4話 「日曜日」
「おはよう…」
今日は日曜日。いよいよ幼馴染グループで出かける日だ。
万が一、寝坊してしまった時の保険で、学校がある日とほぼ同じ時間にアラームをセットしておいた。
まだ7時半…こんなに余裕のある朝は久しぶりな気がする。
とぼとぼ階段を降りてリビングに入ると、母さんと美愛は二人して時計に注目する。
「もしかして…あの時計、壊れてる!?」
「壊れてないよ…。今日は出かけるから、早めに起きただけ。いつものみんなと兼城ランドに行ってくる。」
兼城ランドっていうのは、あの遊園地の正式名称。
中身はさながら夢の国なのに、改めて名前だけ聞くとただの健康ランドみたいだ…。
「え、お兄ちゃんあそこ行くの!?良いなぁ~、私も行きたいー」
ソファの上で足をバタバタさせながらぼやく美愛。
休みだけど部活があるらしく、体操服を着ている。
「もちろんお土産…買ってきてくれるよね?」
「まあ…覚えてたらね。」
とは言いつつも、手ぶらで帰ると後で面倒なことになるからな…、忘れないようにしとこう。
朝食を摂り、準備を済ませて、我が家を後にした。
こころなしか、外の空気感がいつもより暖かい気がする。
なんとなくすれ違う人たちの表情が明るかったり、視界が暖色がかっている気がしたり…うまく言葉にできないけど、休みの日って独特の空気感があるような。
ぼーっとそんなことを考えながら駅へ向かう道路を歩いていく。
途中でコンビニに寄って、みんなの分の飲み物を調達した。電車で1時間くらいかかるみたいだし。
信号を渡って駅の改札口が見えてくると、そこには翔と鏡花がすでに待っていた。
「待っていたぞ晴太!準備は万端か?」
いつになくウキウキな様子の翔。
しかし目の下にクマができてるような…、よほど楽しみで寝れなかったんだろう。
前からよくあることだ。
少し話題が逸れるけど、翔のことについて話そう。
以前も説明した通り、翔はずば抜けて頭がいい。
それもそう、両親が教育熱心で、小学生の頃にはもう塾に通っていたし、家庭教師も雇っていたみたいだ。
たぶん将来は医者になって欲しいんだろう。
でも、僕らが今通っている高校は、それほどレベルが高いわけではない。
普通にしていれば、誰でも入学できると思う。
ましてや医学部に進学する生徒なんて、数十年に1人いるかどうかじゃないかな。
もし本気で医者を目指すなら、都会にある名門校に進学した方がいいに決まってる。
それでも翔は、高校での3年間は僕たちと一緒に過ごすことを選んだ。
まあ、その節は色々あったんだけど…、その話はまた今度にしよう。
「万端すぎるくらいだよ。はい、二人とも」
さっき買った飲み物を手渡す。
翔にはオレンジジュース、鏡花にはカフェラテ。
これだけ長い付き合いだと、嗜好まで全部分かってくるものだ。
「あら…ありがとう、晴太くん。いくらしたの?」
そう言って鏡花はカバンから財布を取り出す。そんなの気にしなくていいのに。
「いいっていいって。ほら、この前ノート写させてもらったし、そのお礼ってことで」
「あれくらい、大したことじゃないと思うけど…でも、ありがたく頂戴するわ。」
そんなやり取りをしていると、恭介と綾寧もやって来た。
「おーっ、もうみんないるじゃん!さっき恭介とばったり遭遇したんだよねー」
「おっす!無事に集まれたことだし、早速行きますかぁ!」
改札を通って電車に乗り込むと、僕たち以外にも学生グループや家族連れで賑わいを見せている。
みんな、どこかしらに出かけるんだろう。
いつものように話していると、1時間なんてあっという間だ。
自分でも、よく話題が尽きないと思う。
盛り上げ役の恭介と綾寧、ボケる翔、それにツッコむ僕と鏡花。なんてバランスの取れた構成だろう。
「うわ~、すごい人!やっぱ人気なんだ!」
目的地が近づくにつれ車内の密度は高くなっていき、遊園地の最寄り駅で一気に人が放出される。
駅には壁や床にさえキャラクターの装飾があしらわれていて、思ったより気合いが入っている。
「みんな、チケットはちゃんと持った?」
「ああ、ばっちりだ!」
ぞろぞろと前の列に続いて、僕たちも入場ゲートに進む。
スタッフの人にチケットを提示して、リストバンドと交換してもらった。
ひとまず全員で園内マップを確認して、計画を立てることにする。
「まずこれとこれ行って…あ、これも良いな~…、それとジェットコースターは外せないよね!」
目を輝かせながら、あれこれと綾寧がアトラクションを選んでいく。
絶叫系は勘弁してほしいところだけど…。
「これとかも面白そうじゃん?全部行こうぜー!」
それからというもの、時計を見ることさえ忘れて、様々なアトラクションを手当たり次第に楽しんでいった。
「次はお待ちかねのぉ~…、これだぁー!」
ニヤニヤしながら綾寧が指さす先には、この遊園地の目玉と言っていいだろう。
ほぼ垂直に落ちていくんじゃないかというくらいのジェットコースターがそこにあった。
いつか来ると思ってはいたけど…。
いざ実物を目の前にすると、ますます乗れる気がしない。
「いやぁー…僕はありがたく遠慮させて…」
言い終わる前に、ぐいっと腕を前に引っ張られる。
「はいはい、男らしくないよー!」
結局、なし崩し的に乗せられる羽目になってしまった。
心の準備をする間もなく、コースターは動き始める。
恐ろしく高い坂の頂上まで登るまでの時間は、まるで永遠のようで。
その後、僕たちは凄まじいスピードで軌道の上を滑り落ちていく…。




