11話 「散りゆく花火と恋心」
「お、もうこんな時間か。早く移動しないと、良い場所なくなっちゃうよ」
人の流れが川の方へ変わりつつある。花火が打ちあがるまで、あと30分といったところ。
僕たちは毎年同じ場所で見るのが恒例になっているんだけど…。
そのスポットは比較的穴場とはいえ、場所取りはしておかないと、満足に鑑賞できない。
それくらい、人でごった返している。
そこに向かって歩いてる途中で、ついに恭介が動き始める。
「すまん、みんな。綾寧…二人で、話したいことがある。俺について来てくれないか?」
いよいよ来てしまった、この時が。
「い、今!?もう花火始まっちゃうよ?」
困惑した様子の綾寧。
「そうだ。どうしても今…お前に伝えたいことがある。」
「……そっか、分かった。ごめん、ちょっと行ってくるね」
この後、どんな話をされるのか。…それを悟った様子で、恭介に連れられて行った。
結局、残されたメンバーで花火を見ることになった。賑やかしの2人がいないこともあって、いつもよりもの寂しい。
「あいつら、どこに行ったんだ?腹でも壊したのか」
翔はたぶん、何一つ理解していない。事前に聞かされてなくても、あのセリフを聞いたら告白だって分かるだろ。
「晴太くん…もしかして知ってたの?」
鏡花は小声で僕に問いかける。
「実はこの前、恭介に相談されて…。」
分かった、とでも言うかのようにゆっくりと彼女は頷く。
「あの時悩んでたのって、そういうことだったのね…。無理もないわ。」
…
『ヒュ~~……ドカーン!』
1発目の花火が打ちあがる。でも、今はそれどころじゃない。親友が告白していると考えると、どうしてもそわそわしてしまう…。
せっかくのメインイベントだけど、味わえるようなメンタルじゃなかった。
そして、時間だけは徒に過ぎていく…。
…
花火大会が終了すると、周りの人たちは拍手で祭りの成功をお祝いした。
火薬の匂いをまだ微かに感じる川のほとりに、パチパチと手をたたく音が響き渡る。
「今年もすごかったな…花火の文化がある国に生まれて良かった!」
どうやら翔は存分に楽しめたようで、満足げな表情をしている。
見物に集まっていた人たちは、徐々に帰路に着き始める。それもそのはず、明日はただの平日だ。
学校も仕事も普通にあるだろうし、それは僕たちも例外ではない。
「どうする?とりあえず、ここで待っとくか…」
二人はまだ帰って来ない。電話をかけたいところだけど…まだ話してるかもしれないしなぁ…。
「思ったより長いわね…。みんな揃って花火を見れたら良かったのだけれど。」
5人で花火を見れなかったのは何年ぶりだろう。毎年決まってこの場所で…みんな揃ってみるのが当たり前だった。
あと何回、みんなとここで集まれるのかな。
「当たり前」と思っているようなことほど、気付いた時には失ってしまっているものだ。
昔は、田舎にある母さんの実家に毎年、お盆の時期になると帰省していた。その度に、おばあちゃんが良くしてくれたのをよく覚えている。駄菓子屋に連れて行ってくれたり、いつも美味しいご飯を用意してくれたり。
あの日だって…。会えるのはこれで最後だなんて、思いもしなかった。
些細なことで、おばあちゃんに酷いことを言ってしまった。
まだ小さな頃だったから、なんて言ったら言い訳になっちゃうけど…。
もう謝ることも、再会することさえ叶わない。
それ以来、僕は「今」を大切にするようになった。根底には、そういう理由がある。
センチメンタルな気持ちになっていると、人の流れに逆らって、綾寧が1人で帰ってきた。
しかし…ただならぬ様子だ。明らかに目には涙を浮かべていて、なにも喋らない。そのまま、鏡花に抱きついてすすり泣く。
この状況から察するに、何があったのかは一目瞭然だ。かける言葉が見つからなくて、僕はただその様子を見ているしかなかった。
「綾寧!?大丈夫か…?それに、恭介はどこに行ったんだ。」
この期に及んでこいつは、イマイチ状況が呑み込めていない。
「翔…。今はそっとしておいてあげよう。」
どうしたものか…。まさかこんなことになるなんて、予想だにしなかった。むしろポジティブな方向で考えていたから、余計に。
ふとスマホの画面を見ると、通知が一件。
「ダメだったわ」




