17話 「てへっ☆」
言葉にすると、ちょっとだけ恥ずかしい。
「友達」って、何をもってそういう関係になるんだろう。
連絡先を交換したとき?それともどこかへ遊びに行ったとき?お互いのことを、友達だと思ったとき?
分からないけど、「友達になりたい」っていう気持ちを相手に伝えないと何も始まらないのは確かだ。
「なんで夢のセカイに呼ばれたのかは分からないけど、僕は君と仲良くなりたい。必要なら、いつ呼んでくれてもいいから」
こうして出会えたのも何かの縁だ。
彼女はどうして僕を呼び出しているのか、分からない。
しかしそれがどんな理由であれ、こんな僕を必要としてくれているならそれに応えたいから。
少し俯きながら、彼女は返事をしてくれた。
「今はまだ、なんで晴太を呼んだのか…言えない。ごめんね。」
「謝らなくていいよ。なんかさ、僕じゃないとダメって言ってくれたのが…すごく嬉しくて。理由なんて、大したことじゃない。」
ちょっとはカッコつけれたかな。
でも、本当にそう思ってるんだ。
ここが夢の中だからとか、彼女が不思議な存在だからとかはこの際どうだって良い。
彼女は僕を必要としていて、僕はそれに応えてあげたい。それだけで十分だ。
「ふふ…変わってなくて良かった。これから、よろしくね。」
やっと、笑顔を見れた。
この短時間で、心配そうなところとか、怒ったところとか、ちょっと恥ずかしそうなところとか…色んな表情を見てきた。
見かけによらず、感情表現が豊かな子だって分かった。
その上で…比べるまでもなく、笑顔が一番似合ってる。
僕はこの子の笑顔を守ってあげたい、って気持ちでいっぱいになった。
キリよく…とでも言うべきか、視界がぼやけてきたような気がする。
ああ、もう帰らないといけないのか。
もう夢のセカイに来るのは3回目だから、なんとなく体がその感覚を覚えてきている。名残惜しいけど、暫しお別れだ。
「そろそろ戻らないといけないっぽい…。今日は話せてよかった。こちらこそよろしく!」
良かった、ちゃんと言い切れた…。
文字通り瞬く間に、目の前は真っ白になり、その光は…
……カーテンの隙間から差し込む、太陽の光に変わった。
「…良かった。ちゃんと覚えてる。」
まずはさっきまでの記憶がしっかりと刻まれていることに安堵する。
僕は体を起こして机に座り、ペンを握った。
夢に関する記憶を、ノートに残しておきたいと思ったからだ。
一般的に夢日記と呼ばれるこの行為は良くないとされているけれど、仮にそうだったとしても、あの記憶を僕の脳内にだけ置いておくのは不安だ。
ある日突然忘れてしまったりするかもしれないし。
自分でも今ある情報を整理してみよう。
まず、僕を夢のセカイへ呼び出しているのはあの子で。
理由は分からないけど、僕を必要としていて。
家は神社で…笑った顔が可愛くて。友達になろうって約束した。
そんな彼女の名前は…
あれ?書こうとしたのに、その手が止まった。
忘れてしまったわけじゃない…、あの子の名前は「サキ」だって分かってるのに、漢字が書けない。
仕方ないな、次会った時にでも聞いてみよう。とりあえずカタカナで書いておくことにした。
あとは…そうそう、あの奇妙な地図のこと。
地名と大まかな場所は同じだけど、全てが小さな島の集まりで構成された日本。
あの地図を見て、夢の中がこの世界とは全く別の場所だと認識した。
(っと、こんなもんか)
一通り、夢に関する記憶をノートに書き記しておいた。
次はいつ、向こうへ行けるのかな。
正直言って、「楽しみ」っていう感情が大きくなりつつある。
この世界の中で、僕しかあのセカイのことを知らないとしたら…僕が主人公ってことだし?
「晴太ー?起きてるの?ご飯できてるわよー」
階段のほうから母さんの声が聞こえてきた。
部屋に掛けてある時計を一瞥すると、12時30分。つまり、3時間くらいも寝てたってことか。
夢の中で一回気を失ってるとはいえ…、思っていたよりも時間が経っていた。
そして、いつもの昼寝よりも眠気が取れ切っていないように感じる。
夢のセカイで活動している間は、脳が休まっていないとか…?まだ要検証な部分が多いな。
「ふぁ~…」とあくびをしながら部屋を出て、リビングへ向かった…。
今日の昼ご飯はさっぱりと、そうめん。
意外と太る食べ物って聞くけど、本当にそうなのかな?
むしろ僕は平均より軽いから、もうちょっと食べたほうが良いのかも。
あとは運動もした方が良いのかな…、でもこの暑さじゃろくにできたもんじゃないか。
夢の中で倒れたばっかりだし、今日はやめとこう。
腹ごしらえも済んだところで、ソファに座ってくつろいでいた。
今日は8月20日。カレンダーを見ると、もう夏休みは終盤に差し掛かっていることがよく分かる。
みんなで海に行ったし、また翔の家に行って課題を進めたりもした。
花火大会のやり直しみたいな感じで、河川敷に集まって手持ち花火を楽しんだり。
思い返すと、今年も良い夏休みだった。
その余韻に浸りながら、クッションを枕のようにして寝転がる。
エアコンからの冷気がよく当たるようになって心地いい。
ああ、このまま寝ちゃいそうだ…
『~~♪♪』
ほぼ瞼が閉じかけていたところで、スマホの着信音が鳴り響く。
完全に不意打ちだったから、体がびくっと跳ねてしまった。
体を起こして画面を見ると、電話の主は綾寧だった。
「やっほー!今ヒマ?ちょっと付き合って欲しいんだ!」
元気いっぱいな声を聞いて、一気に眼が冴えていく。
もしかして、アラームを綾寧の声にしたら遅刻せず学校に行けるんじゃないか?
…いや、家族に聞かれたら勘違いされそうだしやめておこう。
「もうちょっとで寝るところだったよ。ギリギリセーフだったね」
「もし寝てたら家まで行ってたからカンケーない!てゆーか今お昼じゃん!」
ちなみに本当に家まで来ることがある。
インドア派な僕だけど、そのくらい強引に連れ出そうとしてくるのは案外悪い気がしない。
家を出るまでは腰が重いけど、一度行ってしまえば楽しいものだから。
「で、今日はどんなご用件で?」
「そ・れ・がー!駅前のドーナツ屋さんで、限定30個の白桃ドーナツが出るらしいんだ、今日!」
なるほど、そういう魂胆か。
いつも「散歩行こ!」だの「コンビニ行こ!」だの適当な理由を付けてくるけど、今日は比較的まともな目的があるようだ。
「他のみんなは?」
「え?あー、なんか忙しいみたい!」
夏休みとはいえ、みんな色々予定があるんだろうか。
翔も夏期講習がどうのこうのってこの前言ってたしな。
「そっか。どこに集合する?」
そう聞いた途端、『ピンポーン』と家のインターホンが鳴り響いた。まさか、と思って玄関のドアを開けてみると…。
「てへっ☆来ちゃった!」




