第2巻第4話無頼漢の時代
国を奪り、表の権力者どもを引きずり下ろして、裏社会のルールが全てを決める「無頼漢の時代」を作る。
チート能力など持たない、ただの身一つの男が言い放ったそのあまりにも狂暴で傲然たる野心に、血塗れ兄弟ギタとカブは完全に飲み込まれていた。
静寂が山林を支配した後、カブの喉から、今までとは全く違う、心底楽しそうな笑い声が漏れた。
「ハ、ハハハ! 何を言うかと思ったら、無頼漢の時代か……! これは、これはとんでもなくデカい夢だな、兄貴!?」
兄のギタもまた、突き立てていた大弓から手を離し、呆れたように、だがその瞳に最高に熱い歓喜の火を灯して深く頷いた。
「ああ……。あまりにデカ過ぎて、山暮らしのわたし達にはすぐには理解が出来ないな」
「たださ」
カブがメイスをクルリと回し、翔の前に一歩進み出て、悪戯っぽく笑った。
「これから新しい『ボス』の下に行けば、その無頼漢の時代ってやつが特等席で見れるんだろ? だったら、その神輿に乗り換えるのは大いにありだね」
ギタは熊のような巨体を揺らし、翔に向かって真っ直ぐに直立不動になると、深く頭を下げた。
「……すまなかった、ボス。さっきはあんたの顔に向けて、本気で弓を撃ってしまって」
賞金首として恐れられた大男が、完全に翔を「自らの首領」と認めて謝罪する。
だが、翔は頬の血を拭いながら、フッと鼻で笑って煙草の煙を吐き出した。
「構わねえよ。というか――あそこで弓を引く度胸がねえような奴だったら、ウチの幹部としては『不合格』だったさ」
「おいおい……!」
カブは驚愕のあまり目を丸くし、それから今日一番の大きな声を上げて笑った。
「あんた、一歩間違えたら死ぬかもしれない状況だったんだぜ!? なのに合格も不合格もあるかよ、スゲーなボスの肝っ玉は!!」
チートなど一切ない。だが、放たれた神速の矢すら「面接のテスト」と言い切る圧倒的な器のデカさ。そのヤクザの凄みに、二頭の狂犬は今や完全に魅了され、忠実な身内(舎弟)へと調教されていた。
「よし、話は決まりだ。シイナに報告を入れる」
翔は懐のナガドスを軽く叩き、東の山の頂から、眼下に広がる広大な大陸を見下ろした。
「ギタ、カブ。今日からお前らがウチの『切り込み隊長』だ。ギルドの地下から接収した最高の上物(武器・防具)をくれてやる。手始めに、ギルドボスが武器を横流ししようとしていた周辺の山賊どもを、片っ端からウチのシマへ組み込みに行くぞ」
「「ヘイ、ボス!!!!」」
二人の無頼漢の声が、東の山を震わせる。
総勢百六十二人。最高頭脳のシイナと、最凶の武力を持つ血塗れ兄弟を手に入れた極道・稲川翔の進軍は、ここからさらに加速し、大陸全土を巻き込む血の嵐となって吹き荒れることになる。
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