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嫁御の蔵

 とある友人に聞いた話。


 彼の実家は田舎の旧家で、広い敷地には母屋と離れ、二つの納屋と大小一つずつの蔵があるそうだ。

 大きい蔵の方には、古い壺や掛け軸など、お宝とも呼べる品々が並んでいた。家長である友人の祖父はおおらかな性格で、蔵には簡単な鍵がかかっているばかりだった。祖父曰く、「本当に大切なものはそこには置いていない」から、壊れても紛失しても構わないらしい。そのため大きな蔵は子供達の格好の遊び場で、友人もよく探検ごっこを楽しんでいたという。

 しかしもう一つある小さい方の蔵は、一転して立ち入りを厳しく禁止され、入り口には厳重に鍵がかけられていた。小さい蔵は敷地のはずれにあり、周囲には蔵を覆い隠すように高い木がぐるりと植えられ、まるで蔵を封印しているようで気味が悪かったという。

 この蔵は、『嫁御の蔵』と呼ばれていた。

 この『嫁御の蔵』の由来について、友人の祖父は色々と話してくれたという。

 曰く、数代前の家長が家の繁栄のために狐の嫁をもらった。蔵はそのためのもので、今でも中で狐の嫁御が暮らしている。

 曰く、昔不出来な嫁を仕置のために閉じ込めていた蔵で、蔵に入るとすすり泣きが聞こえる。

 曰く、若い使用人の娘たちが寝起きしていたが、こき使われるばかりで嫁にも行けなかった娘たちの怨念を封印している。

「どれがほんとなのさ?」

 幼い頃の友人がそう尋ねると、祖父は神妙な顔で

「どれが本当でも構わん。とにかくお前たちが怖がって、あそこに近寄らにゃいいんだ」

 そう言ったそうだ。

 しかし、少しやんちゃな子供なら逆に興味を掻き立てられるような話だ。成長すれば、大人への反発から敢えて蔵に入ろうとするかもしれない。友人の祖父の発言はそれを煽っているようにも思えたが、友人やその親戚の子供たちは、言いつけを守り蔵に近づくことはなかったという。


 ・・・・・・・・・


「あそこには、本当にナニかいるからな」

「入ったこともないくせに、なんでわかるんだ」

 私が少々の物足りなさを込めて言うと、友人はしばし逡巡するように眉を寄せた後、口を開いた。

「人聞きのいい話じゃないが、実家はよく泥棒に入られるんだ。田舎だからセキュリティなんてあってないようなもんだし、どこの誰かは知らんが『小さい蔵には値打ちものがどっさりある』、なんて噂を流すバカがいて、それを信じるバカも多いんだ。で、そいつらはいつも、例の蔵の前で翌朝発見される。大抵、廃人状態でな。病院で元に戻る奴もいれば、一生戻らなかった奴もいるそうだ」

「……」

「まともに戻った奴らに話を聞いても的を得ないんだが、唯一はっきり口にするのは『女が蔵の中にいた』ということだけなんだ。あの蔵の中には、人に害を為すナニかがいるんだよ」

 友人はそう言って、んっ、と背中を伸ばした。

 彼は、来年からその実家を継ぐことが決まっていた。

「どうするんだ、それ」

「じいちゃんが死ぬ前までに蔵の真相が聞けたらいいが、そもそも知ってるかどうかわからんしな。まぁ、さわらぬ神に祟りなしだよ」

 俺の子供がデカくなるまでには、なんとかしたいけどな。彼はそう言って、肩をすくめて笑ってみせた。

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