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第十二話 五層の悲鳴

 「くんくん……」


 ダンジョン五層。


 アレナが鼻をひくつかせながら眉をしかめた。


「臭いのじゃっ!」


「仕方ないだろ。モンスターがいっぱいいるんだから」


「うぅ〜……」


 アレナは耳をぺたんと倒しながら俺の腕にしがみついてくる。


「ぱっぱと終わらせて帰るのじゃ!」


「はいはい」


 俺は苦笑しながら周囲を見渡した。


 薄暗い洞窟。


 湿った空気。


 岩肌には青白い鉱石が埋まっていて、ぼんやりと辺りを照らしている。


 そして――。


「あれだ、アレナ」


 俺が指を差す。


 その先には巨大な甲殻種モンスター。


 人間より何倍も大きい、赤黒いカニがいた。


「あの大きいのがそうなのか?」


「そう。硬殻クラブ」


 ソフィアに頼まれた素材の持ち主だ。


「ぶん殴るのじゃ!」


「え、ちょ――」


 止める間もなかった。


 地面を砕く勢いでアレナが飛び出す。


 一瞬で距離を詰め、その拳を振り抜いた。


 ――ドゴォン!!


 轟音。


 次の瞬間。


 巨大なカニの頭が吹き飛んだ。


「……ワァーオ」


 一撃だった。


 いやもう討伐とかじゃない。


 破壊だ。


「エグいな……。あれでまだ弱いって、族長どうなってんだよ……」


「やったのじゃ!」


 アレナが尻尾をぶんぶん振りながら戻ってくる。


「おう。これで依頼達成だな」


 そう言った――その瞬間だった。


「うわぁぁぁ!!」


「きゃあああ!!」


 悲鳴。


 広い五層全体に響き渡る絶叫。


 俺とアレナの表情が一瞬で変わる。


「アレナ!」


「うむっ!」


 俺たちはすぐに駆け出した。


 悲鳴の聞こえた方向へ。


 そして――。


 辿り着いた先で、俺たちは言葉を失った。


「なんだよ……これ……」


 そこにいたのは大量のモンスター。


 オーガ。


 ゴブリン。


 巨大狼。


 毒蜘蛛。


 それだけじゃない。


 本来この階層にはいないはずの、深層モンスターまで混ざっていた。


 異常だ。


 だが。


 もっとヤバいのは――。


「っ……!」


 奥。


 モンスターの群れのさらに奥。


 姿すら見えない場所から、とんでもない圧力が流れてくる。


 立っているだけで足が震える。


 肺が潰れそうになる。


「ア……アレナ?」


 横を見る。


 アレナは威嚇すらできず、半泣きになっていた。


 耳は完全に伏せられ、尻尾も垂れている。


 そしてその前には。


 腰を抜かし、動けなくなっている冒険者たち。


「どうする……」


 喉が渇く。


 逃げるか?


 いや。


 逃げたら後ろの奴らは死ぬ。


 頭の中で声が響く。


 ――神白たくま。


 ――お前ならどうする?


「……決まってるだろ」


 俺は息を吐く。


「戦う。一択だ」


「たくまっ!」


 アレナが肩を震わせる。


「アレナ。あの冒険者たちを守ってくれ」


「ダメじゃ!」


 即答だった。


「いくらたくまでも、後ろのやつには勝てない!」


「大丈夫だ」


「大丈夫じゃないっ!!」


 アレナが叫ぶ。


「逃げるのじゃ!!」


 ……ごめんな。


 こうなったら強硬手段だ。


 俺は魔力を放出する。


 何重にも氷の壁を生成。


 アレナと冒険者たちを包み込む。


「っ!?」


「ダメじゃ! たくまっ!!」


 ドンドンッ!!


 氷の向こう側からアレナが壁を叩く音が響く。


「たくまぁぁっ!!」


 必死な声。


 だけど。


「ふぅ……」


 俺は前を向く。


「ここから生きて帰れるかな」


 モンスターの群れが迫る。


 黒い波みたいに。


 止まらない。


 逃げない。


 なら――。


「来いよ」


 俺は静かに氷を展開した。

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