再訓練(自主)
え~……
思いがけず1か月も開いてしまいました。
色々と誘惑に負けたというか、迷ったというか(笑)
ここまでは割と前には出来上がってはいたのですが、
その後の部分が気にかかり何度も手直ししていたために
結果として遅くなりました。m(__)m
追記 4/7 一部修正。
アルスタとの模擬戦から五日、マルストールとの会話から4日後。あの模擬戦闘からこの日まで、イクスフェスの練兵場で模擬戦を一切行っていなかった。
代わりに生身での体力強化や書庫での凱鋼機兵操縦関連の指導書の読書、模擬操縦席を使っての操作訓練を徹底的に行っていた。
つまり、彼女は自主的な再訓練を己に課していた。
何故そんな事を始めたかと言うと、やはり5日前の模擬戦が理由だ。あの戦闘の最中、機体の再調整後一度も無かった四肢の作動不良が再び起きた。
『つまり、機体調整だけでなく、私の操縦にクセがあり過ぎると言う事だ』
と、彼女は結論付ける。自分以外は特に出力調整をしている形跡は無く、特に不具合も見受けられていない。つまり「標準的な仕様」で他の者達は成果を出して居ると言う事だ。
『ならば、出力変更と言う小手先に捕らわれず、他者と同じ条件で機体を乗りこなせなければこれ以上の成長は見込めないのではないか』
それがこの数日で彼女が出した答え。
機体の調整だけで戦績が上がるような手軽な方法でアルスタに勝てた所で、別の機体に乗ればやはり勝てなくなるだろう。又は、アルスタも出力調整を行えば、更に強くなるだけだ。
結局、どこまで行っても自分の実力では勝てない。それでは意味が無いのだ。
だから彼女は一から自分を鍛え直すことを決めた。機体の出力調整も元に戻した。
咄嗟の時に機体に負荷をかけてしまうから齟齬が生まれるのなら、機体に負荷を与えない様な操縦をすればいい。
「だが、訓練所時代から治らなかった癖だ、そう簡単に改善は出来ないだろう」
と言う思いもある。出力を元に戻したら恐らく以前通りに負け続けるだろう。だがそれでも良い、とイクスフェスは思う。
これまでの勝利は所詮他人から与えられた物だ。自分自身の実力では無い。
機体の調整を自分だけ変え、相手の苦手とする戦法で戦い勝利する事に何の意味があるのだろうか。対等な条件の元、己の実力のみで勝ててこそ機士としての意味がある。
だから彼女は基本に立ち返り、愚直に訓練を繰り返し、機士としての力量を上げる事に努める。幸いな事に雑用しかない暇な機士。一から鍛えなおすには持って来いの環境だ。
「また、随分と地味な鍛錬してるさね、イクスは」
イクスフェスが練兵所に併設されている機士鍛錬棟で基礎体力作りの鍛錬をしていると、メイリーンが顔を出してきてそんな事を言った。
「地味だが基礎体力は機士にとって重要な要素だ。だからお前も来たのだろう、メイ?」
と、愛称でメイリーンの事を呼ぶ。すると彼女は軽く肩を竦め、
「アタイはそこまで真面目じゃないさね。ココに来るのは鎧鋼機兵が出払っている時だけさ」
「そうか……」
この練兵場には二十機の鎧鋼機兵が訓練用機体として常駐してある。
先にも述べたが、ゼスター王国は新興国だ。それも元は属州の一部地方都市でしかない。それが大陸を巻き込んだ大戦終結直後に建国したのだ。
建国から僅か三年で国の体裁を保てる程度に軍備を増強すれば、どうしても不足分が出て来る。各軍団に配備されている鎧鋼機兵の数はその機士の数に追いついてはおらず、新人機士の多くは一機を数名で乗り回しているのが現状だ。
当然普段の訓練などで機体が全く足りていない。元から足りないのだ。それを補うための集中練兵施設であり、各軍団の訓練はこの施設で訓練を行い、部隊から機体を持ち込み、足りない分は施設の機体を使用している。
しかし、集中型である為に、どうしても訓練時間は被る。元々一国の軍団全ての訓練を一ヶ所で賄おうという無茶をしているのだ。
当然二十機程度の数では足りないし、整備や修理の関係上、全機体がフル稼働している事はまず有り得えず、実稼働しているのは一二機程度だ。
結果として、各部隊からの機体持ち込み分を計算しても足りない事が良くあるのである。
「今日は予約が集中しているとかで二時間待ちさ。アタイはココでしか鎧鋼機兵に乗れない訳さ。大人しく順番待ちしている間の暇潰しさね」
言いつつ、イクスフェスの隣の機材を使用して肉体鍛錬を始めたメイリーンの様に、訓練日に機体貸し出しの申請をした物の、順番待ちでかなり待たされる事は日常茶飯事だ。
思えば彼女も相当不遇だ、と隣にチラリと視線を向けながらイクスフェスは思う。
訓練所時代の彼女の成績、戦績共にイクスフェスよりも上だ。アルスタ程の突出した技能は無いが、上位に食い込める技量がある。
近衛隊や第一師団などのトップクラスの実力が必要な部隊は流石に無理だが、第二や第三なら十分通用する技能がある、とイクスフェスは見ている。
しかしメイリーンが配備されたのは輸送部隊だ。このこと自体はそれ程おかしな事ではない。輸送部隊であっても、専属の護衛鎧鋼機兵があるからだ。
部隊の規模に比べて護衛機兵の数は少ない為、通常はある程度以上の技量がある機士が任命される。当初メイリーンも新造される鎧鋼機兵の機士として着任した。
しかし、全体的に鎧鋼機兵の数が足りていない現状では、新造機体の配属は後回しにされてしまい、実際に配備されるのは数年後になると言われている。
既にある機体は専任機士に優先的に宛がわれ、彼女は予備兵扱いで部隊の鎧鋼機兵には触る事すら出来ない。代わりに彼女に宛がわれたのは、索敵や伝令、特殊輸送など、多目的に用いられる機体――獣型鎧鋼機であった。
基本的に鎧鋼機士が鎧鋼機に乗る事は無い。兵装出来ない鎧鋼機が戦闘に投入される事は殆どなく、したがって操縦技量も動かせればいい程度であるので習得が容易だ。
戦場の主力として鎧鋼機兵に乗る為に専門の国家機関で訓練された機士に鎧鋼機を宛がうなど、大いなる時間と金の無駄だ。従って鎧鋼機の操縦者になるのは一般の兵士であるのが常だ。
しかし、現実問題として鎧鋼機兵に空きが無い事、加えて獣型はその殆どが鎧鋼機兵よりも移動力に優れ機動性も高い。つまり他の鎧鋼機よりは扱いが難しい。一般兵でも獣型鎧鋼機の操縦者は高い技量が求められるのが通常である。
要するに『折角の機体と機士を遊ばせておくのなら乗せてしまえ』と言う事らしい。
「まぁ、お陰でイクスみたいに暇を持て余す事も無く、任務に忙しい日々さね」
体を動かしながらメイリーンが笑う。実際、技量の高い者が操る獣型は重宝される。輸送の要として使われるのは甲虫型鎧鋼機だが、移動速度は鎧鋼機兵と大差ない。
四本足の獣型はそれよりも遥かに早い移動速度を誇り、人型よりも大型な機体が多く移動距離も長い。代わりに装甲が他の鎧鋼機よりも脆い傾向にあるという欠点もあるが。
その機体特性を生かし、各種方面への伝令文の輸送や少量の、だが急を要する物資の輸送などの任務が彼女に与えられ、実は配属された同期の中では一番多忙な日々を送っている。
「あの機体も悪く無いさね。高機動型のゼルファ機体よりも遥かに早いし運動性も良い。慣れるとグランツ機体じゃ鈍足に感じて仕方ないさ。でもアタイもやっぱり機士さね。鎧鋼機兵を動かしてナンボって所がどうしても、さ。だから時間がある時位は乗りたい物さね」
「そうか……そうだよな。機士なら人型に乗りたい物だな……」
メイリーンと並んで鍛錬しながらイクスフェスは頷く。この世界での風潮的に鎧鋼機乗りは鎧鋼機士よりも一段低く見られる傾向がある。
戦場での主力であるし、操縦者を選ぶ程の扱いの難しさから、どうしてもそういう意識がついて回るのだ。また、鎧鋼機は数日程度の講習を受ければ大体の者が動かせるという部分もこういう意識に拍車をかけている。
『鎧鋼機兵に乗れるが仕事が無くて暇を持て余す機士と、仕事があり過ぎて忙殺されて鎧鋼機兵に乗れない機士、か。正反対ではあるが、人事とは思えんな……』
訓練所時代からの付き合いと言う事もあるが、どことなく、卒所後の仕事に報われて居ない部分が自分と重なる思いがし、
「それなら……私の機体に乗ってみるか?」
と、気が付いたら口に出ていた。
「……は?」
「どうせ私は今日一日、身体鍛錬に充てるつもりでいるから乗る予定はない」
「い、いやいやいやっ!アレはイクスが貸与されているオルトルス様の特別調整機体っしょ!?いくら何でも他の部隊の人間を乗せたらダメさね!!」
「そんな訳無いだろう。新人機士にそんな物を貸してもらえるか。あのグランツは私を採用するに当たって他の部署から払い下げられた機体だそうだ。一般のグランツと何ら変わらん」
「で、でもさ、あの機体はアンタ専用なんだろ?他所の部隊の奴がそう簡単に乗り回したりしたらダメな物だろ!?」
「それこそ、そんな訳あるかだ。単にオルトルス様の配下で鎧鋼機士が私だけだから独占できているだけだ。本当に部隊色以外は他の部隊の仕様と全く同じだ」
恐らく、この辺りは他の機士達も勘違いしている所だろう。新人機士の身分で専用機体を宛がわれていると妬んでいるのだろうが、単に他に操縦者が居ないだけだ。
しかも、機体があるだけで部隊も無ければ鎧鋼機兵を必要とする任務も無い。
名目上は王都郊外で療養中の護衛戦力として充てられているのだが、オルトロスの館に駐機場も整備施設も無い為、実際はこの練兵場に常駐させてある。正直護衛戦力の意味は全くない。
従って、イクスフェスが訓練で乗らなければ大いなる場所塞ぎになっているのが現状だ。
「そう言う訳だから、メイリーンが乗っても何の問題も無い。オルトルス様からも特に禁止はされていないから文句を言われる事も無い」
「うぅぅぅぅん……しかし……」
それでも躊躇するメイリーンであったが、
「ハイハイッ!それじゃアタシが乗る!アタシが借りてもいいんだよね!?」
唐突に、シュバッ!と勢いよく手を挙ながらトーニャが現れる。
「うわっ!アンタどっからでてきたんだい!?」
「実は結構前からいましたー。ここン所、イクちゃンはココに引き籠ってるって聞いたから様子を見に来たら、何やら二人で筋トレ始めちゃったじゃン?何か話しかけにくくて様子見てたの!」
「ああ、そう……」
「そうなの!で、メイちゃんが乗らないならアタシが乗りたい!ウチの部隊、新人が乗れるのはエイバスだし、それも三人で乗り回しだし!鎧鋼機兵に乗れる機会は逃せ無いよ!」
と、イクスフェスに迫るトーニャ。彼女にしても切実な事だ。エイバスはこの国でこそ鎧鋼機兵の扱いになっているが、人型に見える形状だが本来は獣型鎧鋼機に含まれる機体だ。
鎧鋼機兵より一回り程小さいサイズに長い手と短い脚のズングリした、人と言うよりは猿に近いフォルムで、パワーはあるが動作が遅いので主に建築土木で使われる作業用鎧鋼機だ。
それをあえて鎧鋼機兵として部隊に組み込んでいるのも、鎧鋼機兵の数が足りていない新興国の悲しさと言う物だ。
「ああ、構わない。私としても自分が乗る機体を他人がどう扱うのか、と言う興味もある」
同一型の機体とは言え、鎧鋼機兵は個体によって微妙な差がある。従ってどうしても、同じ機体に乗っても操縦者次第で機体の動作に差が出る。
自分以外の人間が、あの機体をどういう風に扱うのかはやはり興味が湧く。
「え、ホント?やった!!コレでワタシも筋トレで時間潰ししなくて済む!」
「ちょっ……ま、待て!!先に話を振られたのはアタイの方だ!だから乗るのはアタイが先!アンタは後!!」
「えーっ、ズルくないそれ!?」
「ズルくない!横から出て来て先に乗ろうとするアンタの方がズルいわっ!」
やいのやいのと言い争いだした二人に、イクスフェスはヤレヤレと頭を振り、
「先に話を向けたのはメイリーンの方だ。トーニャはその後だ。これ以上そんなくだらない事で喧嘩するぐらいなら二人には貸さないぞ?」
と言うと、二人はピタリと喧嘩を辞め、わざとらしく肩を組み合う。
「うン、そうだねっ!何事にも優先順位があるもンね!」
「そうだな!悪いけど、アタイが先に乗るわ!直ぐ変わるから待っててくれさね!」
二人の現金な態度に苦笑すると、イクスフェスは自己鍛錬を中断し、彼女達を自分の愛機の元へと連れて行ったのであった。
少々短いのですが、この後の部分を入れると1万字越えるので、
ココで一回切ります。
次回はストックされていますので、明日にでも投下します。




