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『酔いの連鎖』  作者: こうた
第3章 遺族の思い

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第5話 最初の判決

小畑辰巳にとって、それは“通知”というより突然の切断だった。


封筒は会社経由で届いた。


しかし差出人は会社ではない。


遺族側代理人弁護士。


机の上に置かれたまま、しばらく触れなかった。


触れた瞬間、何かが確定する気がしたからだ。


田中平蔵からメッセージが来ている。


《来ました?》


市村敏弘も同じ。


《見ましたか》


全員が同じタイミングで“何か”を受け取っている。


小畑はようやく封を切る。


紙の音がやけに大きい。


そこに書かれていたのは、予想よりも短い文章だった。


――損害賠償請求通知


数字はまだない。


しかし内容は明確だった。


・業務外飲酒における共同不法行為の可能性

・飲酒強要・同調圧力の責任

・安全配慮義務違反の主張


小畑は一行ずつ読むたびに呼吸が浅くなる。


「共同不法行為」


その言葉が頭に残る。


一人ではない。


だが、全員でもない。


“共同”という言葉が責任を結びつける。


同時に分けてもいる。


スマホが鳴る。


田中だ。


出る前に、また鳴る。


市村。


そして白石。


小畑は一つだけ取る。


「……見ました?」


田中の声は乾いている。


「見た」


沈黙。


「これ……やばいっすね」


軽く言おうとしているが、軽くならない。


市村も割り込む。


「俺、弁護士入れろって言われました」


白石の声は震えている。


「私もです」


全員が“個別”に動き始めている。


小畑は机を見つめる。


昨日まで同じ側にいた人間たちが、別々の線に分かれていく。


そのとき、再びチャイムが鳴る。


今度は会社ではない。


弁護士事務所からの正式連絡だった。


「面談の前に、事前整理を行います」


小畑は外に出る。


空は曇っている。


光が弱い。


ビルの一室。


そこに弁護士が一人座っていた。


静かな部屋。


資料が机に並んでいる。


弁護士は淡々と話し始める。


「今回の件は、刑事責任と民事責任が並行します」


その言葉で現実が分かれる。


刑事と民事。


どちらも逃げられない。


弁護士は続ける。


「遺族側の主張は明確です」


ページを開く。


そこには言葉が並んでいた。


“飲酒強要の中心的関与者”


小畑の胸が強く締まる。


中心。


その言葉。


弁護士は続ける。


「現時点では、小畑さんが最も関与度が高いと見られています」


その一言で部屋の空気が止まる。


小畑は息を吸う。


「……それは、事実ですか?」


弁護士は首を振る。


「まだ確定ではありません」


間。


「ただし、証言と映像からはその可能性が高い」


可能性。


その曖昧な言葉が重い。


“最初に飲ませた人間”


その位置に置かれつつある。


小畑は手を握る。


震えを止められない。


弁護士は静かに言う。


「今後の交渉は、あなたの立場に大きく影響します」


交渉。


つまり金額ではない。


責任の位置だ。


外に出ると、空気が冷たい。


スマホが鳴る。


田中。


「どうでした?」


小畑は答えない。


代わりに市村から。


「俺、もう別ルートっす」


白石からは何もない。


その沈黙が怖い。


小畑は歩き出す。


駅へ向かう人々。


普通の生活。


しかし自分だけがそこにいない。


“最初の判決”


それはまだ法廷ではない。


それでもすでに、


誰が一番重いのかが決まり始めていた。

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