8話 「期末テスト」
(ついに来てしまったか。この日が…)
僕は神妙な面持ちで自分の席に座っていた。今日は期末テスト最終日。
カンニングを防ぐために出席番号順の座席に変更されているので、どこかそわそわして落ち着かない。
今日受ける科目は、数学Ⅰ、数学A、歴史総合。
よりによってカロリーの高い数学たちが同じ日に固まってしまった。これだけで平均点が少し下がってしまいそうな気がするけど…。どんな基準で決めているんだろう。
いや、もうここまで来たらやり切るしかない。翔にもあれだけお世話になったし、結果を出さないと。
それに、テストさえ乗り切れば夏休みが待っている。
毎日アラームにたたき起こされる日々からの解放…。そしてそれが1カ月以上も続く。
みんなとも色んなところに遊びに行けるだろうし、そのためにもやるっきゃない。
「はーい、問題用紙配るからなー。チャイムなるまで裏返すなよー」
前の方からテストの問題が回ってくる。その拍子に、チラッと表面が見えてしまったのだが、そこにはみっちりと問題文が羅列されていた。
もう一度、昨日まで積み上げてきた知識を振り返ってみる。
配られてからチャイムが鳴るまでのこの時間は、とても長く感じるものだ。周りを見渡してみると、シャーペンの芯を入れている人、精神統一をしている人、天井を見上げて考えている人。まさに十人十色だ。
前の方に座っている翔に目をやると、腕を組んで微動だにしていない。それに背中からすさまじいオーラを感じる…今回も満点だろうな。
制限時間は50分。いざ、尋常に勝負…!
…
「そこまで!ペン置けよー、不正行為になるぞー」
静まり返っていた教室が、一気に生徒たちの声で満たされていく。テストの手ごたえに悲鳴を上げている人もいれば、その逆で歓喜している人もいる。
やがて解答用紙の集計が終わり、席を立つことが許された。僕は真っ先に翔のもとへ向かう。
「翔、どうだった?僕はおかげさまで良い感じだったよ。」
こちらに気が付いて彼は振り向く。しかし僕の思っていた表情ではなく、とても悔しそうな顔をしていた。
「クソッ…なんだ、あの問題は…。手も足も出なかった…!」
あー…あの問題か。おそらく歴史総合の最後の問題のことだろう。あれはあからさまな満点阻止問題だった。
「聖徳太子の好物だったものと、それに関する説明を述べよ。」なんて、知っているわけがない。
サッと問題を読んだ瞬間、僕は諦めて他の問題の見直しに移ったくらいだ。余程の歴史マニアじゃないと解けないだろう。授業でもそんな話はしてなかったはずだし。
「俺もまだまだということだな…。次は必ずリベンジだッ!」
こと勉強においては、向上心の塊みたいなやつだ。僕も見習わなくちゃ…とは思うけど、ようやくテストを乗り越えたんだ。しばらくは休戦とさせてもらおう。
続いて綾寧たちもこちらへやって来た。
「翔ー!マジでありがと!あんなに答え埋めれたの、初めてだよっ!」
「俺も過去一解けたわ…!翔さん、一生ついていきます!」
恭介は翔と肩を組んで、満面の笑みを浮かべている。テスト返しを待たずして、この喜びよう…、かなり良い感触だったのかな。
いずれにせよ、二人とも赤点は取ってなさそうで一安心。
「オレはあくまで解き方を教えたに過ぎない。実際にテストで問題を解いたのはお前たち自身だ。よく、頑張ったな!」
右手でサムズアップしながら、僕たちにねぎらいの言葉をかける。そんな翔の顔は、どこか儚げな笑顔をしていたような…、そんな気がした。
「ねえ、せっかくだし…何処かに寄って帰らない?」
珍しく鏡花から誘ってきた。こういうことは今まであんまりなかったから、ちょっと意外。
「良いねー、久々にカラオケ行こ!打ち上げじゃーっ!!」
前から行きつけの、駅前にあるカラオケに行くことになった。
なんと、学生ならフリータイムで500円。さらにドリンクバーまで付いてきて、まさに至れり尽くせりだ。あれで採算が取れているのか分からないけど、ありがたく通わせてもらってる。
放課後の予定が決まったところで、担任の先生が教室に入ってきた。
「はい、席に着け―。テストお疲れさん。掃除だけちゃんとして帰れよー」
言われてみれば、テスト期間の間、教室の掃除は省略されていたから、少し埃っぽくなってきていた。
班ごとに場所の割り当てがされていて、僕の班は階段の掃除をすることになっている。
終礼が終わると、各々が自分の机を後ろに下げて、一斉に掃除が始まった。
「みんなー、靴箱に集合だからねー!」
大きなごみ箱をサンタクロースみたいに背負いながら、綾寧が呼びかけてきた。
僕も掃除用具入れからほうきを取り出して、持ち場の階段へ向かう。
同じ班のメンバーと、テストどうだった?とか夏休みなにする?とか話しながら、適当にゴミを集めていく。階段だから色んな人が通っていくけれど、みんな夏休みの話題で持ちきりだった。
夏祭りもあるし、海に行くのもいいだろう。お盆には帰省する人もいるし、中には海外旅行に行く人だっている。
人生いろいろ…夏休みもいろいろ。
「うん、こんなもんでいいでしょ。終わろ終わろー」
班の女子が、ササッとちりとりでゴミを集めて、掃除を切り上げる。
10分くらいでずいぶんと綺麗になった。教室にいる先生に報告して、ようやく解放。
(みんなもう来てるかな…待たせてたら申し訳ないな)
そんなことを考えながら、足早に廊下を歩いていく。
すると情報教室の前で、見覚えのある人が目に入ってくる。呼び止めようとしたけど…なんとなく邪魔しちゃいけない気がした。
(あれは綾寧と…同じクラスの立花くんだ。なんの話をしてるんだろ。)
盗み聞きは良くないと思いつつも、好奇心には勝てなくて、曲がり角の直前で息をひそめて会話の内容に耳を傾ける。
「あの、磐田さん…。もしよかったら、俺と一緒に、夏祭りに行きませんか?」




