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『酔いの連鎖』  作者: こうた
第7章 終わらない

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第2話 残された人々

七回忌の翌週。


小畑辰巳は出張先から帰る新幹線の窓を眺めていた。


流れる景色。


田んぼ。


住宅街。


工場。


どれも変わり続けている。


変わらないものなど何一つない。


それなのに、ある記憶だけは少しも古びない。


広岡翔平が笑っていた顔。


あの日の居酒屋。


断る声。


誰かの笑い声。


グラスの音。


それらだけは、六年経っても色褪せなかった。


スマートフォンが震える。


田中平蔵からだった。


《久しぶりに会いません?》


珍しい誘いだった。


小畑は少し考えて返信する。


《いいぞ》


数日後。


二人は駅前の喫茶店で向かい合っていた。


昔なら居酒屋だった。


今は違う。


コーヒーが置かれている。


田中は苦笑する。


「昔の俺らが見たら笑うっすね」


小畑も少しだけ笑う。


「そうかもな」


田中は以前より痩せていた。


表情も落ち着いている。


六年という時間が、人の輪郭を変えていた。


しばらく仕事の話をする。


景気の話。


会社の話。


健康診断の話。


四十歳が近づけば話題も変わる。


そして自然に沈黙が訪れる。


田中が言う。


「俺、この前結婚式呼ばれたんすよ」


小畑は頷く。


「そうか」


「でも二次会断ったんす」


少し笑う。


「飲み会だったんで」


小畑は黙る。


田中は続ける。


「別に酒が怖いわけじゃないんす」


間。


「ただ、あの空気が無理になった」


窓の外を見ながら言う。


「みんなで一人をいじる感じとか」


「断れない感じとか」


「そういうの見ると息苦しくなる」


小畑は頷く。


理解できた。


田中は続ける。


「昔の俺なら先頭に立ってたのにな」


その笑顔は自嘲だった。


帰り際。


田中が言う。


「翔平くんのこと、思い出します?」


小畑は即答できなかった。


毎日ではない。


だが消えたこともない。


「思い出す」


そう答える。


田中は頷く。


「俺もっす」


そして小さく続ける。


「でも最近、顔より先に直美さんを思い出すんすよ」


小畑は少し驚く。


田中は続ける。


「あの日から生きてる人の方を考えるようになった」


その言葉は重かった。


亡くなった人だけではない。


残された人もまた人生を続けている。


その現実。


数日後。


白石夏美から連絡が来た。


《結婚します》


短い文章。


小畑はしばらく画面を見つめた。


そして返信する。


《おめでとう》


すぐ既読が付く。


白石から続く。


《ありがとうございます》


さらに少しして。


《ずっと怖かったです》


《幸せになっていいのか分からなくて》


小畑は言葉を探す。


簡単な励ましは違う気がした。


だから短く送る。


《生きてるんだから》


既読。


長い沈黙。


そして返事。


《そうですね》


その一言だった。


夜。


小畑は部屋で一人考える。


田中。


白石。


自分。


みんな生きている。


それぞれ違う方向へ進んでいる。


しかし完全には離れられない。


あの日があるからだ。


そしてもう一人。


広岡直美。


彼女は今どうしているのだろう。


再婚したのか。


一人なのか。


幸せなのか。


苦しんでいるのか。


何も知らない。


知る権利もない。


それでも思い出してしまう。


残された人々は、


亡くなった人の周りで時間を止めることはできない。


進むしかない。


だが進んだ先にも、


失った人の影は消えない。


それが、


残された人間の時間だった。

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