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6.異世界生活60日目

 嵐の月 金の日 天気:雨


 どうも葉加藤(はかとう)久太(きゅうた)です。


 この異世界に来て約二か月経った。


 相変わらず俺は素材採集の仕事しかしなかった。


 しかし、貯金は順調に約15万ガルド貯まった。


 そして同居人の存在が最近、気になって仕方なかった。


 いや最近ではない。


 来た当初からである。


 何故ならユランのいびきは騒音問題として我が幽霊ハウスに重くのしかかっていたからだ。


「ぐぅおおおおおおおおっ!!! ぐぅおおおおおおおおっ!!!」


「……うるさすぎる」


 夜中に隣室から聞こえてくるユランのいびきに俺は辟易とした。


「もう嫌がらせ通り越して自然災害だろうこれ。ゴ〇ラかあいつは」


「ぐぅおっ!!」


「返事するなよ。いびきで」


 俺はベッドからゆっくりと立ち上がるとそのままユランの寝る寝室へと向かった。


 当初からこの爆音が聞こえていたため、昼間ユランに直接指摘したことがある。


 すると――


「可憐な乙女がいびきなんてするわけないですよぉおおおおっ!!」


 といびきはしていないと言い張ったのである。


 すると次の日の夜はいびきが収まったのであった。


 それを話すと


「ほらぁ、言った通りじゃないですか! 幻聴ですよ。幻聴」


 それはそれで俺の耳が心配になるので嫌だった。

 しかし、これで俺の安眠ライフが取り戻せるとホッとしてベッドに入り込む。


 しかし――


「ぐぅおおおおおおおおっ!!! ぐぅおおおおおおおおっ!!!」


 アイルビーカムバック。


 お帰りなさい騒音いびきである。


 今まで夜中にユランの部屋に入るのは控えていた。


 何故なら年が近い女の子である。


 俺も襲おうなどとは思わなかったが、一緒に暮らす以上、親しき中にも礼儀あり……ということで極力プライベートな空間には入らないようにしていた。


 しかし、我慢の限界であった。


 俺は迷わずユランの寝ている寝室にノックする。


 コンコンッ。


「ぐぅおっ!?」


「いびきで返事するなって」


 俺はドア越しにツッコミを入れる。しかし、返事はなく代わりにいびきが聞こえてきた。


「ぐぅおおおおおおおおっ!!! ぐぅおおおおおおおおっ!!!」


「……ユラン、入るぞ」


 一言断って扉を開ける。


 ユランの部屋はアレスの両親が使っていた部屋だった。


 そのためベッドはダブルであり、大きいベッドを使ってユランは寝ているはずだった。


「ユラン……ってなんだこりゃぁああああああああっ!!」


「ぐぅおっ!?」


 俺は目の前の光景に悲鳴を上げてしまった。


 何故ならユランが寝ている傍らで、みすぼらしいボロを着た禿げたおっさんが添い寝したまま葉巻を吸い、煙を吐いていたのだ。


 その煙を吐く際に「ぐぅおおおおおおおおっ!!!」といったいびきのような声を発していたようである。


「な、何だお前っ!!」


「ぐぅおっ! ぐぅおぐぅお!」


「なんて!?」


「ぐぅおぐぅおぐぅお? ぐぅおぐぅお!」


「わからん!!」


 どうやら相手は「ぐぅお」としか声を発せないらしい。


 というかこいつモンスターか?


 暗闇でわかり辛かったが、頭の部分に角のようなものが生えているのが見えた。


「えほっ! えほっ! くっそ、煙臭いなこの部屋……」


 おっさんの煙が充満した部屋は煙が立ち込め、息苦しかった。


 おっさんは俺を警戒して一瞬立ち上がろうとするが、俺が咳き込んで動かずにいると、敵意はないと判断したのか、再びユランの横で添い寝しながら、葉巻を吸い始めた。


「ぐぅおおおおおおおおっ!!! ぐぅおおおおおおおおっ!!!」


 うるさい。うるさすぎる。


 俺は間近で聞かされる爆音いびきに耳を塞ぐ。


 この状況でどうしてユランは寝れるんだ?


 疑問に思った俺は少しずつユランに近付き確認する。


 近付いたことで正体不明のおっさんはこちらを見るが、特に何をしてくるわけでもなく、いびき声を響かせながら葉巻を吹いていた。


 おっさんの吹きかけた煙が俺の顔面に直撃する。


「えほっ! えほっ! ざけんなっ、こいつ! おい、ユラン! 何でこの状況で熟睡でき――っ!」


 そこで俺は気づいた。


 ユランは耳栓をしていたのだ。


 煙も上の方に立ち込めているため、特に呼吸も問題ないらしい。


「ぐぅおっ、ぐぅおっ、ぐぅおっ! ぐぅおぐぅお!!」


「わっかんねえよ!! 何が言いたいんだ? つーかなんなんだよお前!?」


「だ、か、ら、守護精霊ですって!」


 すると突然おっさんは言葉を発し始めたのだった。


「おめえ、普通に喋れるじゃねえかぁああああっ!!」


「あっ!?」


 俺がツッコミを入れるとおっさんはやらかしたといった表情で口を半開きに開ける。


「…………ぐぅお! ぐぅおぐぅお!」


「いや手遅れだから!? 今更取り繕ってももう遅いから!!」


 俺がおっさんに指摘していると、ユランが異常に気付いたのか、目を擦って起きようとした。


「うるさいなぁ。ニコチン? ちゃんと警備してって……あ」


 寝ぼけ(まなこ)のユランと目が合う俺。


 事態に気づいたのか、段々とユランの顔が青ざめていく。


「おはようユラン。良い夢みれてそうだったな? なあ?」


 俺は言いたいことが沢山あったが、今は我慢して笑顔を作って聞いたのだった。




 ーーー




「それで? これはどういうことだ?」


 俺はハリセンを手に正座で足元を見つめる顔色の悪い二人に言う。


 一人は守護精霊を名乗った角の生えた禿げたおっさんだ。


 もう一人は先ほどまで爆睡をかましていた自称いびきをかかない乙女ことユランであった。


「いやぁ、どういうことと言われても……何て言ったらいいか……」


 気まずそうにユランは目を背ける。


 言い辛いことらしいが、俺としては関係ない。


 知ってることを洗いざらい吐いてもらうつもりだった。


「……あの~、自分からよろしいでしょうか?」


 おっさんが発言の許可をもらおうと手を上げる。


 俺は承諾するように頷いた


「はい。え~まずは自己紹介を。あっしはユラン姉さんの守護精霊ニコチンと申します」


 おっさんは俺の顔色を窺っているのか下手(したて)にでて話そうとしていた。

 

「ユラン姉さんから頼まれまして『性欲に(まみ)れた(けだもの)』が同じ家にいるため、私が寝る間、見守ってほしいと」


 ニコチンおっさんは言い終えると隣にいるユランを一瞥(いちべつ)する。


「ほぉ~、()()()()()()()……ね」


 俺は笑顔でユランの顔を見る。


 ユランは全身が汗を垂れ流して気まずそうに目を瞑っていた。


「ユラン~?」


 俺は笑顔のままユランに詰め寄った。


「す、すみませんでしたぁああああああああっ!!!」


 ユランは勢いよく頭を下げて謝り始めた。


「わ、私……男の人と同じ屋根の下で眠るの初めてだったのでつい……」


「誰が()()()()()()()だコラぁああああああああ!!」


「本当にすみませんでしたぁああああああああ!!」


 その後、平謝りするユランから事情を聴く。


 ユランは召喚魔法で契約した守護精霊ニコチンを呼び出し、夜の警備をお願いしたらしい。


 俺と同じ家で眠ることに警戒してたくせにおっさんと添い寝することには抵抗のないユラン。


 しかもこんないびき声を発するおっさんに何故警備を依頼したのだろうか。


「他の守護精霊には断られたんですよ~」


 泣きながら説明するユラン。


 肩身の狭そうに委縮するニコチンおっさん。


 彼は、他の守護精霊が断られて泣き崩れるユランを哀れに思い、仕方なく警備してたらしい。


「ニコチンだけが、私の気持ちに寄り添ってくれたのですよ~!」


 ユランはおっさんに抱き着きながら涙を流す。


 抱き着かれたおっさんは顔を赤らめハァハァと興奮していた。


 俺よりそっちのおっさんに警戒すべきだろ。


 ユラン曰く、守護精霊は自分に害を与えないとのことで全幅の信頼を寄せているそうだ。


 因みにニコチンがいびき声を出すのはモンスター除けの効果があるらしい。


 街中でモンスターいないのにやっても意味ないだろうに。


 ユランには今後、守護精霊を出さずに静かに眠るように言いつけた。


 本人は了承したものの、不安が残るだろうと思った俺は、後日業者に頼んでユランの部屋に鍵を取り付けてもらった。


 費用は俺持ちである。


 8万ガルドもかかってしまった。


 痛い! 痛すぎる!!


「嬉しいですぅ!! ありがとうございます!!」


 俺とは正反対に喜ぶユラン。


 こうして幽霊ハウスの騒音問題は無事解決したのだった。




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