表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『酔いの連鎖』  作者: こうた
第5章 罪を背負う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/68

第2話 切り取られた夜

法廷のスクリーンに、再びあの夜が映し出された。


小畑辰巳は椅子に座ったまま、視線を逸らせなかった。


何度見ても、同じ映像なのに意味が変わっていく。


検察官が立つ。


「証拠番号A-12、飲食店内監視映像を再生します」


音が流れる。


笑い声。


食器の音。


誰かの「もう一杯いこう」の声。


そして、自分の声。


『いけるだろ』


その瞬間、広岡翔平が小さく首を振る。


『もう、ちょっと……』


その声は弱い。


それでも、確かに拒否だ。


検察官が静かに言う。


「ここで被害者は明確に拒否しています」


裁判長は無言で頷く。


映像は止まらない。


田中平蔵が肩を叩く。


『まだいけるって』


市村敏弘が笑う。


『いけますよ、翔平さん』


笑い声。


グラスが満たされる音。


その流れの中で、広岡は少しうつむく。


白石夏美が一瞬こちらを見る。


何かを言いかけて、やめる。


その“やめた瞬間”が、やけに長く見える。


検察官が言う。


「この時点で、被害者の意思は明確です」


弁護士が反論する。


「しかし場の同調圧力の中では、個別意思は希薄化していたと考えられます」


希薄化。


その言葉が小畑の胸に残る。


人の意思が薄まる空間。


自分たちはそこにいた。


映像が進む。


広岡の顔色が悪くなる。


笑顔が消える。


代わりに沈黙が増える。


それでも周囲は続ける。


検察官が一時停止する。


「この時点で被害者の異常兆候が確認できます」


裁判長が画面を見る。


誰も声を出さない。


次の場面。


広岡が座り込む。


『ちょっと……きついです』


その声はかすれている。


だが、その場は止まらない。


田中が笑いながら言う。


『休憩すれば?』


市村が続ける。


『すぐ戻れますよ』


白石が小さく立ち上がるが、何も言わないまま座る。


小畑の声。


『大丈夫だって』


検察官が静かに言う。


「この発言が、継続の契機とされています」


契機。


それは始まりではない。


止めなかった理由の一部だ。


映像は最後へ進む。


広岡がうつむく。


返事が遅れる。


呼吸が乱れる。


それでも誰も席を立たない。


誰も止めない。


検察官が言う。


「救護措置はこの時点で行われていません」


弁護士が立ち上がる。


「しかし、その場の全員が異常を“軽度”と誤認していた可能性があります」


誤認。


小畑はその言葉に反応する。


誤認した。


確かにそうだ。


だが同時に、誤認したまま進めた。


裁判長が映像を止める。


静寂。


その中で直美が立ち上がる。


「これが“軽度”に見えますか」


誰も答えない。


直美は続ける。


「翔平は、助けを求める余力すら残っていません」


声は震えていない。


それが逆に重い。


小畑は視線を落とす。


映像の中の自分は、まだ笑っている。


その笑いが、今は別のものに見える。


楽しさではない。


無自覚だ。


その無自覚が、一番怖い。


裁判長が静かに言う。


「証拠調べは継続します」


木槌が鳴る。


切り取られた夜が、


もう二度と元に戻らない形で、記録として固定されていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ