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7.異世界生活65日目

 照朝の月 星の日 天気:晴れ


 どうも、葉加藤(はかとう)久太(きゅうた)です。


 ある日、ユランが俺に聞いてきた。


「キュウタさんはモンスター討伐の仕事はしないんですか?」


 ユランが来てから約3週間。


 その間、騒音問題などもあったが今はゆっくりとした生活を送っていた。


 この街に来てからユランは一人でモンスター討伐のクエストを行っているそうだ。


 俺が素材採集のクエストをしていたのは教えていたが、急に聞かれて俺は珍しいとユランに聞き返す。


「しないね。最近はちょっと気になってるけど……なんで?」


「一緒に一狩り行きませんか?」


 ユランから同じクエストをやろうと誘われたのだった。




 ーーー




 始まりの街チャレンジタウン。


 転生者が最初に送り出される街として発展してきた場所であり、街にあるギルドも冒険初心者の受け入れ業務が盛んなこともあってか他の街と比べて規模が大きいらしい。


 建物も三階建てと平屋の多い街の中では目立っており、チャレンジタウンを象徴する施設の一つであった。


 そこに俺とユランは揃って入っていった。


「ていうかキュウタさんスキルポイントの割り振りもしてないんですね。レベル今いくつ何ですか?」


 歩きながらユランが聞く。


「俺のレベルは……今14だ。素材採集だけでもこれだけ上がるもんなんだな」


 俺は冒険者カードと呼ばれる冒険者には全員配られるものを見て確認した。


 自分のレベルなど能力値の確認はもちろん、スキルポイントの割り振りも全てこれで行えるらしい。


「俺、レベル上げとか特に興味なかったし、モンスターと戦うのも……怖いし。だからひたすら素材採集だけ繰り返して貯金する。ただそれだけ」


 俺は自分の冒険者カードを操作して自分の能力値を見ながら話した。


「なーに言ってんですか!? 駄目ですよ。ちゃんと自分のことを把握して今後の生き方を考えていかないと。素材採集だけやって冒険者人生を終えるなんてもったいないですから」


 ユランが人差し指を立てて説教染みて言う。


「この街で暮らしていく分には素材採集だけで十分なんだよな……」


 改めて思う。


 この街は桃源郷と言っても過言ではなかった。


 まず生きていくためのハードルがめちゃくちゃ低い。


 食事は街が主導で行っている配給があり、その供給元は女神様の魔法道具(マジックアイテム)である女神の源泉と女神の食事かごがあるため、半永久的に食事がノーリスクで供給されるシステムがある。


 農業、酪農業などの一次産業に携わる労働者涙目のチートアイテムである。


 次に女神の加護である。


 俺をここに送り出してくれた女神マリアンの加護が街とその周辺を覆うように施され、魔王軍を筆頭にモンスターは蟻の子一匹入る隙もないそうだ。


 だからこそ素材採集の場に行っても、モンスターと一匹も合うことなく、ノーリスクでクエストを行えていた。(その分成功報酬は低いが)


 最後に娯楽施設の充実ぶりである。


 カジノ等を始めとしたギャンブルはもちろん、現世の漫画やライトノベルも含めたあらゆる書物を取り扱う図書館や市民が自由に利用できる温浴施設などが街の中にあり、飲食店も高い金を払うのであれば和洋中と種類を問わずに味わえるため、天国と言っても差し支えがないほど、この街は快楽の沼として機能していた。


 そのため、わざわざ危険を冒してまでクエストを受注しようとは思えないのである。


「クエストも楽しいですよ! 冒険はまだ見ぬモンスターや財宝を手に入れる唯一の機会なんですから」


 目を光らせて冒険者としての魅力をアピールするユラン。


 彼女のレベルだったり冒険歴などを聞いたことはないが、人類軍として魔王軍と戦っていたのなら、それなりの場数は踏んでいるのだと思う。


 しかし、それを聞いても素材採集以外のクエストをやろうとは思えなかった。


 興味があるのは事実だったが、モンスターを倒すならゲームセンターで()()()()()()()()()()()()()()()を倒せばいい。


 財宝が欲しいなら()()()()()()でも買って()()()()()()()()()()()()()と思ってしまう。


 現世の存在する大抵のものはこの街に揃っているのである。


 俺が素材採集のクエストをやるのはお金を稼ぐ目的と健康のための運動目的でやっている部分が大きく、ユランがいくら言っても積極的に他のクエストをやろうとは思えなかった。


 今日はユランに誘われたから来たけれど、今後一人でクエストをやろうにも素材採集以外のクエストはやらないだろうな。


 そんなことを俺は考えていた。


「というか今思ったけど、ユランは魔王軍と戦ってたんだよな? まだ戦って倒そうとかって考えてるの?」


 俺はユランに聞いた。


「当たり前じゃないですか!? 魔王軍を倒せば私は故郷で英雄としての地位と名誉を盤石に出来るんですよ!? こんな好機逃す手はないですよぉっ!!」


 ユランは拳を握って言い放つ。


 こいつは承認欲求に従って行動してるんだな。


 なんとなくだが、ここまで一緒に暮らしてユランのことがわかってきた。


 まず頭は良くない。


 俺も人のことを言えた口ではないが、後先考えずに行動することが多い。


 魔王軍から逃げるときに全財産投げ出すのもそうだし、騒音問題のときも俺に注意されて一度は守護精霊をひっこめたらしいが、そのあと俺が部屋に押し掛けるまで再びいびき声を響かせることをしてやがった。


 あと金使いが荒い。


 モンスター討伐クエストで報酬が高いものを選んで受注していたらしいが、一日に2万ガルド稼いではそのほとんどを使い切ってはまた稼ぐということを繰り返しているらしい。


 俺は財布の紐が固いので貯金などコツコツ貯めるのは好きだが、ユランは違う。


 宵越しの銭は持たないタイプだった。


 この様子だと、魔王軍に投げ捨てた全財産もそこまで大金ではない気がするが……。


「魔王軍を倒したら報奨金が出るとかないの?」


 俺は魔王軍討伐の見返りが他にないか聞いてみた。


「いやー魔王を倒したら多少は報奨金も出るんじゃないですか? 人類軍として雇われていたときには日当で10万ガルドは出てましたが……名のあるモンスターを倒しても特に何もなかったですよ」


 ユランは思い出しながら教えてくれた。


「女神様が願いを叶えてくれるとかは?」


「キュウタさん、あるわけないじゃないですか! 女神マリアン様は私たちを見守ってはくれますけど、願いを叶えるなんてことなんてありませんよ」


 ユランは冗談キツイですよとケラケラ笑いながら言った。


 この異世界の基準がよくわからんが、女神マリアンは天高く見守る存在であって人々の願いを叶えるとかはないらしい。


「…………魔王軍と戦っていた人類軍の人たちって、どんなモチベーションで戦ってたんだ?」


「そんなの決まってるじゃないですか!! この世を救った英雄としてその名を歴史に刻むこと!! これ以上の誉れがありますか!?」


 興奮して言うユランに俺は愛想笑いも出来ず、能面のような顔になってしまう。


「もうチャレンジタウンだけでよくね? 人類の居場所」


「よくないですよ!! 人が自由に暮らせる世界をもっと広げてその名を轟かすのです!! 」

 

 ユランは元気よくそんなことを言っているが、やはり異世界を救うとか、強くなりたいとか、欲の少ない俺には縁のない話であった。


「今日は誘われたから来たけど、モンスター討伐はこれきりだな」


 俺の一言にユランが服の裾を掴んで引っ張ってきた。


「そんなこと言わずに、一度やれば楽しくて病みつきになりますよ!! とりあえず受注しましょう!! ほらこっち!!」


 ユランとクエスト掲示板を見に行く。


 受注書が張り出されており、それぞれクエスト内容と推奨レベルが書かれていた。


 始まりの街ということもあってレベルの低いクエストが多かった。


「まずはこれですね」


「ちょっと待て!!」


 俺はユランが手に取った受注書にストップをかける。


「俺はレベル14と言ったよな!? どうしていきなりレベル44のものを取ったんだ!!?」


 俺はユランの取った受注書を見る。


 推奨レベル44 成功報酬:20万ガルド


 クエスト内容:はぐれ龍の討伐


 グラウンドラゴンが始まりの街付近の山間に出没。


 群れとはぐれたために凶暴化しているため注意。


「死ぬだろ!? とりあえずで取る受注書じゃないだろこれ!!?」


「二人ですから、何とか行けますよ」


 ユランが平然と言い張る。


「ユランはともかく俺は即死するだろ!? ドラゴンに煽られただけで死ぬって!!?」


「大丈夫です!! キュウタさんが私と一緒にいてさえくれれば死ぬことなんてありませんて」


「なんでそんな落ち着いてんだよ!? ユランはレベルいくつなんだ!?」


「私はレベル58ですよ」


「マジか!?」


 俺はびっくりしてユランを見る。


 人類軍として戦っていたと聞いていたが、そんなに高いとは思わなかった。


「ふふふ、キュウタさんも流石に驚きますよね?」


 俺の驚いた顔にニヤリと口の端を上げるユラン。


「そうですよ!! 私は最前線で魔王軍と戦っていた人類軍最高戦力の一人!! 精霊使いのユランなのですから!! 」


 鼻を膨らませ胸を張るユラン。


 見た目だけなら美人で頼りがいのある冒険者だが、出会ってからのユランしか知らなかった俺はその姿を胡散臭いとどうしても思ってしまった。


「ならなんで今までこのクエストを一人でやらなかったんだ? 一日に2万ガルド稼いでるって言ってたけど、そんなに強いならこのクエストもとっくの昔に一人でクリアできただろ?」


「うっ!?」


 図星を突かれたのか、ユランは気まずそうに視線を逸らす。


「おい、今のうちに言っとけ。何を隠してるんだ?」


「えーっとですね……」


 ユランは恥ずかしそうに頬を染めて両手の人差し指をチョンチョンと合わせながら語り始める。


「私の精霊……強力な子たちは一人だと召喚し辛いんですよ」


「どういう意味だ?」


「力の強い精霊を召喚すると、強烈な睡魔に襲われてしまうんです」




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