18話 「幻のドーナツ」
まさか電話しながらこっちに来ていたとは…、メリーさんじゃないんだから。
まあ、綾寧の家は歩いて5分くらいの距離だけどさ。
今度は逆にこっちが行って驚かせてみようかな。
「ね、見て見て!めっちゃ美味しそうじゃない!?」
ぐいっとこちらに身を寄せて、例のドーナツの写真を見せてくる。
丸くて穴の開いた土台に、ありったけの桃とホイップクリームが乗せられていて、それはドーナツというより、ほぼパフェみたいな感じだった。
「僕、さっき昼ご飯食べたとこなんだよね…。」
死ぬほど満腹…という程ではないけれど、かなりボリュームがありそうだからちょっと不安だ。
「ご心配なさらず!食べきれなかったらあたしが貰うから!」
綾寧は昔からめちゃくちゃ食いしん坊。
小学校の時も給食をおかわりしまくっていたし、今だって休み時間に菓子パンとかをよく食べている。
「綾寧、ちょっとスマホ貸してみてよ。」
僕はさっきの商品ページを下の方へスワイプしていき、例のドーナツの成分表示のところを指さす。
「ほら、580キロカロリーだって。こりゃカロリー爆弾だ(笑)」
「もー!食べる前にそんなの見せなくていいからっ!別にあたし、太らない体質だしー?」
実際、彼女は食べる量の割にとてもスラッとしている。
代謝が良いとか、そういう感じなのかな?
そうこうしてる間に目的のお店が見えてきたが…
平日の昼間なのに、すでに開店を待つ人が集まってきていた。
「お、もうこんなに。すごいなあ…」
開店の時間まで、あと20分くらい。
このお店の前はよく通るけど、こんなに人が来てるのは初めて見た。
恐るべし、限定パワー…。
すると、「最後尾」と書かれたプラカードを持った店員さんが出てきた。
「こちらが最後尾になりまーす!本日、15個限定のピオーネドーナツもご用意しております!おひとり様、どちらか一つまででーす」
ピ、ピオーネ?
初めて聞く単語だ。
一体何なのか調べてみようとしたら、綾寧がTシャツの袖を引っ張ってきた。
「マジ!?ねえ、前に何人いる……8人?ってことは…よっしゃああ!」
デフォルトで賑やかな綾寧が、さらにハイテンションになってはしゃいでいる。
まるで、おもちゃを買ってもらえた子供みたいだ。
でも…こういうところは、変わらないでいて欲しい。
やがて入り口が開かれ、前の人から順に入店していく。
僕たちは限定の白桃とピオーネを一つずつ注文した。
それからすぐにトレーに乗せられたドーナツが運ばれて来たけれど…
なんか、写真よりだいぶ盛られてないか?いわゆる、¨逆¨写真詐欺だ。
窓際のカウンター席に座って、早速頂こうとすると…
「ちょっと待ったー!写真、撮らせてよ!」
良い感じの角度を見つけると、ササッと店名の入った紙を画角に収めて、パシャリと一枚。
SNSにでも投稿するんだろうか。
「晴太!ドーナツ持って、こっち寄って!」
綾寧から突然指示を出される。
言われるがままにポーズを取ると…自撮りみたいな感じでツーショットを撮られた。
「ははっ!なんか二人って新鮮だねっ!写真、後で送っとくね~」
ニコニコしながらご機嫌な様子。
確かに、みんなで撮った写真はアルバムにいっぱい保存されているけど、二人の写真は初めて撮ったかも。
「待ち受けにしちゃおっかな、これ」
「……。まあ…良いけど…?」
あれ、思ってた反応と違う。
てっきり芸人みたいにツッコミをしてくるとばかり…
なんか最近、綾寧のリアクションが今までと違う気がするんだよなあ。
「冗談だって、みんなに勘違いされちゃうよ。」
「そ、そうだよね。……さ、食べよっか!」
気を取り直してスプーンを取る。
ピオーネとは、どうやらブドウのことだったらしい。
かなり大粒のそれが、ショートケーキのいちごみたいにして、てっぺんに乗せられている。
クリームの中にもたっぷりと果肉が混ざっていて、しっかりと素材の味が感じられる。
これは人気なわけだ。
「う~~ん!美味しいー!かなり上位に来るよ、これ!」
ゼリーでコーティングされた桃を頬張って、恍惚の表情をしている綾寧。
そのままパクパクと食べ進めていく…
が、さっきから僕のドーナツをチラチラ見ているような気がする。
「一口、食べる?」
「え、いいの!?それじゃ失礼…」
トレーを差し出して、分けてあげる。
別に良かったのに、気を遣ってか上に乗せられているブドウは避けて、クリームの部分だけすくっていった。
「ん、美味しい!……晴太も、はい」
今度は逆に、向こうから分けてくれた。
桃がシャーベットみたいシャリシャリしてて、すごく美味しい。
なんかこう…今まで全く意識していなかったけど、周りから見たらカップルに見えたりするのかな…?
もしそうだったら、恥ずかしいような、むずがゆいような…。
なんか不思議な気持ちだ。




