石の光に導かれ巻き戻して巻き戻されて
興梠渚。26歳。気が付いたらこんな年齢になっていた。
小さいころは、将来は某美少女戦士のように強く美しく悪者と戦うんだ!
月の王国に住むんだ!ペガサスにのって空を飛びまわるんだ!だとか、鏡やウサギの巣穴それかもしかしたら衣装ダンスの奥を通って不思議な世界に行くんだ!なんて色々と夢を見ていたけれど、「月」は穴ぼこだらけの球体で王国なんかは存在しないし、羽の生えた馬はいないし、鏡を通ることもウサギの巣穴を落ちることもできやしない。ましてや、衣装ダンスの奥はあっという間に行き止まりだなんてことも、今やさすがにちゃんと理解している。
むしろ、ウサギの巣穴自体見たことがない。
ああ、現実は無常なり。変わらない毎日。変わらない世界。
何時の間にやらガラケーがスマホになり、パソコンもタブレットに取って代わられようとしてはいるけれどもそれはそれとして。
私自身の変わらなさは、大学を卒業してからより顕著になり、あっという間に26。
どこぞの誰かが、「女の需要はクリスマスケーキと一緒」なんて言ったのを裏付けるかの如く数年前から周りからは挨拶のように「結婚の予定はないの?」と聞かれるし、友人たちは次々と結婚を決めていく。ラッシュですね。おめでとうございます。
ところが年齢的には同じく絶賛売出し中のはずの私はというと、どうもそういったことに興味が持てずなんだか遠い世界の出来事のようにとらえてしまっている。
はぁ……
深く息を吐き、家路を歩く。一人暮らしのアパートではなく、20年以上も住んでいた実家への路。
今日は母の誕生日。出張続きでなかなか帰ってこれない父との約束で一人暮らしをはじめた今でも毎年母の
誕生日は実家で過ごすことになっている。
そうだ、ケーキ取りに行かなきゃ
道すがら商店街へケーキを取りに向かう。パティスリー三浦のケーキは絶品で、都内の有名ケーキ屋さんと比べても遜色がない。今年は薔薇をモチーフにしたキイチゴのクリームのケーキを頼んだらしい。
らしいというのは、出張中でもケーキを注文するのは父の役目だからだ。引き取りに行くのは私の役目。
そんなパティスリー三浦まであと少しという商店街の入り口に差し掛かったところで突然声をかけられた。
「お嬢さん、占いはいかがですか?」
占い?目線を横にずらせば、易者のおじいさんがこちらをニコニコと見ながら手をこまねいている。真っ白いひげのおじいさんだ。まるで、季節外れのサンタクロースみたいな。
そういえば、こういった炉端の占い師も最近はあんまりみないし、珍しい。
普段だったら素通りするところなんだけれど、あまりもの人の良さそうなその笑顔に思わずこちらも笑顔になる。掲げている1回500円の文字も安堵を誘う一因だろう。
「じゃあ、お願いします。」
ワンコインなら、いっか。そう思い、おじいさんの前に準備された席に座る。
「何か気になることとかはあるかな?」
「いえ、とくには。」
特に、知りたいこともなかったため、全体的な運勢を見てもらうことに。
「手相や姓名判断とかそういったものもいいんだが、お前さんにはちょっと変わった方法で占ってあげようか」
「変わった方法?」
「名前とか年齢とかそういった情報は一切言わなくていい。ただ、この袋の中から7つ。石を取り出しなさい」
その少しかすれた優しい低い声に促され、いわれるがままジャラジャラと石が入った袋の中に手を入れる。大小さまざまな石が入っているのがわかる。どれも角はとれていてひんやりとしていて触れていて少し気持ちがよい。
1つ、2つ、3つ
石を袋から取り出しては、促されるまま目の前のテーブルに並べていく。
こうして、並べていくとまるで魔法陣みたい……
六角形の頂点を描くように一つずつ石を並べていく。
4つ、5つ、6つ……7つ
最後の一つをその中心に据えたところで、おじいさんが再度口を開いた。
「さて、じゃあ始めるとしようか」
おじいさんが石を一つずつ順番に触っていく。トンットンットンッとリズミカルに。
私はその様子をただただじっと見つめていた。
全ての石を触り終えたところでさっきまで何も書いていなかったはずの石に不思議な光の模様が浮かび上がってきた。
その、あまりにも幻想的な光景にあっけにとられて石を眺めているとおじいさんがツラツラと語りだした。
「ふむふむ……、家族運 良好。良い両親に恵まれて育っておるの。今日は、母親の誕生日か。それはめでたい。金運。そこそこ。生活に困ることはないが、かといって大きくお金が入ってくるわけでもない。入ってくるだけ出ていき出ていくだけ入ってくるといったところか。」
ご名答。まさかの母誕的中に驚き内心拍手を送る。でも正直それよりも光っている石が気になって仕方がない。これ、どういう現象?不思議すぎて写真を撮りたくて仕方がない。
「健康面は現状良好。突拍子もないことが起きるだろうが心配はいらない。現状。変わらない毎日に嫌気がさしてるってところか。大丈夫。それは、今日までとなるだろう。明日からは怒涛の変化の波にのまれることになる。仕事運。今の仕事は悪くないがベストではない。すべてをやり直すスタート地点に立つ日が近づいておる。最後に恋愛運。16歳で最初の出会い。18歳で運命がかわり、20歳でゴールイン。」
そうして、ゆっくりと光が消えたのをみて急速に頭が冷えていく。変化の波も気になるし、母の誕生日や、仕事に対して日々思っていることを当てられたのはびっくりしたけれど最後の恋愛運に関しては完全に外れているとしかいえない。
「私、26だけど独身ですよ?」
「ほっほっほっ、わかっておるよ。」
「明日から怒涛の変化に、様々なことをやりなおすことになるだろう。出会いはその最中さなかに。まぁ、今のところあんまり恋愛関係には興味がないようだがな。」
「最後のこの石は君のものだ。変化の波に流されすぎないように。お守りだ。」
なんだか少し釈然としないけれど石を受け取っておじいさんに別れを告げる。
とりあえずこれはポケットにでも入れておこう。まずは、ケーキを受け取ってはやく帰らないと。
「お誕生日おめでとー!」
「ありがとー!」
親子二人の誕生日パーティー。父からは先ほど、母宛に電話があったらしい。
今はフィンランドにいるとのことで相変わらず、世界中を飛び回って忙しそうだ。
「そういえば、今日商店街の入り口で占い師のおじいさんがいてさ、」
買ってきたばかりのケーキを食べながら、今日の出来事を話す。
今年のケーキも実に見事。大輪の薔薇がお皿の上に咲いている。これ、ケーキなんだよね……どうやって作ったんだろう……
「明日から怒涛の変化の日々が訪れるとかそんなことをいろいろ言われたんだけどよくわからなかったんだよねー」
キイチゴのクリームが実においしい。あっ、バラの香りもうっすらとするんだ……
「それでね、占いに使った石をもらったんだけど……」
母に見せようと取り出した石が光始める。その真っ白い強烈な光に、辺りが飲み込まれるまでにそう時間はかからなかった。
ホワイトアウト
まぶしすぎて何も見えなくなったその数瞬後、私の意識もそこで途切れることとなった。
もう少し、ケーキ食べたかったな……
ジリリリリリリーン
けたたましい金属音が響き渡る。布団から手を伸ばし目覚まし時計を探しだし、振動している金属部分を時計の傘の部分にグイッと押し込む。ついでに伸びも一つ。そしてそのままゆっくりと目を開ける。
慣れ親しんだ天井。カーテンの隙間から差し込む光が朝が来たことを全力で主張していた。目覚まし時計を再度手に取り、後ろのスイッチを切る。傘の中にむりやり押し込んだ金属部分を取り出してふと気づく。
私、もう何年も目覚まし時計を使っていないのになぜこれが枕元にあるのか。
もう十年以上も、私は目覚まし時計を使っていない。目覚まし時計を止めるのに、スイッチを使わずこうやって傘のなかに押し込んでしまうから目覚まし時計がすぐに壊れるのだ。それを避けるためにガラケー時代から携帯さんにアラームはお任せしているというのに、一体なぜに貴様が枕元にいるのだ。目覚まし時計よ。
周りを改めて見回して合点がいく。慣れ親しんだ天井とは言ったものの、目に入ってくる光景は実家の自室。
そういえば、昨日は母の誕生日ということで実家に帰ってきたんだった。
思い出そうとすると、昨晩ケーキを食べた後の記憶がない。ケーキにアルコールでも入っていたのだろうか。アルコール耐性が限りなく0に近い自分ならそれだけで記憶が飛ぶこともあり得ると思い納得する。きっと、お母さんが気を利かせてアラームの代わりに目覚まし時計を引っ張り出してくれたんだろう。そんな母の気遣いに感謝をしつつ、着替えを探しクローゼットを開ける。中には今の私が着るには少し小さい感じのする服ばかり。これでは、着替えられない。
仕方がないから、昨日着ていたスーツに袖を通すが随分とぶかぶかしている。
昨日より少し痩せたかな……いや、そんなレベルじゃないだろう。痩せたというかこう……一回り縮んだような???
試しにと、クローゼットにかかっていた白いワンピースを手に取る。
どう見ても、自分のサイズよりも小さくて着られるはずがなさそうなのに驚くほどあっけなく背面のチャックも上まで上がる。ジャストフィット。ぴったりです。
本当に縮んだかもしれない。
いやいやいやいや、縮むってどういうことよ。
鏡がなく、全身チェックすることもままならない状態だけれども、とりあえずは部屋を出ることにした。




