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『酔いの連鎖』  作者: こうた
第6章 償い

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第4話 謝罪を拒まれた日

判決から三か月が過ぎた。


季節は少し変わり始めていた。


しかし小畑辰巳の中では、時間はあまり進んでいない。


仕事へ行く。


帰る。


食事をする。


眠る。


その繰り返し。


生活は続いている。


だが、生きている実感は薄い。


そんなある日、弁護士から連絡が来た。


「広岡さん側から回答がありました」


小畑は無意識に背筋を伸ばす。


以前、小畑は弁護士を通じて遺族への謝罪の意思を伝えていた。


直接ではない。


許しを求めるためでもない。


ただ、自分の言葉を伝えたいと思っただけだった。


弁護士は静かに言う。


「面会は希望されていません」


短い言葉。


しかし重い。


小畑は黙る。


予想はしていた。


むしろ当然だと思っていた。


それでも実際に聞くと胸の奥が沈む。


弁護士は続ける。


「手紙も受け取らないとのことです」


沈黙。


窓の外で車の音がする。


それだけが現実だった。


「そうですか」


小畑はそれだけ答える。


弁護士は少し間を置いてから言う。


「ただ、一つだけ伝言があります」


小畑は顔を上げる。


弁護士は資料を見る。


そして静かに読む。


「『謝罪を聞く準備はまだありません』」


それだけだった。


許さない。


会いたくない。


二度と関わるな。


そういう言葉ではない。


だが決して軽くない。


小畑は受話器を握ったまま動けなかった。


電話を切った後も、しばらく座ったままだった。


夜。


田中平蔵と電話をする。


「会えなかったんすか」


「断られた」


田中は少し黙る。


「そりゃそうっすよね」


小畑は頷く。


その通りだった。


田中が続ける。


「でも、なんか」


少し迷う。


「会えたら終わるみたいに思ってませんでした?」


その言葉で、小畑は黙る。


図星だった。


どこかで思っていた。


謝罪できれば。


言葉を伝えられれば。


何かが動くのではないか。


しかし違った。


被害者遺族には、加害者の都合に付き合う義務はない。


謝罪したい気持ちもまた、加害者側の感情なのだ。


「そうかもしれないな」


田中が言う。


「俺も最近思うんすよ」


間。


「許されたいんじゃなくて、終わらせたいだけじゃないかって」


その言葉は鋭かった。


小畑は何も言えない。


電話を切ったあとも、その一言が残る。


終わらせたい。


確かにそうだ。


苦しいから。


重いから。


前へ進みたいから。


だが、その願いは誰のためなのか。


数日後。


白石夏美から珍しく連絡が来る。


《私も手紙を書きました》


それだけ。


少しして続きが来る。


《出しませんでした》


小畑は画面を見つめる。


白石は続ける。


《読む側の準備を考えてなかったからです》


短い文章。


しかし深い。


小畑は返信する。


《そうか》


白石から返事。


《謝ることと、許してもらうことは別ですね》


小畑は長い時間、その画面を見ていた。


その通りだった。


謝罪はできる。


反省もできる。


償いもできる。


だが許しは違う。


それは加害者が求めるものではなく、


被害者側が決めるものだ。


夜。


小畑は机の引き出しを開ける。


そこには何度も書き直した手紙が入っている。


広岡直美へ。


何枚もある。


謝罪。


後悔。


反省。


伝えたいことはたくさんあった。


だが今は分かる。


まだ渡す時ではない。


もしかしたら、一生渡せないかもしれない。


それでも書いた事実は消えない。


小畑は手紙を引き出しへ戻す。


鍵をかける。


窓の外は暗い。


静かな夜。


謝罪を拒まれた日。


その日は失敗の日ではなかった。


初めて小畑が、


「謝る権利」と「許される権利」は別物だと理解した日だった。

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