸有里のお見合い騒動は、
なんだかんだと言いつつも収まるところへ収まって、
今はもう無問題。
何の憂いもございません。
そこまで言いきっちゃっていいのかって?
――確かに、
お見合い自体は、成功…とは言えないんだけど。
完全に失敗、とまでいってないってとこが、ミソ。
一番懸念だった光子おばさんが納得してくれたんだもの。
だって…
だってねぇ?
あたし、
目玉商品の、
取り置きに、
成功いたしました~!
パチパチパチパチ…
思わず片手を付きだして、Vサインまでやっちゃうぞ。
取り置き、いや差し押さえ?
いやいや、二年後の仮予約。
仮だろうが何だろうが、なんにもないよりよっぽどまし。
良くやったあたし!
ハラショー!
こ~れでしばらく、おばさんから逃げれるぞ~
あの後、
どうしても一緒に行くと言ってきかなかった剛史を引き連れて、
あたしは光子おばさんのところにちゃんと出頭いたしてます。
出頭――ドナドナが流れるような気分ではあったけど、
でも、やっぱり、行かざるをえないでしょう。
一応身内のおばさんはともかくも、相手方もいらっしゃる訳だから。
戦々恐々とその場に顔を出した、
その頃にはもう、西條さんの方から、いろいろと――
…まあ、なんだ。
よくはわからないけれど、
なんだか全部、説明が済んでしまっていたようで。
佐々木さんも光子おばさんも、妙に和やかにご歓談あそばしていた。
でもって、剛史と二人して、思いっきり頭を下げようとしたあたしたちに、
「もう、大丈夫ですよ。心配しないで」
と、にこにこ言って笑ってくださったのが、何を隠そう西條さんご本人。
すっごい有り難かったけど、なんだかねぇ…
あなたの、微笑みが、怖いんですってば。
あたしと西條さんは握手をして、和やかにお別れいたしました。
「二年後にね?」との、意味深な視線が、
あたしでなくて剛史の方を向いてたけど。
もしもし?
わかってますよね?
あたしの片思いの相手は、剛史じゃありませんよ?
一週間後に届いたメールには、もう、噴き出すしかなかった。
『今成田です』って。
会社の都合で、インド行きが早まったんだと。
なんでメールが来るのかって?
メールアドレスを交換したからです~
『契約破棄の時は、速やかに連絡を頂かないといけませんからね』
なんて言うんだもの。
それは、こっちのセリフだっての。
おかげで今は、結構気のおけないメル友状態のあたしたち。
ちなみに、しっかり剛史もメルアド、ゲットされてます西條さんに。
こっちにもたまにメールが来るらしいけど、
あたしには見せてくれないの。
きっと剛史が良いように、遊ばれてるんだろうけど。
そうそう、
その、剛史だけど。
あたしたちの間にあった気まずい空気は、
あの騒動で、ものの見事に払拭されてくれまして。
おかげでまた、本音で怒鳴りあえる腐れ縁に戻りました。
確かに憎まれ口ばっかの奴だけど、
『諦めるな』って言ってくれたあの一言が、嬉しかったりしたんだよね。
それに職場で、あいつと言葉の応酬してないと、
いまいちノリが、悪い…ような。
平常運転、これ、万歳。
テンションが、おかしいくらいに上がってる。
今日ぐらいは良いじゃない。
何時にも増してご機嫌な、このあたし。
さあユーリ、
今日も一日がんばろう!
さて、朝のユーリ君。
おはよう! 気分はどうかな?
久しぶりのおねーさんに顔を見せて
――って、鏡がないと見られないんだっけ。
ユーリはあたしで、あたしはユーリ。
久しぶりだから、この感覚って凄く新鮮な感じ。
記憶は――OK、OK。
システムはきちんと稼働してる。
あたしがこっちに来られなかった間の出来事が、
一瞬のうちにあたし自身の記憶になる。
ふ~ん。
別段、変った事も無い?
色々出来事はあるけど、
たいしたことは起こってないのね。
なんだか、ホッ…。
あたしがこっちに来られない間に、
懸案になっていたあれやこれやが、解決してたりなんかしたら、
ちょっとばかり、悲しいじゃん。
例えば、ガイのこととか~、
アレクのこととか~
アレクのこととか。
アレクに関してが、あたしにとっては最優先。
それでも、ガイとミルヴァーナ姫のこと、凄く気になるな。
野次馬根性、だけじゃないよ。
どうしたってその結果は、アレクに関わってくると思うから。
厩に向かうユーリの目線で、少しだけ色を失った庭を見ながら、
あたしは自分の意識を、ゆっくりと浮遊させる。
この方が、彼の記憶をたどりやすくなる。
え~と…
そうか、あれから二か月…?
詳しい日付まではわかんないけど、
いつの間にか季節は冬。
本当に長い間、
ここに来れなかったんだな、あたし…
現実でお見合いに引きずりまわされてる間、
なんでか、来れなかったんだよね。
あっちでは一カ月ぐらいだけど、
あっちとこっちじゃ時間の流れが違う筈。
…え?
なんと!
この間にユーリてば、一つ年齢が上がっちゃってる!
う~ん。
十三歳になっちゃったのか~
その瞬間を見逃すなんて、一生の不覚。
今さらだけどおめでとう。
少しは大人に近づいたかな?
そうか。
母上からは手紙と温かそうな胴着が送られてきて
――今、着てんのがそれね。確かに軽くてあったかい。
でも、アレクには会えてないのね。
この前あたしが来た日――初めて頭なでてもらった日から
ユーリも、アレクには会えてないんだ。
随分長いこと、隊舎に顔を出してないみたい。
でも、そうすると、
今日もきっと会えないね。
楽しみにしてきたのにな。
ちょっとがっかり。
まあ、仕方ないか。
忙しいのは、当たり前だったし。
とりあえず今日は、
久しぶりのユーリの働きぶりを堪能するとしましょうか。
だって、
また、来れるし。
そのうち会えるよね。
平穏は長く続かない。
あたしは、それを知らない。




