第3巻第7話白亜の罠
国軍総司令部『白亜の砦』。
その堅牢な拠点を落とすため、切り込み隊長のギタとカブは、シイナの尋問によって明らかになった「総司令官の行動スケジュール」を完全に掌握していた。
狙うは、総司令官が直々に行うという、周辺拠点の『視察』からの帰路。
大軍を動かさず、闇に紛れた東義慶の精鋭数十人のみを引き連れ、兄弟は鬱蒼とした森が街道を狭める絶好の「処刑場」で、その時をじっと待っていた。
――その日の夜。
視察を終えた総司令官と、彼を厳重に警護する国軍一団の馬車が、月明かりの薄い街道を通りかかった。
「――今だ。やれ」
闇の奥からギタの低い声が響いた、その瞬間だった。
バリバリと凄まじい音を立てて、街道の前方に巨大な大木が倒れ込み、総司令官の一団の進路を完全に塞いだ。
「な、何事だ!? 馬を止めろッ!」
前衛の兵士たちが慌てて手綱を引いた瞬間、今度は一団の『真後ろ』の闇から、容赦のない弓矢の豪雨が降り注いだ。
ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!!
「ぎゃあぁっ!?」
「伏兵だ! 後ろから撃たれてやがる、盾を構え――ぶふっ!?」
前方を巨木で塞がれ、後方からは退路を断つような精密な射撃。これこそが、猟師時代にギタとカブが幾度となく大物を仕留めてきた、完璧な挟み撃ちのロジックだった。
「山賊の襲撃だ! 応戦しろッ!」
兵士たちが必死に武器を抜こうとするが、四方の闇から躍り出た東義慶の私兵たちの圧倒的な奇襲の前に、まともな陣形すら組めない。カブのメイスが兵士の鉄兜を叩き割り、私兵たちの鉄剣が正規兵の隙を容赦なく貫いていく。
数分と経たぬうちに、周囲に満ちたのは肉の裂ける音と絶叫のみ。
四方からの容赦のない波状攻撃によって、国軍が誇る総司令官の直属護衛一団は、まともに戦う間すら与えられず、瞬く間に『壊滅』へと追い込まれた。
街道は物言わぬ兵士たちの血の海と化す。
まだ僅かに息のあった生き残りの兵士たちに対し、ギタとカブは表情一つ変えず、投げ斧と槍で冷酷にトドメを刺していった。ヤクザのカチコミに、後腐れを残すような甘さは必要ない。
そして――最後に残ったのは、きらびやかな漆鎧のあちこちに返り血を浴び、腰を抜かして地面を這い回っている、国軍の最高権力者、総司令官その人だった。
「……ん。見っけ。こいつだな、シイナさんの言ってたレア物は」
ギタが熊のような巨体を揺らしながら歩み寄り、大弓を背負い直して男を見下ろした。
「ヒャハハ! よう、貴族もどき! 随分とお偉いツラして馬に乗ってたじゃん!」
カブが血濡れたメイスを肩に担ぎ、獰猛な蛇のような目をぎらつかせる。
「き、貴様ら……自分が何者に向かって武器を向けているか分かって……ひぅっ!?」
総司令官が威厳を保とうと声を張り上げかけた瞬間、ギタの太い足が男の胸板を強烈に踏み付けた。
「オマエ達はなにも、ぐうっ……!」
「うるさいよ。お前はこれから、ウチのボス(稲川翔)への最高の『土産』になるんだからさ。無駄な口を利いて、ウチの参謀に引き渡す前に死なれても困るんだよ」
ギタが冷酷に言い放ち、総司令官の首根っこを強引に鷲掴みにして引きずり起こした。
「さあ、仕事は終わりだ。アジトへ帰ろ! ……おい、貴族もどき。チンタラ歩いたら、その細い足をその場で叩き切るからねぇ!」
カブがケラケラと笑いながら、周囲の私兵たちに撤収の合図を送る。
チート能力なき極道・稲川翔。
彼が放った二頭の狂犬の手によって、国軍の最高権力者(総司令官)は、傷一つなく完全に生け捕りにされた。
大陸一の巨頭『二千人のアラクマ山賊団』を内側からハメ殺し、その大兵力を丸ごと東義慶の血肉にするための、最凶のチェックメイトの手札が、いま、完全に翔の元へと運ばれようとしていた。
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