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第0 第3話弁慶の立ち往生

とうとう次から異世界転移です



第0巻・第3話「弁慶の立ち往生」


 ――ヒュウウウウウウウッ、と。

 凍てつく夜風が、錆びついた鉄骨の隙間を抜けて不気味な鳴き声をあげていた [INDEX]。

 東北の最果て、とある廃業した巨大な紡績工場 [INDEX]。

 床には引きちぎられた綿屑と、男たちの重い足音が無数に転がっている [INDEX]。関東の『東義会』と東北の『蘆名組』を引き裂いた「東北戦争」は、ここで最悪の結末を迎えようとしていた [INDEX][INDEX]。

 稲川翔の強さは、あまりにも規格外すぎた [INDEX]。

 敵の首を容赦なく狩り続けるその冷徹な破壊力は、敵である蘆名組だけでなく、身内であるはずの東義会の上層部すらも「いつか自分たちも喰い殺される」と恐怖させるに至ったのだ [INDEX][INDEX]。

 結論は、最悪の裏切りだった [INDEX]。

 東義会の上層部が蘆名組と裏で手を握り、最大の功労者である特攻隊長・稲川翔を抹殺するための罠を仕組んだのだ [INDEX]。

 ガシャ、ガシャリ、と四方の闇から無数の金属音が響く [INDEX]。

 廃工場の割れた窓の外、そして凍りついたキャットウォークの上。気づけば翔の周囲は、関東と東北の混成部隊――総勢数百名に及ぶ、黒い外套を纏った刺客の包囲網で完全に埋め尽くされていた [INDEX]。

「稲川ァ! てめえのせいで極道の秩序はめちゃくちゃだ! ここがてめえの墓場だよ!!」

 数百の怒号が響き、一斉にチャカや自動小銃の銃口が翔へと向けられる [INDEX]。

 吹き込む地吹雪の中、翔は防弾チョッキも羽織らず、ただ一本の長ドスを逆手に構えたまま、くわえ煙草の白煙を静かに吐き出した [INDEX]。その目は、数百の死神を前にしても、怯えなど微塵もない冷徹な「プロのヤクザ」のそれだった [INDEX]。

「ハッ……揃いも揃って、ウチの神輿に泥を塗るネズミばかりじゃねえか。上等だ。まとめてケジメ、つけさせてやるよ」

 ――バラバラバラバラバラッ!!!!!

 直後、廃工場が物理的に震えるほどの狂気的な銃声が炸裂した [INDEX]。

 無数の弾丸が容赦なく降り注ぎ、翔の四肢を、胸を、容赦なくブチ抜いていく [INDEX]。肉が弾け、鮮血が夜の闇に散る [INDEX]。

 だが、翔は倒れなかった [INDEX]。

「ウオオオオオオッ!!!」

 身体中から大量の血を噴き出しながらも、翔は鬼神のごとき足取りで前へ踏み込んだ [INDEX]。

 現代極道で叩き上げられた神速の抜刀術 [INDEX]。閃光のような長ドスの一閃が、迫り来る刺客どもの首を、胸を、次々と易々と斬り伏せていく [INDEX]。一歩進むごとに白い雪が赤く染まり、工場の床は裏切り者たちの死体で瞬く間に埋め尽くされていった [INDEX]。

 銃弾が肉を引き裂き、長ドスの刃が骨を削る [INDEX]。

 すでに数十発の弾丸がその肉体に撃ち込まれていた [INDEX]。通常の人間ならとっくにショック死しているはずの致命傷 [INDEX]。

 それでも、翔は一歩も退かなかった [INDEX]。

「ひ、ひぃっ……化け物だ、なんで倒れねえんだよ!?」

 百人近くを斬り殺した頃、生き残った刺客たちが、その圧倒的な「不滅の武」に恐怖し、ガタガタと手を震わせて引き金を引く指を止めた [INDEX]。

 静寂が戻った廃工場 [INDEX]。

 激しい吹雪が、血塗れの翔の身体を白く白く染めていく [INDEX]。

 翔は、手にした長ドスをカチンと強固に地面のコンクリートへと突き立てた [INDEX]。そして、それを支えにしながら、しっかりと両足で大地を踏みしめて仁王立ちした [INDEX]。

 ズタズタに引き裂かれた上着の隙間 [INDEX]。

 その背中からは、無数の矢を浴び、血を流しながらも、敵を睨みつけて立ち往生した伝説の漢――『武蔵坊弁慶』の刺青が、翔の流す本物の鮮血を浴びて、禍々しいほどの覇気を放ちながら浮かび上がっていた [INDEX]。

 翔は、自分を囲む裏切り者どもを、死神のような冷徹な眼光で見つめたまま、微動だにしない [INDEX]。

 意識はとうに薄れ、心臓の鼓動も止まっている [INDEX]。それでも、ヤクザとしてのプライドと、背中の弁慶の覚悟が、彼の肉体を決して地面へ倒すことを許さなかった [INDEX]。

(……おい、見てるか、クソ虫ども。これが、東義会の稲川の……ケジメだ……) [INDEX]

 脳裏でそう呟き、翔が不敵に口元を歪めた瞬間、世界が、奇妙な純白の光に包まれた [INDEX]。

 刺客たちの恐怖の悲鳴も、東北の激しい吹雪の音も、一瞬ですべてが真っ白に消え去る [INDEX]。

 ――次に、ゆっくりと目を開けたとき [INDEX]。

 肌を刺すような極寒の雪の冷たさは消え、鼻腔を突いたのは、硝煙と、大量の「死体の死臭」だった [INDEX]。

 頭上には見たこともない不気味な色の空が広がり、辺り一面には、中世の甲冑に身を包んだ兵士たちの凄惨な死体が山のように転がっている [INDEX]。

 カラスが不気味に鳴き、遠くでは死体漁りの追い剥ぎどもが、血塗れの翔の姿を見て怯えの声を上げていた [INDEX]。

 翔は、身体中に刻まれていたはずの無数の銃創や刀傷が、傷跡(ケジメの痕)として綺麗に塞がっていることに気づいた [INDEX]。地面に突き立てていた現代の長ドスは、しっかりと右手に握られている [INDEX]。

 翔はポケットに手を突っ込むと、いつも通り一本のタバコを取り出し、静かに火をつけた [INDEX]。紫煙が、異世界の異常な空へと昇っていく [INDEX]。

「……ハッ。ここがどこだか知らねえが……仕入れ先(死体の山)としては、上等じゃねえか」 [INDEX]

 現代日本の裏社会で「弁慶の立ち往生」を遂げた漢、稲川翔 [INDEX]。

 彼の本物の知略と圧倒的な暴力による、異世界成り上がり劇『無頼漢奇譚』の偉大なる第1章の幕が、この凄まじい前日譚の終わりとともに、静かに上がったのだった

主人公稲川翔は特攻隊長に任命された時に弁慶の入れ墨に色をいれました。


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