第3巻第5話「参謀の指し図」
錯乱した分隊長の口からすべての機密を毟り取ったシイナは、地下室の机の上に真新しい地図を広げ、羽ペンで大きく一点を囲んだ。
そこは、黒鉄山脈の遥か南の麓に位置する、険しい崖に囲まれた強固な軍事拠点――国軍総司令部『白亜の砦』だった。
尋問を終えたシイナは、作戦室に集まった切り込み隊長の二人に向けて、冷徹な視線を向けた。
「奴からの情報を頼りに、次の一手を指し図(指示)します。――ギタさん、カブさん。この『白亜の砦』の奥深くに潜んでいる、国軍の総司令官を直々に捕まえて(拉致して)来てください。……何度も言いますが、今回も『殺してはいけません』よ」
「総司令官本人をか。……今度は、さらにレアな獲物だな」
ギタが熊のような巨体を揺らし、大弓の弦を弾いて地響きのような声で応じる。
「安心してね、シイナさん!」
カブがメイスを軽快に回し、ぎらついた目を爛々と輝かせた。
「加減ってやつをだいぶ覚えたからさ。今度もちゃんと、たっぷり喋れる状態でボスの前に跪かせてあげるよ!」
二頭の狂犬の頼もしい返事に、シイナはメガネのブリッジをクイと押し上げ、さらに冷徹な無頼の笑みを浮かべて言葉を続けた。
「ええ、その総司令官の命こそが、次の巨大な『シノギ』の鍵になるのです。……その男を生け捕りにし、私たちの手札として使うことで、周辺地域に潜伏している『反乱勢力』どもを丸ごとウチの組織(東義慶)へ引き入れ、手を組むための材料にします。抜かりなくな」
ただ国軍を叩くだけではない。敵のトップを人質に取ることで、国軍を憎むすべての反乱分子(大兵力)に対して「ウチの看板(東義慶)の下につけば、最高の復讐の機会をやる」という、圧倒的な大義名分(利害のロジック)を突きつける作戦だ。
上座の長椅子に深く腰掛け、くわえ煙草の先を赤く光らせていた首領の稲川翔は、紫煙を吐き出しながら獰猛に口元を歪めた。
「ハッ……いいじゃねえか。反乱分子の荒くれどもをまとめてウチの『舎弟(犬)』にするための、極上の手札ってわけだ。シイナの算盤(知恵)通り、これで大兵力のあてはできたな」
翔は立ち上がり、懐のナガドス(長ドス)を軽く叩いた。
「よし、話は決まりだ。ギタ、カブ。ウチの看板『東義慶』の本当の恐ろしさを、その偉そうな総司令官の脳天に直に叩き込んでやれ。シイナ、野郎どもの半分を動かせ。砦の周囲を逆包囲して、鼠一匹逃がさねえ退路の遮断網を張れ」
「はい、ボス。抜かりなく」
「「ヘイ、ボス!!!!」」
チート能力なき極道・稲川翔。
その男が放った最凶の二頭の猟犬が、表の世界の支配者を引きずり下ろし、大陸中の無頼漢を束ねる最凶の帝国を築くため、再び夜闇の狩りへと向けて、音もなくアジトを飛び出していった。




