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5.異世界生活45日目パート2

 雨の月 木の日 天気:曇り


 どうも葉加藤(はかとう)久太(きゅうた)です。


 結局俺はユランを家に泊めることにした。


 ノリちゃんたちみたいに馬小屋に泊まったらどうだと言ったら、


「嫌です!! どうしてまたお金のないときみたいな生活を送らなければいけないんですか!!?」


「お金がないからだろうがぁああああああああ!!」


「うわぁああああんっ!! 言われなくてもわかってるのにぃいいいいいいいい!!」


 俺が事実をそのまま伝えると、泣きながらまた土下座してきたので流石に可哀想になり、最後には俺が折れたのであった。


 彼女のプライドが馬小屋だけは拒否しているようだった。


「馬小屋は嫌で、配給はいいのかよ」


「食べ物に貴賤ないので」


 調子のいいことで。


 俺は心の中でつぶやいた。


 俺は異世界に来てから、食べ物を買うことが一度もなかった。


 何故なら配給は無料でもらえて、しかも不味くはない。


 それどころか下手な料理よりもおいしく、腹も満たされる。


 種類は少ないが、パン二つとベーコン、卵、サラダなど、ちゃんとした食事が配られるので、毎日かかさずもらいに来ていた。


 今もユランと二人で俺は配給をもらいに来ていた。


 配給が行われている場所はチャレンジタウンの南口付近にある広場だった。

 

 今日も同じ顔ぶれが見られ、浮浪者友達のみんなも並んでいた。


「あれ? キュウちゃん、その人は?」

 

 ノリちゃんが俺の隣にいるユランについて聞いてきた。

 

「ああ、彼女は――」


「漆黒にその身を包みしこの世の闇を払うべく天より使わされた一筋の希望の光、太陽の温もりが如く幸福をあまねく降り注ぐ存在、その姿を一目見ては心動かさずにはいられないまるで天使のような麗しさ、私が一目見れば惚れない人はいないこと間違いなし、たちまちその心を射止めてしまう罪な美しさ、紫電の髪は竜を表すが如く気高さの象徴! そう! 人は呼ぶ、私は誰? 皆が助けてと声を大にして叫ぶは救いのヒーロー! 私の名は英雄ユ――痛いっ!?」


「長いわっ!! お前そんなキャラなのかよ!?」


 俺はユランの頭をハリセンで思いっきり引っ叩いた。


「痛いですっ! どうして最後まで言わせてくれないんですかっ!?」


「逆に何であんな長ったらしい前口上言うんだよ? よく噛まずに最後まで言えるな」

 

 ポイッと俺はハリセンを捨てつつ、ユランの自己紹介に呆れる。


「だってこうでもしないと、みんなちゃんと名前を憶えてくれないじゃないですか」


「印象付けるためにやってるなら大成功だね。ドン引きだよ。二度と関わり合いたくないね」


 俺はユランを助けたことを後悔し始めていた。


 そんな俺たちのやり取りをノリちゃんとサブ、ケースケは遠巻きに見守っていた。


「えーっと、とりあえず並ぶ?」


 ノリちゃんに促され、俺とユランも配給の列に加わったのだった。




 ーーー




 俺たちは無事に配給を受け取り、みんな馬小屋まで移動していた。


「初めましてMs.(ミス)ユラン。俺の名前は倉野圭介(くらのけいすけ)。会えて嬉しいよ。君の瞳に乾杯」


 ケースケはユランに会うや否や、彼女の手を握り、ウィンクしてキザな自己紹介を始めた。


 口説こうとしているのか?


 長身のケースケが言うと傍目から見て悪くはないと思うが、いきなり口説こうとするなんて勇気があるなと俺は感心した。


「……キッショ!」


 対するユランは顔を歪めて嫌悪感を(あら)わにする。


「うええ~んっ!! そこまで嫌がらなくてもいいのにーっ!!」 


「あっ、逃げた……」


 ノリちゃんの言う通り、振られたケースケは泣きながら声を上げて走り出した。


「ケースケーっ! ……行っちゃったよ」


「……ボク見てくるね」


 俺がケースケの走り去った方を眺めていると、サブが言って追いかけ始めた。


 何だかんだみんな優しく、ノリちゃんも一緒に追いかけようとしたが、サブが大丈夫と言って一人で行った。


「それで? キュウちゃんの聞きたいことってなに?」


「アレスのことで、ユランが気になったことを言ってたんだ」


「はい。実は……」


 そこからユランは、チャレンジタウンに来るまでの経緯をノリちゃんに伝えた。


 魔王軍との戦いから、気絶してアレスの声を聞いたこと、気が付いたらここに移動していたこと。


 特に移動に関してはノリちゃんのスキルと同じか近い能力だと思い、何か知ってることはないかと配給ついでに尋ねに来たのだった。


「うーん、気づいたらここに来てたか……」


 ノリちゃんは難しい顔で頭を悩ませる。


「ノリちゃんのスキルと同じかと思ったんだけど……」


 俺は率直な感想を伝えた。


「そうだね。僕もそう思う。けど……う~ん」


 そこでノリちゃんは悩まし気に唸り始める。


「ノリちゃん?」


 俺はノリちゃんの様子が気になって声をかけてしまう。


「ああごめん。僕のスキル瞬間移動(テレポート)って女神様から授かったものなんだ。強力なスキルなんだけど……ユランさん?」


 ノリちゃんがユランに聞く。


「はい。なんですか?」


「ユランさんは魔王城付近で戦って気が付いたらこの街に来てたんですよね?」


「その通りです」


「それって()()()()()()()()


「……? どういう意味でしょうか?」


 ユランは質問の意図が掴めずに首を傾げる。


「あっ!」


 ノリちゃんが聞いている意味って、()()()()()()()()


 俺は意図を察してユランに聞いた。


「今日は雨の月、木の日だぞユラン!」


「は?」


 ユランは驚いた表情をする。


「何を言っているのですか!? だって今日は()()()()、雨の月なんて5か月後ですよ?」


 ユランは言う。


 そこで確信した。


 俺は詳しくなかったが、魔王軍と人類軍の戦いは5か月前に決着がついていた。


 結果は人類軍の敗戦である。


「人類軍は立て直しの最中で魔王城なんてとてもじゃないけど、近づけないはず……ユランさんはただこの街に移動したわけじゃなくて()()()()をしたって考えるのが正確だね」


「えっ? えっ!?」


 断言するノリちゃんと困惑するユラン。


「僕のスキルは時間移動……いわゆるタイムスリップはできない。もしそうなら明らかに僕より凄いスキル持ちだね。アレスくんは」


「時間移動って、本当に……?」


 困惑しつつもユランはノリちゃんの話を素直に飲み込んだ様子だった。


「初めてだね。移動系のスキルで僕より凄い人は……面白いね」


 結局ノリちゃんにもわかることはなかった。


 しかし、アレスという男の子の幽霊が俺やユランに接触してきたことには何か意味があるのではないかと推測していた。


「キュウちゃん。もしかしたら今後、またアレスくん繋がりで何か起きるかもしれない。心の準備をしていた方がいいかもね」


「嫌なフラグ立てないでくれよっ!?」


 話しているとサブがケースケを連れて帰ってきた。


 ユランは気にする素振りを見せなかったが、ケースケは借りてきた猫みたいに最後までユランに対して大人しいままであった。




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