第十七話 逃走開始
あれは俺――神白たくまが、小学校に入って間もない頃だった。
『お父さんとお母さんって、なんで結婚したの?』
そう聞いた俺に。
父さんは少し笑って答えた。
『この人を幸せにしたいって思ったからだ』
その時の俺は、とんでもなく純粋だった。
だから。
『じゃあ、かんなもみおも結婚しよう!』
そんなことを言った。
幸せにしたい。
ただそれだけの理由で。
……今思う。
「親父ぃぃぃ!!」
もっとこう!
説明あっただろ!?
誤解生むだろアレ!!
そんな黒歴史を思い出しながら。
俺たちはようやくダンジョン出口へ辿り着いていた。
「やった……!」
外の光が見える。
「もうすぐ出られる……!」
これで終わりだ。
久々の再会だったのに。
なんでこんな修羅場になってるんだ。
もう昔話とかしてる空気じゃねぇ。
そんなことを考えていると。
「おおおっ!!」
外から歓声が上がった。
「勇者が帰ってきたぞー!!」
「生きてたのか!!」
「やったんだな!!」
眩しい光の中。
多くの冒険者たちがこちらを見ていた。
その中で。
「神白っ!!」
聞き覚えのある声。
振り向くと。
そこにはソフィアがいた。
しかも。
半泣きだった。
「……え?」
「よかった……」
ソフィアが肩を震わせる。
「ほんとによかった……!」
今にも泣きそうな顔だった。
「私のせいでまた――」
「俺たちが死んだと思ってたのかよ」
「っ!」
図星だったらしい。
ソフィアが慌てて顔を背ける。
「べ、別にそんなんじゃないわよ!」
耳まで赤い。
「ただ……ちょっと安心しただけ!」
……わかりやす。
「素材は?」
露骨に話を変えてきた。
すると。
隣のアレナが低い声を出す。
「……これじゃ」
ドサッ。
巨大なカニ素材を地面へ置いた。
「お、おぉ……」
ソフィアが若干引いている。
「早く持って帰れ」
完全に敵対モードだ。
「……ありがとう」
ソフィアは小さく礼を言った。
「あんた達も疲れてるでしょ? ここは私がなんとかしとくから、宿に帰ったら?」
「助かる」
俺は素直に頷く。
「お言葉に甘えさせてもらうよ」
よし。
帰れる。
これでやっと休め――。
「ねぇ?」
ゾクッ。
背筋が震えた。
「……なにしてるの?」
肩を。
強い力で掴まれる。
「なんで帰ろうとしてるの? たくっち♡」
かんなだった。
笑顔。
なのに怖い。
「……えっと」
「逃げる気?」
「いや〜その〜」
「ソフィア!」
俺は全力で叫んだ。
「後はよろしく!!」
「えっ!?」
「待てこの浮気者ぉぉぉ!!」
アレナが俺の腕を引っ張る。
「走るのじゃたくま!!」
「おう!!」
俺たちは全力疾走した。
「ちょっと神白ぉぉぉ!!」
ソフィアの怒鳴り声。
「どういうことなのよあんたぁぁ!!」
その後ろで。
「待ちなさーい♡」
「たくまくーん♡」
めちゃくちゃ怖い声が聞こえる。
「無理無理無理!!」
俺は全力で街へ逃げ出した。




