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第十三話 ダンジョンブレイク

 モンスターの群れが押し寄せる。


 オーガが咆哮を上げ。


 ゴブリンが武器を振り回し。


 巨大な魔物たちが我先にと俺へ向かってくる。


「っ――!」


 氷を展開。


 空中に生み出した氷柱が一斉に降り注ぐ。


 次々とモンスターを貫き、凍らせ、砕く。


 だが。


 止まらない。


 凍った仲間を踏み砕きながら、後ろのモンスターがさらに前へ出てくる。


「クソっ……!」


 また凍らせる。


 また砕く。


 それでも終わらない。


 どれだけ倒しても、どれだけ殺しても。


 モンスターが湧いてくる。


「これが……」


 脳裏に浮かぶ。


 酒臭いあのおっさんが言っていた言葉。


『ダンジョンブレイク』


『国の冒険者と勇者全部合わせて、防げるかどうかだ』


 そんなものを。


「俺一人でどうにかしろってか……!」


 氷を生成。


 放つ。


 斬る。


 凍らせる。


 砕く。


 呼吸する暇もない。


 腕の感覚が消えていく。


 魔力も底をつき始めていた。


「はぁ……はぁ……」


 氷のガントレットが軋む。


 冷気で皮膚が裂ける。


 視界もぼやけ始める。


「俺って……」


 笑えてきた。


「ほんと運ないな……」


 思い返してみれば。


 前の世界でも。


 この世界でも。


 特別運が良かったことなんてない。


 氷属性。


 ハズレ。


 弱者。


 死ね。


 そんな言葉ばっかだった。


「疲れたな……」


 もう諦めるか?


 助けが来るまで、アレナは無事か?


 そう考えた瞬間。


『たくまぁぁっ!!』


 氷壁の向こうから叫び声。


『だめじゃ!! 一緒に逃げるのじゃ!!』


 アレナの声。


『たくまが死んだら我はどうすればいいのじゃ!!』


 胸が痛くなる。


『たくまなしでは生きられん!!』


「……っ」


『たくまぁっ!!』


 そうだ。


 アレナは無事なのか?


 もし俺が今ここで死んだら。


 誰があいつを守る?


 誰が故郷まで送り届ける?


 誰が――。


「ダメだ」


 立ち上がる。


「まだ死ねない」


 死にたくない。


 今度こそ。


 今度こそ俺は。


「俺の大切な人を――」


 自分の手で守れるように。


 その瞬間だった。


『異常な数のモンスター討伐を確認しました』


 頭の中に声が響く。


『条件達成により、ボーナスを付与します』


『魔力総量を大幅に上昇』


『属性看破が進化しました』


『魔力を視覚化可能』


『属性変換速度上昇』


『属性変換消費魔力減少』


「……ははっ」


 笑う。


「このタイミングかよ」


 神様も。


 どうやら俺に死んでほしくないらしい。


『魔力総量、一兆に到達しました』


「――は?」


 一兆?


 意味わかんねぇ。


 だが次の瞬間。


「っ!?」


 俺の周囲から、青白いモヤのようなものが立ち上る。


 これが。


 俺の魔力。


「すげぇ……」


 今まで見えなかったものが見える。


 魔力収束。


 属性変換。


 全部が手に取るようにわかる。


「なら――」


 俺は右手を前へ出す。


 青白い魔力を一点へ集中。


 収束。


 圧縮。


 形成。


 そして。


「……ははっ」


 自然と笑みが漏れた。


「これを作る日が来るとはな」


 現れたのは一振りの刀。


 真っ青な鞘。


 白銀の刀身。


 冷気を纏う美しい刃。


 だけど。


 その実態は恐ろしい殺戮兵器。


「俺の世界で、一番切れ味がいいって言われてた武器だ」


 日本刀。


 昔。


 中二病だった頃の俺なら、絶対一度は憧れた。


「でもまぁ――」


 刀を握る。


 冷気が溢れ出す。


「切るっていうより、凍らせる方になっちまうけどな」


 俺は静かに笑う。


「名前は……」


 青白い刀身を見つめる。


「《氷刀・白夜》」


 その瞬間。


 奥の闇が動いた。


 見えない怪物が迫る。


 空気が震える。


 圧力が増す。


「死んでもらうよ」


 俺は鞘へ刀を収めた。


 腰を落とす。


 呼吸を止める。


 周囲の魔力をすべて一振りへ込める。


「――抜刀」


 次の瞬間。


 世界が白く染まった。


 モンスターの咆哮。


 足音。


 空気。


 すべてが止まる。


 一瞬で。


 視界いっぱいに広がる真っ白な世界。


 綺麗だった。


 だけど同時に。


 恐ろしい。


「エグいな……」


 自分でやったのに。


 自分が一番引いていた。


「俺って……こんな化け物だったっけ」


 そこで。


 俺の意識は途切れた。

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