9話 「晴太の苦悩」
うわー…。これ絶対に聞いちゃダメなやつだった…。夏祭りに、二人でって。
こんなのもう告白してるようなものじゃないか。こっちまで顔が熱くなってくるよ…。いやいやそんなことより、綾寧はなんて答えるんだ?
「あー…、ごめんね。あたし、友達と行く約束しちゃってるんだー」
立花くんの恋心は、バッサリと切り捨てられてしまった。思わず、僕は手で顔を覆ってしまう。しかし、彼はそれでも食い下がる。
「それなら…今度の週末、映画とかどうですか?前から磐田さんのことが気になってて…、正直に言うと、好きなんです。」
言っちゃったー!
告白シーンなんてアニメとか漫画でしか見たことがなかった。いや、それが当たり前なんだけど。
にしても、出ていくタイミング見失ったな…。仕方ないし遠回りして行くしかないか。内容が内容だし、これ以上盗み聞きするのは気が引けるからね。
制カバンを肩に掛けなおして、その場を後にしようとした瞬間、綾寧の声が聞こえてきた。
「ごめん、あたし…好きな人いるんだ。だから、2人でどこかには行けない。」
はいー??
あまりの急展開に、頭がこんがらがってしまう。綾寧にも好きな人がいるだって…?ちょっとみんな、恋しすぎでしょ!ラブコメじゃないんだから。
…
ひとまず、隠れていたのがバレないように2階を経由して、迂回する形で靴箱の方へ向かった。
「お、来た来た!早くいくぞー」
そこには綾寧以外の全員が集まっていた。
「晴太くん…?顔色が悪い気がするけど、どうかしたの?」
思わず顔に出てしまっていたみたいだ。ちょっと情報を整理する時間が欲しいくらい。
「いや、なんでもないよ。気にしないで。」
「そう…ならいいのだけれど。無理しないでね?」
余計な心配をかけてしまった。鏡花は周りをよく見ているから、こういう小さな違和感にもすぐ気付くんだよな。
「ん。みんなー、綾寧ちょっと遅れるってよ。どこ行ったんだ、あいつ?」
恭介はスマホを見ながら僕たちにそう伝える。まだ、話を続けているのかな…。何があったか話すわけにはいかないし、さっきのことはそっと胸の中に仕舞っておくことにした。
…
「部屋番号は5番になります。ごゆっくりどうぞー。」
カラオケボックスに到着して、店員さんに手続きをして貰う。結局、綾寧は後から合流することになった。
(5番の部屋にいるよ…っと)
綾寧にメッセージを送信してから部屋にって、荷物を下ろす。
「くーっ!テスト終わりのこの時間、たまんねえぜー!」
ようやく肩の荷が下りた恭介は、恍惚の表情でソファに寝転がる。いやあなた、まだ重大なイベントが控えてるでしょうが。
あ…そういえば、さっきの話…。
恭介だけには、伝えるべきか?綾寧の好きな人…。それが恭介である可能性は十分にあると思う。
普段から二人を見てても、息ぴったりだし。でも、もしそうじゃなかったら…恭介は振られてしまうことになる。
あの日、背中を押した手前…知っていて伝えないのは、誠実じゃないんじゃないか。
とは言っても、盗み聞きしたことを他の誰かに話すのは…、それだって不誠実だ。
「ちょっとジュース汲みに行ってくる。代わりに汲んでこようか?」
とりあえず、少しでも一人になって考えてみよう。
「悪いな、晴太。オレはオレンジジュースで頼む。」
「俺はコーラ!変なもん混ぜんじゃねーぞ!」
ははっ、昔はよくドリンクバーで手あたり次第、色んな飲み物を混ぜてイタズラしたっけ。さすがにもうしないけどね。
「私も行くわ。一人だと大変でしょ?」
部屋から出ようとしたところで、鏡花が後ろからついてくる。来るなとは言えないし、帰ってからじっくり考えるか…。
ガチャっと扉が閉まった途端、制服を後ろから指でつままれる。
「晴太くん、やっぱり何か隠してるでしょ。バレバレよ…。」
さーっと血の気が引き、胸がドキッとした。やっぱり鏡花に隠し事はできないな…。
「…バレちゃったなら、仕方ないな。でも、けっこう複雑な悩みなんだよね…」
「別にね、無理して話してほしいわけじゃないの。ただ、思い詰めてるみたいだったから、心配になって。」
良心がズキズキと痛む。でも、こればっかりはどうしても話せないんだ。
「ごめん、鏡花…。今回だけは、見て見ぬふりをしておいてくれないか。たぶん、そのうち解決することだから。」
「そう…。なにかあったら、いつでも頼ってね。」
きっと、時間が解決してくれるだろう。やっぱりあのことは誰にも話さないことに決めた。
そもそも、ほんとに偶然聞いてしまったことだし…。
もし僕が話した結果によって恭介の行動が変わったら、それは責任重大だ。
コポコポ…とドリンクバーで飲み物を汲んでいると、店の入り口の方から綾寧が息を切らして入ってきた。
「ごめーん、だいぶ遅れちゃった!」
「私たちもさっき着いたところよ。何か飲む?喉、乾いてるでしょう?」
あの後、どんな話をしたのかな?あのまま隠れていれば、誰のことが好きかまで聞くことができたのかな。
…これ以上考えるのも野暮か。
『たった今~♪気がつ~いた~♪』
追加メンバーを連れて部屋に戻ると、翔と恭介はノリノリでデュエット歌唱に興じていた。
よし、僕も負けていられない。こう見えて、実は歌うの好きなんだ。
代わる代わる、好きな曲を歌い続けて…楽しいひと時は、あっという間に過ぎていった。




