第十話 氷獄籠手
空中に巨大な氷柱が現れる。
――氷槍。
「なっ……!?」
ソフィアが目を見開いた。
次の瞬間。
ズドォォォン!!
巨大な氷槍が炎弾へぶつかる。
火と氷。
真逆の力が激突した。
爆音。
白い蒸気。
視界が真っ白に染まる。
「相殺した……!?」
「嘘だろ……」
周囲の冒険者たちがざわつく。
だが。
「まだよ!!」
蒸気の中からソフィアが飛び出した。
速い。
一瞬で距離を詰めてくる。
燃え上がる剣。
鋭い踏み込み。
その剣筋は、確かに強かった。
普通の相手なら見えない。
見えても反応できない。
なのに。
今の俺には見えていた。
全部。
「はぁぁぁっ!!」
炎剣が振り下ろされる。
だが。
カキィィィン!!
俺は氷獄籠手で受け止めた。
「っ!?」
ソフィアの顔が驚愕に染まる。
その瞬間。
パキッ――。
「え……?」
ソフィアの剣が凍り始める。
刀身を氷が侵食していく。
そして。
バリンッ!!
まるでガラスみたいに砕け散った。
「な、なんなのよそれ……!」
ソフィアが後ろへ飛び退く。
俺は静かに拳を見る。
この籠手。
触れたものを一瞬で凍らせる。
しかも。
ただ凍るだけじゃない。
凍った物質を脆くする。
だから砕ける。
まるで氷細工みたいに。
「終わりか?」
「……っ!」
ソフィアが悔しそうに睨む。
その目には、もう油断はなかった。
「まだ……終わってない!」
次の瞬間。
ソフィアの身体から炎が吹き上がる。
「お、おい!」
「魔力強化まで使うのか!?」
冒険者たちがどよめく。
ソフィアは低く構えた。
「私は……!」
炎が渦巻く。
「死ぬ新人をこれ以上見たくないのよ!!」
その叫びと同時に。
ドンッ!!
床を砕きながらソフィアが突っ込んできた。
速い。
さっきより遥かに。
炎を纏った拳が迫る。
だが。
「……だからなんだよ」
俺は一歩踏み込んだ。
「え?」
ソフィアが目を見開く。
「死ぬから諦めろって?」
「弱いから逃げろって?」
冷気が溢れる。
「そんなの……」
拳を握る。
「認められるわけねぇだろ!!」
ドゴォォォッ!!
氷獄籠手がソフィアの腹へ突き刺さった。
「がはっ……!?」
鎧が凍る。
次の瞬間。
バリンッ!!
氷と一緒に砕け散った。
ソフィアの身体が吹き飛ぶ。
そのまま地面を転がり、壁へ激突した。
静寂。
誰も喋らない。
そして。
「……勝者、神白たくま」
受付嬢の震えた声が響いた。
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「うおおおおおおおおっ!!!」
ギルドが爆発した。
「あいつクソ強ぇぇぇ!!」
「なんだよあの新人!!」
「氷属性であれかよ!?」
「化け物じゃねぇか!!」
酒を掲げながら騒ぎ始める冒険者たち。
だが。
「その前にソフィアの手当てだ」
低い声が響いた。
人混みを割って、一人の男が出てくる。
大きいわけじゃない。
なのに。
なぜか圧が凄かった。
歴戦の戦士。
そんな言葉が似合う男だった。
男は俺を見る。
「悪かったな」
「……え?」
「お前を馬鹿にしてた」
そう言って頭を下げる。
「俺たちは実力ある奴は歓迎する」
「すまなかった」
すると。
周囲の冒険者たちも次々頭を下げ始めた。
「悪かった!」
「氷属性舐めてた!」
「許してくれ新人!!」
さっきまで笑っていた奴らが、今は頭を下げている。
俺は少し驚いた。
……帝国とは違う。
ここは。
強さが全てだ。
荒っぽい。
でも。
強ければ認めてくれる。
ちゃんと居場所をくれる。
「……変な場所だな」
気づけば少し笑っていた。
その時だった。
「……なんで」
倒れていたソフィアが小さく呟く。
「なんで、そんな強いのに……」
ソフィアは苦しそうに俺を見た。
「そんな顔してるのよ……」
「……」
俺は答えられなかった。




