第6話 許しのない関係
季節が一つ、静かに移ろった。
だが小畑辰巳の生活は、季節と無関係のまま進んでいる。
会社。
帰宅。
睡眠。
その繰り返しの中に、変化はほとんどない。
ただ一つだけ変わったのは、「連絡の頻度」だった。
田中平蔵からのメッセージは減った。
市村敏弘とはほとんど連絡が途切れた。
白石夏美とは、時々短い言葉を交わすだけになった。
関係が壊れたのではない。
むしろ逆だった。
壊れることすらしない距離に固定された。
ある夜、田中から久しぶりに電話が来る。
「ちょっといいっすか」
声はいつもより低い。
小畑は短く答える。
「どうした」
田中はしばらく黙る。
「最近さ」
間。
「普通に飲み会とか、なくなったんすよ」
小畑は黙る。
田中は続ける。
「当たり前なんすけどね」
少し笑う。
「でもさ、俺らがやったことって、こういうことなんだなって」
小畑は窓の外を見る。
「どういうことだ」
田中は言葉を探す。
「誰も“あの感じ”をやらなくなるってことっす」
沈黙。
田中は続ける。
「楽しいとか、盛り上がるとか、そういうの全部疑われるようになるんすよね」
それは責任の連鎖ではない。
文化の変質だった。
小畑は静かに言う。
「それは悪いことか?」
田中はすぐに答えない。
「分かんないっす」
間。
「でも、俺らの前は戻らないっすね」
通話が終わる。
その夜、小畑は久しぶりに過去の資料を開く。
法廷記録。
判決文。
証言の断片。
そこにあるのは、もう“事件”ではない。
一つの構造記録だ。
その中に、ある一文が残っている。
《被害者は一貫して飲酒に対し消極的意思を示していた》
何度見ても変わらない。
この一文が、すべての起点だった。
翌日。
白石夏美からメッセージ。
《会社の飲み会、なくなりました》
短い報告。
続けて。
《少し楽です》
少しして、もう一通。
《でも、ちょっと寂しいです》
小畑は画面を見る。
そしてゆっくり返す。
《それでいい》
白石から返事。
《はい》
既読。
それ以上はない。
しかし、それで十分だった。
許しは来ない。
回復もまだない。
それでも関係は続いている。
ただし以前のようには戻らない。
それは終わりではなく、
“形の変わった継続”だった。
夜。
小畑は机に向かう。
引き出しにはまだ手紙がある。
広岡直美への謝罪文。
書き直しても、意味は変わらない。
渡す予定はない。
それでも書くことをやめていない。
小畑は思う。
許されない関係は、消えない関係だ。
そして消えないということは、
生き続けるということでもある。




