第3巻第6話「大陸の群雄と黒鉄の標的」
ギタとカブが国軍総司令官を拉致するためのカチコミへ向かう中、東義慶のアジトの一室では、稲川翔がシイナの集めてきた大陸全土の『生きた情報』に向き合っていた。
机の上に広げられた巨大な地図には、シイナの手によって、各地で表の国家に牙を剥く危険な大兵力たちの名が克明に書き込まれていた。
「――ボス、これが現在、私が把握している大陸各地の『反国軍勢力』の全貌です」
シイナはメガネの位置を指先でクイと直し、羽ペンで地図の各地方を指し示した。
「まず、ここから遥か東の大農園と平原一帯。そこを縄張りにしているのは、元騎士マトクが率いる『騎馬強盗団』です。元正規軍の練度に加え、独自の流動騎馬戦術を用いるため、あの平原地帯においては無類の強さを誇ります。正面からぶつかれば、国軍の一個軍団すら容易に消し炭にするでしょう」
「元騎士の騎馬隊、ねぇ……。足が速い悪党は厄介だな」
翔はくわえ煙草の先を赤く光らせ、紫煙を吐き出しながら先を促した。
「次に、西の山岳地帯。ここには元王族の暴君トウラが率いる『反乱軍』が潜伏しています。王政の腐敗に憤る現地民たちも深く協力しており、何より『団結力』が異常なまでに高い。命を顧みない狂信的な軍勢です。……さらに、最北部には弱肉強食の規律で動く蛮族たちの連合があったり、西海岸には交易船を襲う巨大な海賊団が出ていたりと、大陸の裏社会はかなり無茶苦茶な群雄割拠の状態です」
シイナが弾き出した、ただのコソ泥とは次元の違う大兵力たちのデータ。
普通の男ならその規模に圧倒されるところだが、翔の濁った両目は、むしろ極上のシノギ(縄張り)を見つけたかのように、ギラギラとした歓喜の光を宿していた。
「なるほどな。元騎士、元王族、蛮族、海賊……。どいつもこいつも、ウチの『舎弟(犬)』にするにゃあ、これ以上ない最高の上物じゃねえか。……で、シイナ。この中で、一番ウチのシマ(縄張り)に近い場所にいるのはどいつだ?」
「はい。ここの、本当に目と鼻の先の近場ですね。アラクマという男が率いる、二千人規模の山賊団です。元木こりや元猟師の猛者どもで構成されており、すでに周辺の国軍の軍事拠点や、強固な砦を正面からいくつも襲撃しては蹂躙しています」
「二千人の山賊団、か。……そいつらの本拠地(事務所)はどこだ?」
「はい。ここから北にそびえる、黒鉄山脈です。険しい天然の要塞ですので、すぐ近くですね」
「――黒鉄山脈、アラクマ」
翔は短くなった煙草を床に落とし、革靴のつま先でゆっくりと踏み消した。
そして、獰猛な狼のような、三日月型の凶悪な笑みを浮かべて立ち上がった。
「よし、決まった。――俺たちの次のターゲットは、アラクマだ!!」
「アラクマ、ですか……! 相手は二千人。我が東義慶の四倍の兵力ですが……」
シイナの瞳に、恐怖ではなく、翔がこれから仕掛けるであろう最凶のハメ手(作戦)への期待の光が宿る。
「数なんて関係ねえよ。ギタとカブが国軍の総司令官(最高のカード)を引っ張ってきたら、そいつを餌にして、その二千人の巨頭を内側から丸ごとハメ殺してやる。アラクマの首輪を握り、黒鉄山脈の二千人の猛者を、残さずウチの『東義慶』の看板の下に組み込んでやるよ」
チート能力なき極道・稲川翔。
五百人の軍勢を率いる男が、大陸一の巨頭である二千人の山賊団をハメ殺し、その大兵力を丸ごと強奪するための、冷徹極まる国盗りのシナリオが、いま、完璧に始動しようとしていた。




