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『酔いの連鎖』  作者: こうた
第7章 終わらない

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第4話 届かなかった手紙

書店での再会から一か月が過ぎた。


小畑辰巳は、あの日のことを何度も思い返していた。


不思議な再会だった。


謝罪もなかった。


許しもなかった。


責任についての話もなかった。


それでも、小畑の中で何かが少しだけ動いていた。


あの日以来、引き出しの中の手紙が気になり続けていた。


六年以上。


書いては消し。


書き直しては封をせず。


一度も送らなかった手紙。


ある日、小畑は仕事から帰ると、その封筒を机の上に置いた。


黄ばんではいない。


だが古い。


時間の重さが染み込んでいる。


封筒を開く。


最初の一枚。


そこには六年前の自分がいた。



---


『広岡様


このたびは本当に申し訳ありませんでした。』



---


ありふれた謝罪文。


しかし当時は、それしか書けなかった。


ページをめくる。



---


『私は一生後悔して生きていきます』



---


また別のページ。



---


『どうかお許しください』



---


小畑はそこで読むのを止める。


違う。


今の自分はそう思っていない。


許してほしいわけではない。


少なくとも、許しを求める資格が自分にあるとは思えなくなっている。


さらに後のページを見る。


数年前に書き直したもの。



---


『私はあなたの人生を壊しました』



---


また別の一枚。



---


『謝罪が自己満足になっている気がします』



---


文字が変わっている。


考え方も変わっている。


しかし完成には近づいていない。


むしろ遠ざかっているように見えた。


小畑は思う。


なぜ送れなかったのか。


最初は怖かった。


拒絶されるのが。


怒りを向けられるのが。


だが今は違う。


直美に会った今なら分かる。


送れなかった理由は別だ。


手紙を出した瞬間、


その手紙は「自分のもの」ではなくなる。


受け取るか。


捨てるか。


読むか。


読まないか。


そのすべてが相手の権利になる。


そして自分は何も選べなくなる。


それが怖かった。


夜。


田中平蔵から電話が来る。


「何してたんすか」


「手紙読んでた」


沈黙。


田中はすぐ意味を理解する。


「ああ……」


少し間。


「まだ持ってるんすね」


「持ってる」


田中は笑う。


「俺なら捨ててるかもしれない」


小畑は答える。


「俺は捨てられない」


田中はしばらく黙る。


そして言う。


「でもさ」


「出さないなら、それも一つの答えじゃないっすか」


小畑は何も言わない。


電話を切ったあとも、その言葉が残る。


出さない。


それも答え。


翌週。


白石夏美から連絡が来る。


結婚式の写真だった。


新郎新婦の笑顔。


小さな会場。


派手ではない。


しかし温かい。


《無事終わりました》


小畑は写真を見る。


そして返信する。


《おめでとう》


白石から返事。


《ありがとうございます》


続けて。


《翔平さんのことを忘れたわけじゃありません》


さらに。


《でも、ずっとそこにいるだけでもないんです》


小畑は画面を見つめる。


その言葉は深かった。


忘れない。


しかし留まり続けない。


その両方が必要なのだ。


夜。


小畑は再び机に向かう。


手紙を封筒へ戻す。


引き出しにしまう。


鍵をかける。


送らない。


少なくとも今は。


もしかすると一生送らないかもしれない。


それでもいいのかもしれない。


なぜなら、その手紙は謝罪文ではなくなっていた。


それは、


自分が何を見落としたのかを忘れないための記録になっていた。


届かなかった手紙。


しかし届かなかったからこそ、


残り続けるものもあるのだった。

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